2010-05-14

『次代を担う、エネルギー・資源』水生圏の可能性 8.藻から燃料、プロジェクトをどう進めるか

藻がつくりだす油脂(燃料)について、発見の歴史、藻が作り出す油脂の原理、研究開発、実用化の動きをみてきました。 
 
今回は、その最終回として、日本の今後を考えてみます。 
 
  algae802.bmp
  最も研究が進んでいる、筑波大渡邊教授が焦点を当てている微細藻・ボトリオコッカス
  ボトリオコッカスが、細胞外に油成分を分泌している様子を写した顕微鏡写真 
 
日本は、どの藻類に注目するのか、どのように研究開発と実用化のステップを踏んでいくのか、取組主体はどうするのか、等々です。日本の開発・実用化ロードマップですね。 
 
以下、最終回の構成です。 
 
1.藻類が生成する油脂類、その恵みに対する期待
2.研究開発は、実用化の一歩手前まできている
3.日本における開発・実用化ロードマップ(実用化への7か年計画) 
 
本文を読む前に、いつものクリックを! 
 
  
 
 

 にほんブログ村 環境ブログへ


1.藻類が生成する油脂類、その恵みに対する期待 
 
油脂類を生成する藻の発見は、1970年代、米国での国産原油減少、1973年の第一次オイルショックが契機でした。原油が輸入出来なくなる可能性が高まったので、先進国(米欧及び日本)で、代替エネルギーの研究がスタートしました。そして、油脂成分を生成する微細な藻類が発見されました。 
 
藻類は、光合成能力をもった生物(植物)です。光と水中の炭酸ガスとから、糖類を合成します。そして、この糖類を細胞の中に、栄養分として蓄えます。
蓄積する栄養分は、基本は多糖類(例えばでんぷん)ですが、一部の藻類は油脂に転換して蓄積しているのです。また、特殊な藻類では、油成分を細胞外に分泌するタイプも発見されました。 
藻類3万種の中に、油脂成分を生成する藻類が数十種類確認されているのです。
 
少し視野を拡げて、光合成生物(植物)を活用しているかみてみましょう。長い歴史の中で、自然の恵みとして、人類は、多種多彩に活用してきました。(下図) 
algae804.bmp 
活用の中心は、陸上植物と大型海藻類ですね。
そして、一部の微細な光合成生物は、培養生産して、有効成分を分離しています。藍藻類・スピルリナからの色素や蛋白質、苔類からの抗生物質の生産です。
しかし、微細な藻類は、現在殆ど、未利用です。 
 
その意味で、藻類からの油脂・燃料の生産は、今まで活用してこなかった、自然・微細藻類の開拓、フロンティアといえます。 
 
 
2.研究開発は、実用化の一歩手前まで来ている 
 
実用プラント段階に入った米国 
 
米国で、実用化の先頭を走っているのが、ビル・ゲイツ関連のファンドが投資しているサファイヤ・エナージ社です。 
 
サン・ディエゴ・ビジネス・ジャーナルがその動きを伝えています。

サファイヤ社は、18ヶ月に渡って南部ニューメキシコ州のLas Crucesで、100エーカー(40ha)の藻の培養サイトを操業し、採算性の検証をしてきました。
そして、現在は300エーカー(120ha)の培養サイトの建設に入り、今年の9月には完成します。
この建設には、1億450万ドル(約95億円)の連邦政府援助を獲得しています。
エネルギー省から5000万ドル、農務省から5450万ドルです。 
 
