2010-03-22

『次代を担う、エネルギー・資源』水生圏の可能性 3.藻から作る油の開発競争(中篇)~基礎研究を再開しているが、どこまで行けるか日本

前回は、藻類からつくる燃料の開発競争が米国を中心に進んでいることをみました。専門のWebサイトが立ち上がり、藻燃料の専門シンポジュウムが開催され、産業化への動きが加速しています。 
 
その動きの中で、面白い記事がながれました。藻類の商業生産プラントを稼動させている日本企業の培養サイトに、見学者が多数訪れているというものです。

藻類のバイオ燃料化に取り組んでいる米国のNPO法人・ABOが先だって開催した「2009年藻類バイオマス・サミット」のオプショナル・ツアーでは、DICの100%子会社、アースライズ・ニュートリショナルズ(本社:米国カリフォルニア州)のスピルリナ大量培養現場への見学会が実施され、世界各国から100名を超える参加者の大きな好評を博しました。

バイオ燃料用途としての藻類研究で注目されるDICグループのスピルリナ培養ノウハウ
-DICグループの約35年の長きにわたるスピルリナの大量栽培実績に高い関心-
(DIC株式会社プレスリリース2009年12月24日)リンク 
 
  algae206.bmp 
  アースライズ社のスピルリナ(藍藻の一種)の大量培養サイト(DICより) 
 
なかなか、頼もしいですね。 
 
日本の研究開発の動き、以下のように追って見ます。今回は1と2をとりあげ、次回は3と4です。 
 
1.地球環境産業技術研究機構の基礎研究を再開させたデンソー・慶応大学グループ
2.実証研究の段階に入った筑波大学・環境研究所グループ
3.実用化を最初から目標としている海洋バイオマス研究コンソーシアム
4.藻類の大量培養にノウハウをもつDIC(大日本インキ) 
 
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1.地球環境産業技術研究機構の基礎研究を再開させたデンソー・慶応大学グループ 
 
前回も載せましたが、改めて、研究開発と実用化のステップの表です。
 
  ポップアップです。 
 
日本では、油成分を生成する藻類の研究は、平成2年から開始されていました。
研究に参加していたデンソー基礎研究所のレポートから紹介します。 
 
微細藻類によるバイオ燃料生産(デンソーテクニカルレビュー Vol. 14 2009)から。

(財)地球環境産業技術研究機構が主体となって、 平成2年度から10年間継続した研究開発プロジェクト「細菌・藻類等利用二酸化炭素固定化・有効利用技術研究開発」においてその能力が実証された。
このプロジェクトの目的はCO2の集中発生源から排出される煙道ガス中のCO2を、光合成微生物、特に微細藻類を用いて有機物に変換し有効利用することであり、そのために適した微細藻類の探索、培養条件の最適化、微細藻類培養用のフォトバイオリアクターの開発、生産された藻体の有効利用法の開発、・・・・などが行われた。

トヨタグループの1社であるデンソー(旧日本電装)が、藻の研究をしているのです。
2つの藻類が、油成分を生成する有望候補として確認しています。

藻Botryooccus braunii は水中で数十から数百の細胞が塊を作り、その塊の中つまり細胞と細胞の間に重油相当(炭素鎖数30以上)の直鎖状炭化水素をはじめとする種々のオイルを最大で細胞乾燥重量の70%も作るユニークな特質を有するが、実はその存在は普遍的であり弊社基礎研究所に面した愛知池からの採取実績もある。 
 
世界中でも研究されている有名な生物だが、増殖速度が遅く屋外培養が難しい点が指摘されている。この生物の場合には、増殖と同時並行でのオイル生産ではなく、あらかじめ屋内等の条件の良い環境で細胞濃度を高めておき、屋外では太陽光を使ってオイル生産のみを行う形式が適していると思われる。
<レオンロザ注:Botryooccusは、ボトリオコッカスと表記される>

