2010-04-05

『次代を担う、エネルギー・資源』水生圏の可能性 4.藻が生産する成分を丸ごと活用するのが理に適っている!

前回までは、石油の代替物として藻類から油脂成分を取り出そうとする先端の動きを追い、3万種ある藻類の中から、油脂成分を貯蔵する特定の種だけを選別して培養し、油脂成分のみを抽出する競争をしていることを紹介しました。
 
kasanori.bmp
*茎長が5~7cm、カサの直径が1~1.5cm. の巨大な単細胞緑藻のカサノリです。藻類には多種多様な種があるのですね。
「藻類画像データ(筑波大学生物科学系植物系統分類学研究室)」より借用させていただきました。
 
ところが、藻類も植物であり、自然の摂理の観点からは無駄なところは何もないはずで、特定の必要成分を活用するばかりではなく、藻を丸ごと活用するほうが理に適っていると言えます。
 
そこで、今回は、
1 藻類の2つの活用戦略
2 藻類をどのように丸ごと活用するのか。
3 丸ごと活用に向けての課題

を考えていきます。
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1 藻類の2つの活用戦略
 
油脂成分のみを取り出すパターン
 
これまでのシリーズで主に紹介してきたのは、【培養】 【収穫・抽出】 【精製】のプロセスを経て、藻の油脂成分から市場価値の高いバイオ燃料だけを作り出すことを考えているものです。
 
下図は、巨額のファンドを集めて先頭を走っている米国企業Sapphire Energyが考えているプロセスで、藻類から原油の完全な代替製品の製造を目指しています。
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Sapphire Energy から借用させていただきました。 
 
ところが、生成効率の高い種なら乾燥重量の60%の油脂成分を生成しますが、油脂のみを目的とすると残りのタンパク質や糖質は単なる搾りかす=廃棄物となってしまいます。
それに対して、次のように藻類の成分を丸ごと活用する戦略を考えている企業が存在します。
 
 
成分を丸ごと活用するパターン

【培養】から【収穫】までは前述のパターンと同じですが、収穫後、藻類の全ての成分を抽出してそれぞれに適した用途に活用する、あるいは、収穫したものをそのまま活用しようとしています。
 
引き続き「藻類の生産・活用フロー」に沿って、具体的に見ていきます。
 
 
2 藻類をどのように丸ごと活用するのか。
 
藻類の成分を抽出してできる「油脂」「タンパク質」「炭水化物」の活用方法は次の通りです。
 
油脂成分をバイオ燃料(バイオディーゼル)に
菜種油、パーム油、オリーブ油、大豆油など生物由来油から作られるのがバイオディーゼル燃料です。
このバイオディーゼル燃料を藻類が生成する油脂から製造するもので、人の食料植物と競合しない新エネルギーとして最も注目されている藻類の活用方法です。
 
油脂成分を化粧品他に
藻類の油脂も植物油ですから、他の植物油同様、サンオイル、クレンジングオイル、コールドクリーム、ベビーオイルなどの「化粧品」や潤滑油や溶剤などの「工業利用」が可能となります。
 
タンパク質成分を家畜飼料に

バイオ燃料屑を家畜飼料に・・・途上国の知恵
 
 この(2009年)10月8日からインドネシアのスラバヤで開かれていたD-8(後述)閣僚級会議は、バイオ・ディーゼル油を採油した含油微細藻の搾りかすを家畜用飼料として利用することを認可した。当面、インドネシアとマレーシアが先陣を受け持ち、徐々に加盟国に広げていくという。
(筆者注:D-8(Developing countries 8)は、先進8カ国のG-8に対抗して、1997年、トルコの呼びかけで結成されたイスラーム系発展途上8カ国の連帯組織。ほかにトルコ、エジプト、イラン、パキスタン、バングラデシュ、ナイジェリアが参加している。)
(中略)
 パームヤシがエネルギー植物として脚光を浴びるに従い、ヤシ畑拡大のために熱帯雨林が破壊されるようになった。そこで登場したのが油脂分を含む微細藻だ。高温多湿、日照時間の長いインドネシアなどにはうってつけの新エネルギー源植物になったが、問題は大量に発生する藻の搾りかすの処理。放置しておくと腐敗して悪臭を放ち、水を汚して土壌を汚染する。腐敗、悪臭のもとは、搾りかすに含まれる蛋白質だが、これをD-8研究チームは家畜の飼料とすることに成功した。
     「エネルギーフォーラム」最首公司(エネルギー・環境ジャーナリスト)さんの記事より

