2010-07-10

『マグネシウムエネルギーは次代のエネルギーになり得るか?第6回~マグネシウム 再生の仕組み』

こんにちは 、『マグネシウムエネルギーは次代のエネルギーになり得るか?』の第6回です
 今回のテーマは、『マグネシウム 再生の仕組み』です。マグネシウムエネルギーの大きな特徴は、

・海水中に無尽蔵に存在するマグネシウムを媒体として、
・人類社会で無尽蔵に存在する太陽光エネルギーを循環させる

ことにあるのですが、その実現には、

・エネルギー密度が希薄な太陽光エネルギーをいかに高密度化させるか?
・エネルギーの循環サイクルをいかに構築するか?

大きな課題となります。 この難課題に対し、このマグネシウムエネルギーシステムでは、

①マグネシウム還元装置 
②太陽光励起レーザー
③海水淡水化装置

の要素技術が、東工大の矢部教授により提案されいます。これから数回にわたって、これらの技術を紹介し、疑問点の抽出からその可能性を検証していこうと思います。今回は、「①マグネシウム還元装置」です。

 動画は、太陽光励起レーザーを酸化マグネシウム粉末に照射し、酸化マグネシウムを還元しているところです。
 レーザーの焦点が酸化マグネシウムの表面に当たった瞬間、煙のようなものが出ていますね。これが蒸発したマグネシウムなのです。
(動画はリンクからお借りしました)

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(1)金属の精錬と還元反応
 金属は単体または合金として社会で広く用いられていますが、自然界では鉱石の一成分として存在します。自然状態で単体としての存在するのは希で、たいてい化合物として産出します。この化合物である鉱石から金属単体を取り出す操作『精錬』といいますが、精錬には酸化還元反応が利用されています。
 『精錬』を原理的にみれば、単体として産出するもの以外は、適当な還元剤を用い金属を還元することにあります。その還元のし易さイオン化傾向の大小によって大体決まります。一般にイオン化傾向の大きい金属は、イオン化傾向の小さい金属より還元に手間がかかることになります。主な物質のイオン化傾向は、

K>Ca>Na>Mg>Al>Zn>Fe>Ni>Sn>Pb>Cu>Hg>Ag>Pb>Au

となるため、マグネシウムはイオン化傾向が大きく他金属に比べ還元しにくいことがわかります。
(2)従来のマグネシウム還元方法
 現在、このマグネシウムの還元には、電解法熱還元法(ビジョン法)が一般的に用いられています。
① 電解法
 電解法では、塩化マグネシウム(MgCl2)を電気分解して金属マグネシウムにします。
 【 MgCl2 → Mg+Cl2 】
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 まず、海水に石灰乳を加えて水酸化マグネシウムを沈殿させます。次に、塩素を加えて塩化マグネシウムとし、その後脱水処理を行い含水塩化マグネシウムを精製します。この含水塩化マグネシウムに100~200℃程度の熱を加えると反応が起こり、酸化マグネシウムと塩酸になります。
 この方法は主にヨーロッパで採用されていた方法ですが、エネルギーとしての電気代が高く、必要となる炭素電極や塩素にコストもかかるため、現在ではほとんど使われていないようです。
② 熱還元法(ピジョン法)
 電解法に代わり、現在主流となっているのが熱電解法(ピジョン法)です。この方法では、ドロマイト鉱石(MgCO3/CaCO3)とケイ素鉄(FeSi、Si75%)を加熱し、できたマグネシウム蒸気を冷却して金属マグネシウムにします。
 【 Si+2MgO → SiO2+2Mg 】
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 マグネシウムの還元には、通常約4000℃程度の温度が必要なのですが、触媒の使用により1200~1500度という比較的低温域で還元を行っています。
 この方法は主に中国で採用されている方法です。高温状態を作るための燃料として使うコークス(石炭)は、中国ではもっとも安価なエネルギー源だからです。中国は、このピジョン法によるマグネシュウムの精錬を1986年から始めたのですが、2008年のデーターでは、全世界の金属マグネシウム生産量の約8~9割(80万8000トンのうち70万トン)を中国が生産するようになっています。
(3)従来のマグネシウム還元法の問題点
 電解法では電気を大量に使うためコストが合わず、ピジョン法では、石炭を大量に使用します。石炭が燃焼すると、もちろん大量のCO2が発生します。CO2の削減目標を掲げる先進国では、このピジョン法採用は有り得ません。CO2排出量を気にしない中国だから出来る方法なのです。
 マグネシウムを日本で製造する場合も同様です。電解法ではコスト面で中国に到底太刀打ち出来ませんし、ビジョン法ではコスト面もさることながら、CO2の大量排出社会的共認を得られないでしょう。
 マグネシウムの新しい還元技術の確立は、日本のみならず、世界からも大きな期待が寄せられているのです。
(4)新しいのマグネシウム還元方法 -レーザーによるマグネシウム還元法-
 矢部教授のマグネシウムエネルギーシステムでは、太陽光励起レーザーを用いた還元法が採用されます。
 【 2MgO → 2Mg+O2 】
 触媒を使用しないで酸化マグネシウムを還元するには、蒸発潜熱や分解に要するエネルギーに打ち勝ちながら4000度という高温を実現しなければなりません。このエネルギーを単純に温度に換算すると2万度近くが必要になります。高温が要求される鉄の溶解炉(高炉)でも、炉内温度は2000℃程度なので、炉内で2万度の実現は、相当困難であることは容易に想像できます。出来たとしても、炉の熱が絶えず外部に放出してしまうため、大変非効率となります。
 そこで考え出されたのが、レーザーによる還元法です。レーザーは、エネルギーを局所的に、短時間に集中させることができるので、局所的に高温を発生させることが可能です。また、炉のように容器全体を暖める必要がなく、効率も良くなるのです。但し、太陽光励起レーザーは未だ200W級のレーザーしか開発されていないためリンク)、400W級の炭酸ガスレーザーで代替した研究が進められています。このレーザーによるマグネシウム還元装置は、既に研究開発され、実用化されつつあります。では、その仕組みをみてみましょう。
①回収された酸化マグネシウムにレーザーを照射します。
②すると、酸化マグネシウムは瞬時に加熱され蒸発し、酸素イオン(負イオン)とマグネシウム(正)イオンになります。
③この正負イオンに、電磁場をかけ、酸素とマグネシウムを分離します。
④電磁場だけではマグネシウムイオンが周囲の酸素イオンとすぐに再結合するので、アルゴンガスを吹き付け急冷し、別に用意した銅版上に蒸着させます。
 なぜ、アルゴンガスを吹き付けるのか?アルゴンは、高温・高圧でも他の元素と化合しないという、化学的に極めて不活性な物質だからです。
 マグネシウム還元装置では、このようにして酸化マグネシウムからマグネシウムを取り出しているのです。なお、矢部教授の実験では、懐中電灯の10分の1出力のレーザーで、酸化マグネシウムを数万度に加熱し、酸素とマグネシウムを完全に分離することに成功しているそうです。
 このように、レーザーを用いたマグネシウム還元法は、従来の電解法やピジョン法で問題となっていた、電気エネルギーの大量使用や、CO2の大量排出などを一気に解決してくれるのです。
(5)疑問点の抽出からその可能性の検証する
最後に、この新しいマグネシウム還元方法に対する疑問点を抽出し、その可能性を検証していきます。