Pseudochoricystis ellipsoidea(Fig.3)は海洋バイオテクノロジー研究所が2003 年に温泉という特殊環境から発見した新属新種の炭化水素生産性を有する単細胞緑藻である。
クロレラの仲間のトレボキシア藻綱に属しており系統的にはBotryococcusと近縁だが蓄積している直鎖状炭化水素の炭素鎖数が17~20と軽油相当である点が異なる。
培養液中の窒素成分を枯渇させると細胞内に乾燥重量の30%程度の総脂質を蓄積することができ、その2/3は中性脂質、残りが色素や炭化水素であると考えている。
株自身に関する特許を出願しており、コンペティターがこの株を利用することはできない。
種々の培養条件を追究した結果屋外でも安定して培養できることを確認しており, その条件を普遍化すれば海外を含むさまざまなロケーションでの培養が可能であると予測している。
これら二つの株はそれぞれ利点、欠点を有しており、現時点ではいずれの株が有利かはまだ判断できないが、今後の屋外培養試験の成果が判断材料を提供してくれるであろう。 
 
   algae204.bmp
<レオンロザ注:Pseudochoricystisはシュードコリシスチスと表記される。大きさは5μm。特許はデンソーが保有している。>

藻の生成する油の成分を見てみましょう。下の図は、シュードコリシスチス等が細胞内に生成する油脂です。炭素鎖数が17~20(図の赤い部分)の脂肪酸が、グリセロールと結合して、中性脂肪の形をとっています。図は、HR BioPetroleum社からです。 
 
   algae205.bmp 
 
デンソーグループは、シュードコリシスチスをターゲットにして基礎研究を行っています。

油分蓄積の出発物質は光合成で蓄えられたデンプンである。デンプンからの種々の二次代謝産物(油分も含む)への代謝経路がわかれば、代謝の方向を特に油分へ向けることが可能になると期待できる。
種々の代謝産物の網羅的一斉解析をメタボローム解析と呼ぶが、この分野で世界的に有名な慶応大学先端生命科学研究所に属する伊藤研究員と共同研究をおこない、少しでも油分生産性を向上させる試みに取り組んでいる。
現状では1週間細胞を増殖させて窒素を消費させその後の1週間は窒素飢餓の状態で油分を蓄積させるというステップを設けており、一つの生産サイクルで2週間を要しているが、この期間を短縮させれば直接の生産性の向上につながる。
そこで、窒素が十分にある条件でも細胞を窒素飢餓と誤認させるような遺伝的改変を行い、生産サイクルを短縮化する試みを中央大学理工学部原山教授と共同で開始した。

シュードコリシスチスに「窒素成分が無くなった!」とだまし、でんぷんから油脂成分への転換を強制させようという研究です。
なにか、人間の身勝手のようにも見えますね。 
 
2.実証研究の段階に入った筑波大学・環境研究所グループ 
 
筑波大学の渡邊先生のグループは、ボトリオコッカスの可能性を追求しています。まずは、渡邊先生のプレゼンテーション資料から、ボトリオコッカスの特徴を見て見ましょう。資料は英文ですが、日本語にしてあります。 
 
  
 
第1回でも紹介しましたように、ボトリオコッカスは淡水性でコロニー(群体)をつくる藻です。このボトリオコッカスは、細胞外に炭化水素を滲み出す特徴をもっています。この炭化水素は、C2548、C3056、C4078というように親水基をもたない油、鉱物油と同じものです。石油製品では重油に相当します。 
 
一般に、植物の生成する油脂類は、必ず親水基部分をもつのに対して、石油は長い炭素の鎖に水素が結合したもの(炭化水素)で、親水基部分をたないのです。そこで、原油の成分類を植物油と区別して、鉱物油と呼びます。 
 
渡邊先生のグループは、4,485万円の科学研究費補助を2007年から2009年までの3年間に受けています。タイトルは、「炭化水素産生藻類による石油代替資源の開発に関する基盤技術研究」です。 
 
今年が、研究開発の3年目ですが、どこまで進んでいるのでしょう。
科学技術振興機構のニュースにその動きが紹介されています。
藻類の力でCO2排出量削減をめざすから。

「まず、実験室で生産効率を1桁向上させ、次に屋外プラントで実現することで、大量生産への道筋を示します。優れた藻類の株を見つけることが最初の鍵になります」 
 
藻類を知り尽くした男が切り拓く実用化への道筋 
 
室内の試験管・フラスコレベルの研究は目標に向かって順調に進んでいる。オイルを産生することで知られる緑藻類のボトリオコッカスを内外144の湖沼から採集し、オイル含有量と増殖速度の2点で優れた株を発見したのだ。しかも、CO2のよく溶けるアルカリ性の培養液でも培養可能な株だという。 
 