また、サファイヤ社は、カリフォルニア州Stocktonに、生物由来油脂のディーゼル燃料精製のプラントを2年前に建設し、試験的操業を始めています。 
 
精製プラントは、年間1000万ガロンの生産能力をもち、最終的には、8000万ガロンのディーゼル油生産を目指しています。
原料は、植物油脂、動物油脂、廃油、藻油脂の想定です。 
 
algae805.bmp
Stocktonの地域燃料生産プラント

リンク 
 
 
産学共同開発をスタートさせた日本 
 
4月中旬に、筑波大学の渡邊信教授を中心とした動きが、大きく報道されました。 
 
    algae806.jpg 
 
ブルームバーグ/「休耕田畑を油田に」-藻類でバイオ燃料生産、CO2排出半減視野に 
リンク 
 
NHKクローズアップ現代/夢の植物で新エネルギーを作れ~加速するバイオ燃料開発~
リンク 動画では後半に渡邊先生と藻がつくった油が燃える場面が出てきます。 
 
産経新聞/筑波大大学院教授・渡邉信さん 緑藻からバイオ燃料
リンク 
 
ブルームバーグの記事では、筑波大学が、民間企業と共同して、15億円の資金で実証研究をスタートさせることが報じられています。やっと日本でも、研究室実験から、屋外施設での実証研究の段階に踏み込みました。 
 
 
3.日本におけるプロジェクト・ロードマップ(実用化への7か年計画) 
 
藻からの燃料開発について、日本のロードマップ(実用化への道程)を想定します。 
 
日本は陸上(淡水藻類)と海洋(海洋藻類)の両方で 
 
米国は、アリゾナ砂漠に代表される乾燥地帯が、アリゾナ州、ニューメキシコ州、テキサス州に膨大に広がっています。この乾燥地帯では、穀物類が育ちませんので、この場所を『藻の生産地』に想定できます。
だから、陸上の藻類を目標にして、開発・実用化が進んでいます。 
 
対して、日本では、陸上の平坦地は、農業・工業・都市により利用されていますので、陸上の余裕地が少ない。但し、休耕田畑が相当存在します。
一方、周りには膨大な海洋領域が広がっています。 
 
日本の藻プロジェクトは、大きく陸上プロジェクトと海洋プロジェクトの両方を推進するべきでしょう。 
 
また、油脂を生産する藻類には、細胞内に蓄積するタイプと細胞外に分泌するタイプの二つがあります。
細胞内蓄積タイプは、藻を繁殖させた後に、その藻を分解させて油脂を抽出します。
細胞外分泌タイプは、分泌した油類を分離し、藻本体は次の生産を担ってもらうことができます。
藻を増殖させた後の油脂成分の取り出し型が違います。 
 
そのため、二つのタイプそれぞれで、研究開発と実証プラントの取組みが必要になります。 
 
さらに、増殖方法として、開放池で増殖させる方法バイオリアクター(増殖槽)で行う方法の二つを比較検証する必要があります。
集約すると、以下のようなプロジェクトの方向性になります。 
 プロジェクトの方向性
 淡水性藻類/陸上サイト(蓄積タイプと分泌タイプ、開放池作戦とバイオリアクター作戦)
 海水性藻類/海洋サイト(CO2発生源の近く・沿岸域で高密度に繁殖させる)
                   (遠洋で、粗放的に繁殖させる)
 
 
開発・実用化ロードマップ 
 
 algae803.bmp

ステップ1.複数チームによる研究・開発の実行(3~4年) 
 
国家主導型の取り組みと位置づけ、淡水性で2チーム以上、海水性で2チーム以上に対し、、研究開発費投じ、増殖方法、大量増殖の条件、油脂成分の分離手法を開発する。

ステップ2.複数地域での実証プラント(3年)
藻類の増殖は、地域の気候条件が係ってきます。実証プラントの段階は、気候条件の異なるいくつかの地域で行う。例えば、亜熱帯地域(沖縄、南九州)と温帯地域というように、気候・風土に合わせた取り組みとする。国費投入を前提にしながらも、地方の大学・研究機関と地域の産業界が参加する地域プロジェクトとするのがふさわしいと思います。 
気候風土の違い、陸上か海洋かとなりますので、地方主体のプロジェクトですね。