・マグネシウムを冷るに使用するアルゴンガスは無くならないの?
・これって、エネルギーの循環サイクルに反してない?

→アルゴンガスは、空気中で、窒素、酸素に次ぎ3番目に多く含まれる(約0.9%)気体です。沸点は約ー186℃で、深冷分離という方法で空気から取り出します。気体は冷やすと自然環境下では液化します。その温度は各気体の固有で、空気を徐々に冷やし他成分を除去しながら-186℃の地点で液化するものを抽出すれば出来上がりです。蛍光灯や電球等の封入ガス、アーク溶接時の保護ガス、食品の酸化防止用充填ガスなどにも利用されている、ごくごく一般的なものです。
 このマグネシウムエネルギーシステムが実現すれば、発電電力で再度精製することができますし、他のガスと化合することが無いという大きな特徴を持つので、総量としては減ることもなく、エネルギーの循環サイクルにものっかってくるのです。

・レーザー約2万度って相当な温度ですが、いくら局所的であるとは言え、廃熱が問題にならないの?

大丈夫だと思われます。矢部教授の報告書によると、太陽光励起レーザーが酸化マグネシウムを還元する際の、エネルギー配分は、
 「レーザーのパワーを100に対し、蒸発パワー:80、放射損失:1、熱伝導:1」(右図参照、クリックすると大きくなります)
となり、その大部分は「蒸発パワー」つまり、マグネシウムの蒸発に使われ、「放射損失」つまり、空気中への放射はごくわずかです。2万度を単純にこの配分でわけると、放射される温度は約1%の200℃程度にしかならず、大した問題にはならないのだと思われます。

・太陽光励起レーザーを現状より出力アップさせることは本当に可能なの?

→矢部教授によると、金属の精錬としてレーザーを使用する場合、出力が400W程度ないと採算がとれないそうです。現状では200W程度です。太陽光励起レーザーについては、次回の記事で検証していきますので、楽しみにしていて下さい
今回はここまでです。「①マグネシウム還元装置」は、十分可能性が感じられることがわかりました。
次回は、いよいよ太陽光励起レーザーです。楽しみにしていて下さいね

List    投稿者 isgitmhr | 2010-07-10 | Posted in E06.マグネシウムエネルギーNo Comments » 

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