現在は、実験室内では増殖やオイル産生のための最適条件を把握することや、より高い増殖・オイル産生能を持つよう品種改良を進めている。また、屋外には試験プラントを設け、室内で得られた結果の実現に取り組む。 
 
実験室では光量や温度、栄養分を完全に制御できるが、屋外のデモプラントとなると、そうはいかない。 
オープンな環境では、雑菌の繁殖が問題になります。そこで、密閉した容器を戸外に置いて、1トン程度の培養から始めます」 
 
キャンパスの片隅に建てたビニールハウスに案内してくれた。直径1.5mほどのドーム型の透明な容器が中に設置されている。まもなくこれを使った本格的な培養実験が始まるという。
「もっと大きなプラントの準備も進行しています。日本には約30万ヘクタールの耕作放棄地があるそうですが、それをみんな藻類バイオ燃料生産に使えば、将来、日本が燃料輸出国になることだって可能です」

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ビニールハウス(右)の中に設置された屋外培養実験用のドーム型フォトバイオリアクター(左)。入れ子になった透明な2つの半球の間の空間に1トン近い培養液と藻類が注入される予定。

渡邊グループは、1トン(1000リットル)の屋外培養槽の段階にあります。
実証研究の段階に入ったといえますね。研究目標は、炭化水素(油)の生産効率を1桁あげることです。 
 
疑問点が1つあります。
1桁あげるという事は、ボトリオコッカスの周りの炭化水素の密度が高まる事です。ボトリオコッカスが厚い炭化水素(油)の幕で覆われるという事です。
そして、この炭化水素の厚い幕は、親水基をもちませんので、水をはじきます。水をはじくという事は、水中の栄養分が入って来ないことを意味します。
1桁あげる目標というのは、ボトリオコッカスを餓死させる目標のようにも見えます。 
 
デンソー・慶応大学の研究は、シュードコリシスチスをだます研究でしたが、こちらはボトリオコッカスを餓死させる研究のようにも見えます。
人間の身勝手にも見えますね。 
 
一方、研究予算が4000千万円強という規模で、米国の動きに対して、1桁少ないように思います。 
 
この研究は、鳩山首相にもプレゼンしたようですが、2010年度に大幅な研究費補助が行われるのかどうか、注目です。 
 
今回は以上です。 
 
次回に、残り2つの動きをみてみます。
3.実用化を最初から目標としている海洋バイオマス研究コンソーシアム
4.藻類の大量培養にノウハウをもつDIC(大日本インキ) 
 

List    投稿者 leonrosa | 2010-03-22 | Posted in E04.水生圏の可能性4 Comments » 

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コメント4件

 comet | 2011.03.05 3:10

記事、ありがとうございます♪
超新星爆発から、こんな風に現在の太陽系がかたちづくられていったのですね~☆
自らの重力に耐え切れなくなって爆発して、
その衝撃により物質の密度に変化が生じて、
また星が形成されていく・・・
その大きなエネルギーの流れの中で、
地球にいる私たちは、太陽中心部で起きている核融合反応によるエネルギーの恩恵を受けているのだと想像すると、
わくわくしてきます☆
太陽中心で起きている反応と、
宇宙の大きなエネルギーの流れ、
両者の間に何か繋がりが見えてきたら、面白いですね!
次回も楽しみにしています♪

 shimaco | 2011.03.05 3:24

comet さん
早速のコメントありがとうございます☆★
本当に大きなエネルギーの流れの中で、わたしたちの生命って生かされているんだな~って思いました!
太陽中心で起きている反応が、まずは地球のエネルギーにどうやってつながっているのか、その辺からつめていきたいと思います♪ご期待ください^^/

 rino | 2011.03.07 20:06

「秩序化される」ということが、「対象同士が引き合うこと」と「公転すること」によって成り立っているという点は非常に面白いですね!
そういった、壮大な世界の中で”生かされている”という意識は私達はあまり普段の生活では実感できませんから。。。
次回の太陽のエネルギーはどこから得ている(自分で生んでいる?)のか?気になります!
楽しみにしてます!

 shimaco | 2011.03.09 14:07

rino さん
コメントありがとうございます^^★
当たり前にあるものも、宇宙の秩序の中にあるということが実感できますよね!
次回も楽しみにしていてください♪
太陽の中で行われていること、それが地球までに届く過程にも、いろいろと面白いものがありそうです…☆

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