ステップ3.実用プラント段階 
 
沖縄から北海道、或いは、瀬戸内海・太平洋(沿岸/沖合)・日本海(沿岸/沖合)というように、地域地域にあった「藻プロジェクト」として、実用化していく。

実用化の目標は、現在使用水準で、日本の消費エネルギーの10%前後(30万haの休耕田畑等で4.5%、海洋系で5%以上)です。 
 
藻プロジェクトは、人類が今まで活用してこなかった、微細な光合成生物(植物)の恵みを本格的に引き出す、フロンティア・プロジェクトです。
地域地域で、藻類に対する知見を蓄積しながら、地域のエネルギーを生み出していくプロジェクトと位置づけたることで、日本全国に、仕事を作って行くことにつなげます。 
 
最後に、プロジェクト・スタイルについての考えです。
米国社会では、自己の成功が目標の社会なので、研究者はベンチャー企業を立ち上げ、国家資金と投機的資金を集めて推進します。そして、得られた知見は特許で囲い込みます。 
 
一方、日本は、みなの期待(社会の期待)をとらえて頑張る社会です。
だから、社会の期待を国家プロジェクト、地域プロジェクトとして表していくことが、成功への道筋だと思います。
また、得られた知見は、国内及びアジア諸国に公開(特許の無償公開)していくので良いでしょう。 
 

コラム/藻の油脂から化学製品の素材ができるか? 
 
原油からは、ガソリンや軽油を生産するだけでなく、化学製品の原料であるエチレン、プロピレンなどを生産しています。藻の油脂から、化学製品の原料、エチレンができるか気になります。
結論は、「エチレン等の原料を生産できる」です。藻の油脂を熱分解して、炭素数の少ない炭化水素に転換すればよいのです。
藻の生産する油(油脂)は、炭素数が20、30の大きな炭化水素、炭化水素分子です。
algae807.bmp
この大きな分子を、熱分解して、より小さな分子にしてやれば、軽油、ガソリン、エチレンが生成できます。
algae808.bmp
例えば、炭素数25個の分子を、2つに割れば軽油の成分、4つに割ればガソリンの成分、炭素数2個まで分割すれば、エチレンとなります。
これは、現在、石油精製プラントで標準的に行われている方法ですので、藻の油成分に合わせて改良するのは容易です。

List    投稿者 leonrosa | 2010-05-14 | Posted in E04.水生圏の可能性2 Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.sizen-kankyo.com/blog/2010/05/721.html/trackback


コメント2件

 へこへ | 2011.04.07 10:39

γ線は、物質が励起することによって、その物質毎に決まった軌道へ電子が移動することで放出するため、放射性物質固有のエネルギーがあります。そのため、割と容易に放射線から放射性物質の特定が可能です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
本文引用
放射性物質「固有のエネルギー」は、どのようにして特定することができるのか、超初心者向けに説明して頂きたいと思います。よろしくお願いします!!
表が見やすいですね☆

 tutinori | 2011.04.07 14:28

へこへさんコメントありがとうございます
ご質問の「放射性物質「固有のエネルギー」は、どのようにして特定することができるのか」ですが、大雑把に言うと、これまで測定してきた先人達が「物質毎にある程度同じようなエネルギーが出る」という現象を見つけた。ということにしかならないと思います。
そしてこの現象を論理的に説明ができる(捉える)ようにするために原子とか陽子とか中性子とか電磁波とかを考え出した、ということです。
では「なんで物質毎に固有のエネルギーが出るのか」を説明すると、おそらくこういうことだと思います。
原子核の周りを電子が電子殻と呼ばれるいくつかの軌道を周ってますよね(中学理科で確か習いましたっけ?)。電子が励起することでそういった軌道(エネルギーの高い軌道)に移り、また基底状態に戻ったときに光や色んな電磁波を飛ばします。γ線は電磁波ですから、このような原理で飛んでいきます。
どうやら物質毎に「その移る軌道が決まっている」から「固有のエネルギー」があるとしているのではないでしょうか。
(学者ではないので、不足な部分はあると思いますがおそらくこういうことだと思います。よけい分かりづらくなっちゃいましたかね^^;)

Comment



Comment