『次代を担うエネルギー・資源』火力発電の可能性8 ~地域分散型エネルギーシステムの実現に向けて~小火力発電の可能性~』
こんにちは。
当ブログでは、3月11日の東日本大震災、福島原発の事故を受け、約1ヶ月に渡り「原発は必要か否か」のシリーズを扱ってきました。
原発がどれほど危険で自然の摂理に反するものか、また、今回の事故が自己の利益獲得のために原発を利用した政府やマスコミ、東電による人災であったということも分かりました。
さらに、私たちエネルギーの消費者が、傍観者となっていることも原因です。
一方、今回の福島原発の事故問題は、大規模な発電システムの欠陥を露呈しました。
非常時における対応と復旧に迅速に対応できるという意味でも、今後は地域分散型の小発電システムが必要ではないでしょうか。
東北地方太平洋沖地震~原発は必要か否か25~『統合なき専門家体制』の末期症状(暴走)-その2 私たち自らが事実を紡いで答をだし社会を動かす
◇『誰もが「当事者」として社会を動かす』土俵に乗ること
供給者≠消費者(使用者) →傍観者
↓↓
供給者=消費者(使用者) →当事者
福島原発は、東電区域外の福島に建設され、そこで発電された電力はすべて東京に供給されていました。それは、危険・厄介な原発を地方に押し付けている(傍観者)構造で、それが福島原発の安全管理の欠如にもつながっています。
とすれば、次代のエネルギーシステムは、「供給者=使用者」の視点に立った『地域分散型エネルギーシステムの構築』こそが答ではないでしょうか。
前回、「供給者=使用者」の視点に立った『地域分散型エネルギーシステムの構築』のための事例として、住民出資による風力発電「市民風車わんず」をご紹介しました。全国的に見ても、太陽光や木質バイオマスなど、地域の自然エネルギーを利用しようという動きは徐々に広がっています。
このように、消費者=供給者となり、地域毎で管理・運営するためには、現在のように大規模発電所から各地に送電するのではなく、自然エネルギーを利用した地域分散型の発電方式が求められます。
しかし、単独の自然エネルギーは、化石燃料や、自然の摂理に反した人工の原子力エネルギーに比べるとエネルギーの密度が小さいため、単独の熱源だけで賄うのは難しいです。
それでは、どうすればいいのでしょうか?
◆◆◆地域に適した、多種多様な熱源に対応できる発電方式が必要
地域特性に合った自然エネルギーも利用しつつ、多種多様な熱源(木材、地熱、海洋温度差、太陽光、都市ガス、工場の排熱など)が利用できる発電システムが必要になります。
『次代を担うエネルギー・資源』火力発電の可能性7~「これからは、エネルギーの消費者が供給者になること」~
地域分散電源のエネルギー統合システムにおいて、地域単位で導入していける小火力発電の可能性と日本において自給可能な熱源の追求を続けていきたいと思います。
◆◆多種熱源を電気エネルギーに変換するには?
熱エネルギーの電気エネルギーへの変換には、エンジン(原動機)が用いられます。
エンジンは、大きく分けて内燃機関と外燃機関の2種類に分けられます。
エンジンの分類表
リンクより
<内燃機関と外燃機関>
画像はリンクよりお借りしました。
・内燃機関
石油や天然ガスなどの燃料をシリンダー(気筒)の中で燃焼させ、発生したガスそのものがピストンを押すなどして動力を生む機関のこと。ガソリンエンジンや、ディーゼルエンジン、ジェットエンジンなどがこれに属する。使用できる燃料が、ガソリンや都市ガス(天然ガス)など、純度の高い液体燃料か気体燃料に限定される。
・外燃機関
石炭や石油などの燃料をシリンダー(気筒)の外で燃焼させ、その熱で水などを沸騰させて高温・高圧の蒸気をつくり、蒸気がピストンを押したり、タービンを回すなどして動力を生む機関のこと。蒸気機関(レシプロ式蒸気機関)や蒸気タービン(汽力)がこれに属する。(また、蒸気を用いないスターリングエンジンも外燃機関に属する。)外から熱を与えられればいいので、燃料・熱源が限定されず、石炭やバイオマス(生物資源)といった固形燃料も利用できる利点がある。(原子炉を使った原子力機関も外燃機関の一種であるが、熱源が原子力に限定される。)
エンジンにより得られた機械的エネルギーを電気エネルギーに変換するには、内燃機関、外燃機関とも電磁誘導を用います。電磁誘導についてはこちらをご参照ください↓
『次代を担うエネルギー・資源』火力発電の可能性2~日本の火力発電・火力発電ってどんなもの3~
つまり、多種熱源を電気エネルギーに変換することができるものは、外燃機関に限られるということが分かりました。
外燃機関の中で、地域分散型発電に適しているものはどれなのでしょうか?
