磁力の発見の歴史(近代)①~新しい地球像(磁気哲学)を提起しようとしたウィリアム・ギルバードの『磁力論』
磁力発見の歴史の最後は、ニュートンと磁力との関係に行き着くこととなりますが、今回から、そこに至るまでの近代の歴史に入っていきます。
〇ウィリアム・ギルバード
近代電磁気学の出発点に位置すると云われているのがウィリアム・ギルバードの『磁力論』。ギルバード自身の造語である「電気的物質(electricum)」「磁気的物質(magneticum)」が今にも使われていることからもそれが伺える。
ギルバードの生誕は1544年頃とされている。この時期にはコペルニクスの『天球の回転について』、ヴェサリウスの『人体の構造』が出版された時代であり、一方ではアリストテレス自然学、ガレノス医学、プトレマイオス天文学が動揺し始め、他方ではそれに代わるものとしてヘルメス主義や魔術思想が今なお力を有し、知的関心を集めていた時代であった。また、ポルトガル人が種子島に渡来したのが1543年、フランシスコ・ザビエルの来朝が1549年であることから、ヨーロッパ人の活動範囲がついに東の果てまで及んだ時代であったともいえる。
ギルバードの著述の主要な目的は、磁石の研究といった限られたものでなく、新しい地球像(磁気哲学)を提起しようとしたものであった。『磁石論』の冒頭には「これまでまったく知られていなかった母なる地球である巨大な磁石の高貴なる実体、またわが地球の特異で卓越した諸力をよりよく理解するために」と宣言されている。ギルバードにとっては、地球はアリストテレスの云うような冷たくて不活性な土の塊でなく「特異で卓越した諸力」を具有した高貴で生命的な存在であり、このことを明らかにするために『磁石論』が書かれている。
【ウィリアム・ギルバードの磁石論】
彼は電気的物質と磁気的物質がそれぞれ何であるのか、その違いは何に由来するのかという問題を巡って、特異な物質観と地球像を展開してゆくこととなる。
ギルバートの特徴的な見解を列記すると
・鉄及び鉄に同質の磁石は地球の真の成分(地球に同質な土質物質)である。
・遺稿の『世界論』では、「土・水・空気・火」が月下世界の四元素であるというアリストテレス理論を否定し、「火」は元素でなく、「空気」「水」は地球の発散物であり、「土」だけが元素であるとしている。
→ギルバードにとって「土」からできる鉄と磁石が月下世界において特別に優越した基本的な存在であることを意味している。
・地球の磁石の極は地球の極を注目し、地球の極に向って動き、地球の極に従属している。
・地球は磁性体であり磁石である。
・これまで知られてきた地球上での磁石・磁針のふるまいを「磁気運動」という概念にまとめ上げて整理・分類
→1.「接合」を「引力」から区別
2.地球そのものもこれらの運動を自然運動として有していると見做した。
3.「志向(磁石の指北・指南性)」を単に地球上の各点で磁針によって観測される事実として見るだけでなく、地球が大きな球形の磁石であるという観点から、地球上の磁石の母なる地球磁石への適合として統一的に説明しようとした。
・日週運動があるからこそ、地球の表面では昼と夜が交代し、太陽の光と熱が、そして潮の満ち干がまんべんなく地表全体に行き渡り、人間や生物の生命が維持されるようになっている。
等が挙げられる。
ギルバードの功績としては、
第一に、電気学と磁気学を分離し、検電器をつくり出すことにより実験電気学を定礎し、更に発散気を介した近接作用として電気力のモデルをつくったことで、実験と理論の両面でその後の静電気学の出発点を築いたこと。
第二に、地球が1個の巨大な磁石であることを見抜き、地球磁気学をつくり出したこと。
第三に、地球が本源的形相として有する活性的な存在であるという磁気哲学を提唱することで、その半世紀前に生まれた地動説に求められていた地球の自己運動の自然学的ないし形而上学的根拠を、曲がりなりにも与えたこと。
以上3点がある。
【参考】山本義隆著 「磁力と重力の発見」~3.近代の始まり~
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