『マグネシウムエネルギーは次代のエネルギーになりうるか』第9回~実現可能性の検証~
次世代エネルギーとして期待されているマグネシウムエネルギー。
数回にわたりその仕組みを見てきましたが、今回はその実現可能性の検証を行います。
技術的あるいはシステムとして可能性を感じることができても、例えば、莫大な数の装置が必要であったり、設置出来ないほどのスペースが必要であったり、装置を作る原料そのものに限りがあったり、はたまた原子力発電のように自然の摂理に大きく反して人類に対して大きな負の遺産を残すことになるなどなど、本当に実現していくためにはあらゆる角度から検証していく必要があります。
ということで今回は、実際の日本のエネルギー消費量をもとに、その数値的にその実現可能性を検証していきたいと思います。
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(1)日本の年間エネルギー消費量(将来予測値)
まずは、検証の前提条件となる必要なエネルギー量を設定します。
次世代エネルギーとしての検証なので、将来のエネルギー消費量をもとにします。これは以前当ブログで検証しているので、その数値を用いるすることにします。(『次代を担う、エネルギー・資源』状況編11 ~まとめ1/2:必要量の予測~)
画像の確認
1965年~2010年の日本の総人口・総世帯数・GDP・そして、最終エネルギー消費の動向から予測した2030年の予測値です。
わが国の年間エネルギー消費量 : 1万PJ(ぺタジュール)(2030年予測値)
ちなみにこの量は1975年の消費量と同程度で、現在の日本のエネルギー消費量の約6割に相当します。
(2)日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要なマグネシウム量
マグネシウムのエネルギー密度(重量当りの熱量)は 25MJ です。よって、日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要なマグネシウム量は、1万PJ÷25MJ/kg=400Mt(メガトン)となります。
日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要なマグネシウム量 : 400Mt(メガトン)
(3)日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要な施設規模
①太陽光励起レーザー発生装置の総合変換効率
まずは、太陽光励起レーザー発生装置の総合変換効率を想定します。
過去の記事でも見てきたように、この装置はまず太陽光をフレネルレンズで集め、レーザー媒質に照射することで太陽光をレーザーに変換します。各過程でエネルギーロスが生じ、変換効率は低下します。
矢部教授は「マグネシウム文明論」の中で、太陽光レーザー発生装置の変換効率についても明記していますが、今回の検証では実用性を考え、これら数値にもう少しシビアな補正を加えることにします。
以上より、当ブログでは、
太陽光励起レーザー発生装置の実用性を考慮した総合変換効率 : 4%
と想定します。
②日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要な装置数
矢部教授の試算によると、フレネルレンズ4㎡、総合変換効率10%、つまり出力400W(太陽光エネルギーは1KW/㎡なので、4㎡×1KW/㎡×10%=400W)のレーザー発生装置300基を備えた施設で、年間50tのマグネシウムを精練できるとのことです。
当ブログでは変換効率を、10%ではなく、実用的な変換効率として4%程度、つまり出力160KW程度と想定するので、年間50tのマグネシウムを精練するには、300基×10%/4%=750基のレーザー発生装置を備えた施設が必要と想定します。上記(2)より、日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要なマグネシウムの量は400Mtなので、必要なレーザー発生装置数は、400Mt÷50t×750基=60億基ということになります。
日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要な装置数 : 60億基
③日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要な施設規模
太陽光励起レーザー発生装置1台につき4㎡のフレネルレンズが必要となります。よって、装置を設置するのに必要な施設規模は、60億基×4㎡/基=240億㎡=24000k㎡となります。
四国の面積が18300k㎡なので、四国の約1.3倍の設置スペースを要することになります。
こんなスペース確保出来るのだろうか?ちょっと現実的ではない数字ですね。
日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要な施設規模 : 24000k㎡
(4)日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要なレアアースの量
太陽光励起レーザー発振装置のレーザー媒質には、YAGレーザー媒質(イットリウムとアルミニウムの複合酸化物からなるガーネット構造の結晶)が使用され、ネオジム、イットリウムといったレアアースが使用されています。
矢部教授によると、1KW出力の太陽光励起レーザー発生装置には直径1cm以下で長さは10cm程度のYAGレーザー媒質が1本(35g)設置され、そのうちイットリウムの量は45%とのことです。
今回の試算は、400W出力(実用的には160KW出力)の太陽光励起レーザー発生装置で行っているので、35g×0.45×400W/1000W=6.4gとなり、1基当り6.4gのイットリウムが必要となります。
上記(3)より日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要なレーザー発生装置数は60億基となるので、必要なイットリウムの量は、6.4g/基×60億基=38400t、つまり約4万tのイットリウムが必要となります。
日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要なイットリウムの量 : 約4万t
同様に、ネオジムの含有量はYAG全体の1%なので、35g×0.01×400W/1000W×60億基=840t、つまり約0.08万tのネオジムが必要となります。
日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要なネオジムの量 :約0.08万t
日本における各レアアースの年間需要量は、イットリウム 500t、ネオジム 4000tです。
ということは、イットリウムは現在の年間需要量の80年分必要ということになります。現在イットリウムの主な利用先は、3波長蛍光灯の蛍光体、コンデンサーやレーザー機器や光ファイバーなどで、現代社会ではなくてはならない製品です。つまり、日本の年間消費エネルギーを賄う太陽光励起レーザー装置を設置するということ80年間これらの製品を生産出来なくなるということになります。
またネオジムは、現在の年間需要量の0.2年分必要となります。一見「これならなんとかなるだろう」という数値ですが、ネオジムは、現在ハイブリッドカーや各種家電モータにネオジム磁石として使用されており、その需要はここ数年世界的に急激に高まっており、将来的に物量を確保できるか大きな不安が残ります。
(5)装置コストの試算(参考)
矢部教授によると、試作段階の太陽光励起レーザー発生装置は1台50万円程度とのことです。よって、50万円/基×60億基=3000兆円必要ということになります。
日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要な装置のコスト : 3000兆円
日本の1年間の国家予算は約90兆円とすると、国家予算の約30年分の費用がかかることになります。
また、これはあくまでも太陽光励起レーザー発生装置だけの費用なので、実際は海水からマグネシウムを取り出す淡水化装置、マグネシウムを回収する施設の費用、装置を設置する土地代などの費用が必要となり、この数倍の費用が必要となります。
これも、現実的な数字ではないようですね。
(6)まとめ
マグネシウムエネルギーで日本の年間消費エネルギーを賄うには、膨大な設置スペース、レアアース、そして設置コストが必要になることがわかりました。また、この検証には日照時間は考慮されていません。矢部教授の試算がベースなので、おそらくモンゴルに設置した場合の試算結果となるのでしょう。ざっと調べると、モンゴルの日照時間は、日本の1.5~2倍となるので、実際マグネシウムエネルギーを日本で自給自足するとなると、単純に今回結果の1.5~2倍かかることになります。これでは、ベースエネルギーとしての実現可能性は、ほぼ皆無に等しいと思われます。
また、レアアースは、現状国内での生産はなく全てを輸入しており、その90%近くを中国から輸入してます。不安定な価格もさることながら、先日起こった尖閣諸島問題のように中国との間で問題が生じると、供給不能という事態にも陥ります。このシステムを実現するには、国内の都市鉱山にあるレアアースの回収網の整備や、リサイクルシステムの確立まで実現する必要があるのでしょう。
今回はここまでです。
次回は、いよいよシリーズの総まとめを行いますので、楽しみにしててくださいね 😮
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