◆◆外燃機関の中で、可能性のあるエンジンは?
リンクを参考に作成しました。
◆効率の悪い「蒸気機関」
蒸気機関は、1769年、スコットランドの数学者・エンジニアであるジェームズ・ワットが開発しました。
産業革命・工業化社会の原動力になるとともに、燃料である石炭を時代の主役に押し上げ、20世紀中盤まで蒸気機関車に用いらましたが、小型軽量化が難しく、19世紀から20世紀にはいる頃から、電気動力・内燃機関動力が発達をしはじめました。
蒸気機関は、ボイラー,復水器などの付帯設備が大きいこと、エネルギー効率が悪く重量に対する出力が低いこと、起動・停止に手間がかかることなどが災いして、地位の低下を余儀なくされました。
外燃機関では燃焼によって得た熱エネルギーを動作流体(水蒸気やガス)に移動させる必要があります。これにはボイラーや熱交換器が利用されますが、この部分での熱のロスが大きな問題になります。これらの顕著な例が蒸気機関でこの部分でのロスがあまりにも大きいため、現在ではほとんど使用されていません。
リンク
蒸気機関は、熱効率の悪さから現在ではほとんど使用されておらず、次代のエネルギーシステムとしての可能性は低いということが分かりました。(※熱効率とは、入力した熱量に対する出力仕事の割合のことです。)
◆大型利用の「蒸気タービン」
蒸気タービンは熱効率が比較的良いため、現在、日本の火力発電所で最も多く用いられており、全体に占める割合は92.8%に達しています。(また、蒸気タービンは、ガスタービンと組み合わせることで熱効率をさらに高めた「コンバインドサイクル」にも用いられています。)
↑川越火力発電所
(総出力480.2万kW [1・2号機の140万kW(70万kW×2)、3・4号系列の340.2万kW(170・1万kW×2)] で世界最大級の火力発電所)
しかし、蒸気タービンは、大型にしないと高い熱効率が得られず、大規模な設備を必要とします。そのため、地域分散型発電にはあまり適さないと考えられます。
◆実用化の進む小型・高効率の「スターリングエンジン」
産業革命のころ、蒸気機関が全盛であった当時、高温・高圧の水蒸気を利用したボイラーの爆発事故が多発していました。そこで1816年、スコットランドの牧師ロバート=スターリングが、空気を媒体(作動ガス)とする安全性の高いエンジンとして、スターリングエンジンを発明しました(当時は“熱空気エンジン”と呼ばれていた)。
その後、発明された自動車用に適した小型のディーゼルエンジンなどに押され、特殊な分野にしか用いられてきませんでしたが、近年、小型で熱効率が高く、熱源を選ばないエコでクリーンなエンジンとして見直され始めています
外燃機関といっても、媒体に蒸気ではなく気体を用いるため、他の外燃機関に比べて低い温度でも作動させることができるという特徴があります。(媒体には発明当時は空気が用いられていましたが、現在は分子量が小さく、熱効率を上げられる窒素や水素が用いられています。)
スターリングエンジンはどのようにして作動するのでしょうか?
熱効率を上げるためには大型化する必要がある蒸気タービンとは逆に、小型で熱効率が高いとは、どういうことなのでしょうか?