このように藻類の油脂の搾りかすに含まれるタンパク質を家畜飼料に利用する動きが始まっています。
これは乳牛や肉牛などの草食家畜が藻類の強固な細胞壁(細胞外皮)を分解する酵素をもっていることを利用して搾りかすを分解し、藻類のタンパク質を栄養源として活用するものです。
 
炭水化物を発電に
細胞壁(細胞外皮)などの繊維質(炭水化物)を燃やして熱回収(発電)することで活用しようとしています。
 
炭水化物をエタノール他に
現在は生産効率の面から糖質あるいはデンプン質を多く含むサトウキビ、トウモロコシなどの植物資源が選好されていますが、原理的にはバイオエタノールの原料は、炭水化物を含む原生生物由来の資源であれば何でもよいので、藻類の炭水化物(糖質・デンプン質)をアルコール発酵させればバイオエタノールの生産が可能となります。
藻類は強固な細胞壁(細胞外皮)をもっていますので、実用化はこれからという状況ですが、現在研究開発中のセルロース系エタノール製造技術(バイオマスからセルロースを分離し、セルロースを酵素などを用いて糖分に分解し、微生物などによってアルコール変換する)が確立すれば、活用範囲は広がっていくと考えられます。
 
 
藻類を成分抽出せずにそのまま活用する方法は次の通りです。
 
藻類バイオマスを固形燃料に
日本では、日本バイオマス研究所がバイノスという新種の微細藻類を培養・乾燥させて高熱量固形燃料を製造し、CO2を固定化しつつ発電所の燃料として使う技術を開発しました。(現在実用化に向けて事業パートナーを求めている段階)
バイノスは他の微細藻類に比べて葉緑素が多いため光合成能力が高く、発電のような物量がモノを言う用途では、増殖速度が速い特定の種が適合するようです。
 
藻類バイオマスを養殖漁業用飼料に
既にクルマエビなどの甲殻類、ハマグリ、アサリ、赤貝など二枚貝などの養殖に実用化されています。
自然界ではこれらの魚介類は藻類を捕食しているため、適応する種は多く、最も活用しやすい方法と言えます。
 
このように藻類は丸ごと活用すれば、液体燃料のみならず、新たな燃焼エネルギーや食料資源になる可能性をもっているのです!
 
しかし、課題もあります。
 
 
3 丸ごと活用に向けての課題
 
一番の期待は飼料・食料利用、そのために多様な種の解明へ
 
養殖漁業用飼料では、収穫した藻類をそのまま活用する方法は既に実用段階に入っていますが、成分分離をしての活用は緒についたばかりです。
それは、乾燥、強固な細胞壁の破壊、有毒な溶剤の使用と除去といった複雑な分離工程が避けられないためです。
シンプルに考えれば、藻類活用の近道は、収穫したものをそのまま利用することです。
その中には、東京ガスの「メタン発酵による藻類のバイオガス化」や三菱重工業の「微細藻スラリー燃焼システム」(微細藻を多量に含んだスラリー・泥水をそのまま燃焼させる方式)などの研究開発もありますが、
やはり、藻類に一番期待されるのは、養殖漁業用・家畜飼料や食料としての活用ではないかと考えています。
 
そのためには、全3万種のうち、ほんの一部しか活用されていない藻類をさらに解明し、収穫したものをそのままあるいは低加工で飼料や食料として活用できる有望株を見つけることが望まれます。
 
 
機械仕掛けの製造プロセスから生物的プロセスへ
 
また、成分分離においては、機械仕掛けの工業的なプロセスではなく、微生物による発酵、動物の消化酵素など自然の力を借りた生物的プロセスを組み込んでいくことが今後は必要だと考えられます。
既に分解困難なセルロースについては、シロアリの唾液に含まれる酵素やある種の発酵菌をつかって、分解・発酵させてエタノールを製造する試みもなされており、さらにこの領域の技術進化が望まれます。
 
30億年前から生存し続けている藻類の恩恵に浴するためには、もっと藻類のこと、微生物界のことを知り、自然の摂理に少しでも近づくことが必要なのではないでしょうか。

List    投稿者 mamayo | 2010-04-05 | Posted in E04.水生圏の可能性No Comments » 

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