磁力の発見の歴史(近代)⑧~ロバート・フック:重力と磁力を事実上同一視していた
ロバート・フックは、イギリスの自然哲学者、建築家、博物学者であり、王立協会フェローに所属した。特に実験と理論の両面を通じて科学革命で重要な役割を演じたことで歴史に名を残している。
〇ロバート・フック(1635-1703)
フックの初期の仕事としては、真空ポンプを制作して空気と大気圧についてのボイルの研究を助け、気体の圧力と体積についての「ボイルの法則」の確立に寄与したことが知られている。
フックは重力を原理的な(還元不可能な)作用として認めている。それは、全ての物質は無性質で不活性で受動的とみる機械論の原則からの明白な逸脱であった。
デカルトが慣性の法則を正しく定型化して以来、惑星の公転にとって必要なのは、ケプラーのような軌道接戦方向への推進力ではなく、中心物体(太陽)の方向に軌道を曲げさせる力であることが既に明らかになっていた。その力に対してフックは、宇宙空間に充満する流体媒質の密度勾配という機械論的近接作用モデルと中心物体の性質としての引力という遠隔作用モデルの両論を併記している。機械論の原則的な立場からすれば、後者のモデルは退けられるべきものであるが、フックは必ずしもそうは見ていない。フックがデカルト主義と機械論の原則に教条的にとらわれることなく柔軟に思考できたのは、ギルバードの「磁気哲学」とベーコンの「実験哲学」の影響を強く受けていたらであった。フックは己の科学の方法を「機械論的・実験哲学」と称し、デカルトとベーコンの両方の顔を立てている。
【ロバート・フック著:ミクログラフィア】
しかし、フックが実際にやっていることは、重力や磁力の伝搬のもっともらしいからくりをでっちあげる素朴機械論の道ではなく、重力と磁力の存在を経験事実として受け入れ、そのふるまいや性質を実験と観測によって探ろうとする実証科学のゆき方であった。
フックにおいて特に著しいのは、磁気重力論が額面通りに受け取られていることである。1664年の王立協会の会合でフックは、地球の重力が磁気的なものである可能性(フック自身、この時点では重力と磁力を事実上同一視していたようである。)を語っている。
重力を磁気的なものと見るフックの見解は、ギルバード以来の磁気哲学を踏襲したものであるが、同時に、フックの場合には1664年の彗星観測の経験が大きい。フックは太陽が彗星に及ぼす力に引力だけなく斥力まで含めており、その意味では「万有引力」と相当異なる。実は、それは、実際に観測された彗星の運動を「合理的に」説明する必要に迫られてのものであった。それゆえ、フックはそれまでの磁気哲学が語っていた以上に、重力と磁力に強い相関を見ていたのである。
【参考】山本義隆著 「磁力と重力の発見」~3.近代の始まり~
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