◇スターリングエンジンの作動原理
空気は暖めると膨張し、冷やすと圧縮します。スターリングエンジンはこの空気の性質をうまく利用して動いています。
スターリングエンジンを動かすためには90度の位相差をつけた2つのピストンと温度差をつけた2つの空間(シリンダー)が必要です。
2つのシリンダーをそれぞれ加熱・冷却し、内部のガス(作動媒体)を膨張・圧縮させることで、ピストンを動かす。
ピストンの往復運動を、クランクを利用して回転運動に変える。
フライホイール(弾み車)で回転力を保持し、滑らかに回す。
リンク
このように、高温側と低温側という温度差があれば作動するということが分かります。
(理想的なスターリングエンジンの熱サイクルは理論的に最高の熱効率を有するカルノーサイクルと等しくなり、高温側と低温側の温度差が大きいほど熱効率は高くなります。)
◇スターリングエンジンが小型・高効率な理由
上の図は、エンジンの出力と熱効率の関係を示したものです。
スターリングエンジンの熱効率は50kWあたりまでは他のエンジンに比べて高い熱効率となっていますが、それ以上になると熱効率はほとんど上がらず、出力の上限は100kW程度となっています。ある程度の熱効率を保ったまま、出力を上げることはできないのでしょうか?
◇高出力化は可能か?
・概念設計による出力20,000kWのスターリングエンジン
スターリングエンジンを交通機関の主動力源として適用可能性を検討した例を紹介する。図は大型船舶用スターリングエンジンの概念図である。出力は20,000 kWであり,経験則やシミュレーション計算を利用して概念設計を行った。本エンジンは,同出力レベルのディーゼルエンジンと比べて高さ寸法は概ね同じであるが,クランク軸方向の長さが約2倍の寸法となっている。また,熱効率についても,現在のディーゼルエンジンに対する優位性は確認されなかった。スターリングエンジンは,比較的低い出力レベルにおいて高い熱効率が得られやすいという特徴がある。
しかし、エンジンを大出力化する場合,圧力容器構造の制限によってエンジンの構造部材の肉厚が増大し,それに伴う熱損失が増大してしまい、効率が悪くなってしまう。
圧力容器構造と熱交換器の強度の兼ね合いから、比較的低い出力(数百kW程度)が適している。
・熱エネルギーを回転力に変えるという意味では、スターリングエンジンの方が高効率の物が製造可能ですが、装置の体積あたりの出力が小さく、大出力にしようとすると極めて大型で高コストになるということで、総合的な費用対効果はディーゼルや蒸気タービンに劣るために通常使われません。
リンク
大型化⇒圧力に耐えるため肉厚が増大→熱損失大→熱効率低下 つまり、「小型で高効率」ではあるが、「大型化は困難で、できたとしても低効率」であり、数百kW程度の小型のものが適しているということが分かりました。
一台あたりの出力はそれほど大きくありませんが、熱効率は高いため、複数台用いればよく、地域分散型エネルギーシステムとしての可能性が感じられます。
◆開発化されている小型・高効率の「蒸気スクリュ」
2007年、仕組みは蒸気タービンと同じですが、タービンの代わりに小型のスクリュを用いた新技術により、小型高効率の蒸気発電が可能になったそうです。(「スクリュ式小型蒸気発電機」と呼ばれているそうですが、ここでは、「蒸気タービン」と比較しやすいように、「蒸気スクリュ」と呼ばせていただきます。)
「スクリュ技術が100kW級の蒸気発電を可能に(2007年)」
少量の蒸気でも高効率な発電ができる小型蒸気発電機が開発された。少量・低圧蒸気を電気エネルギーに転換できることから,これまで蒸気有効利用の課題だった中小規模の蒸気プラントでの活用が期待できる。
・発電効率
軸流蒸気タービン式発電機とスクリュ式小型蒸気発電機『M.S.E.G.』の発電効率の比較を図-5に示す。100kWクラスの小型ではタービン式発電機は発電効率が30~40%程度であるのに対して,『M.S.E.G』は同じ蒸気流量でタービン式の1.5~2倍の発電量を得ることができる。
リンク
2007年に開発されたばかりの新技術ですが、現在は最大160kWまでの出力が可能になり、既に国内の工場や病院などで数件の導入実績をあげています。
しかし、まだまだ実績が少ないため、今後の動向に注目していきたいと思います。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
地域分散型エネルギーシステムの実現には、地域に適した、多種多様な熱源に対応できる発電方式が必要です。
その発電方式は、熱源が限定されない外燃機関であり、中でも、スターリングエンジンは小型・高効率であり、最も可能性が感じられます。
次回は、スターリングエンジンの最近の動向、導入事例を見ていきます。
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.sizen-kankyo.com/blog/2011/04/888.html/trackback