『水資源』の危機!!どうする?-⑥:2.水資源の危機とは 3)水資源(淡水)の減少:貯水による自然の水循環の破壊
前回の続きです 😀
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□貯水による自然の水循環システムの破壊_ダム
地域ごとに限られた降水量から利用可能な水資源を増やす為には、貯水などによる水資源開発で、利用できる淡水の量を増やす他ない。
降水量やその季節変動に関らず安定した取水が望める地下水は自然に貯水された有用な水資源だが、偏在性が高い。また、その多くは降水による涵養量の少ない帯水層に存在する為、涵養量を超えた使用を続ければ確実に枯渇する。既に世界各地の代表的な帯水層では地下水位の低下という形で枯渇が顕在化し始めており、地下水の緩やかな水循環は破壊され、使える淡水が減少している。
もう一方の代表的な水資源開発がダムで、降水を貯水することで、降水の季節変動(河川流量)の平準化、都市用水や灌漑用水の貯水、治水、水力発電等の目的で建設されてきた。規模の大きなダムでは年間河川流量の2~3倍の貯水量を持つものもある。2003年現在で世界各地に47000箇所ものダムが存在して利便性をもたらしている。
しかし、ダムはその規模から、河川や地中を循環する水の量に大きな影響を及ぼし、本来意図していた利便性を上回る損害を周辺地域や下流域に与え、むしろ自然の水循環の破壊によって、広域に渡る水資源の不足を加速してしまっている。
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写真:ダムによって形成された人工湖(ナセル湖)は琵琶湖の7.5倍の面積で、約1700億m3の貯水量。(日本最大の有効貯水容量をもつ奥只見ダムで4億5000万m3)
フォトライブラリーより:アスワン・ハイ・ダム
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①蒸発の促進
エジプト南部のナイル川に建設され、灌漑と発電に利用されているアスワンハイ・ダムによって形成された人工湖(ナセル湖)は、琵琶湖の7.5倍程の面積を持ち、約170km3という世界屈指の貯水量を誇る。その表面からは毎年10~16km3(平年ナイル川から貯水池に流れ込む量の25%)もの水が蒸発し、その量は日本の生活用水の使用量に匹敵する。
(2004年の生活用水:約16.2km3_国土交通省_日本の水資源)
写真_ウィキペディア:アスワン・ハイ・ダム
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②送水過程での水の消失
アフガニスタンのカジャキ・ダムは、第二次大戦後、ヘルマンド川の水の大半を貯水池に閉じ込めた。砂漠を耕す灌漑工事の為にに運河網が整備されたが、人工的な運河では砂漠の土中への水の浸透と暴露された水の蒸発により、1haあたり、昔ながらの灌漑の6倍の水を使用する結果を招いた。後の旱魃と、政変による放水の取り決めの反故で下流域の川や湿地や湖は干上がり、下流のイランとの水を巡る問題の火種にもなっている。
写真_ウィキペディア:ヘルマンド川
③氾濫原の破壊
ナイジェリア北部のアデジャ-ヌグル湿地は、毎年肥沃な水の氾濫がもたらす栄養と水で100万人近い人々の生活を支えていた。しかし、上流の灌漑プロジェクト用の複数のダム建設が川の流れを変え、湖や湿地が縮小し、夏季に川が氾濫しなくなったことで以前の生活は破壊された。また、大雨の際にダムの決壊を裂ける為に放流を行なったため、下流域に大洪水が起きるなどの混乱も生まれ、植生や生態系の変化に加え、新たな水害も起きている。
英国政府の援助機関の計算によると、前述の灌漑プロジェクトによる作物収入は低く、かつて湿地がもたらしていた農産物、魚、家畜、その他の生産物と比較すると、ダム建設以降の1haあたりの収入は以前の12%程度にまで減少しており、ダム建設は経済的な効果の点でもダメージに繋がっている。
④川底の上昇
中国の黄河は1tあたり40kgものシルトを含む。かつてその半分が海へと流れ出ていたが、氾濫を防ぐ為の堤防建設と流域のダムの取水による流速・流量の低下により、海までたどり着くシルトは1割に減少した。2000年代には堆積物で川床は年に10cm上昇し、堤防の高さの限界から運べる水の量が年々減少している。流量はここ50年で25%にまで落ちており、かつて無いほどの高さに達した天井川が堤防の外よりも20mも高い位置を流れている箇所もある。水の循環速度と流量を低下させて下流域の水取得に影響を及ぼすと同時に、氾濫のリスクも高まってしまっている。
写真_ウィキペディア:黄河
⑤ダムによる洪水
2000年の豪雨で起きたモザンビークの洪水被害の大きさの背後には、雨季の始まりに、上流のダムが貯水池をほぼ満水にしていたことによる、数十のダムの決壊があった。貯水の余力があればこそ増水の受け皿になるが、極力貯水をしているダムでは、緊急放水が遅れれば自然の洪水ではありえない量の水流れることになる。
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最も水を使用する灌漑用水の使用量自体が、人為的な貯水による蒸発や運河での消失によって、通常の数倍になって水資源の減少を産む。その為の取水で下流域では川や湿地が干上がり、水資源の不足と生態系の破壊が起き、地下水の取水を促進する。また、ダムによる洪水では、倍化された被害と水資源の流出が起こる。
鳴り物入りで立ち上がる大規模なダム建設には膨大なコストと資源が費やされる。しかし、広く流域全体を視野に入れると、往々にして利益を得るのはダム建設の従事者だけで、上記のようにダムが水資源の減少を加速する構造も孕んでいる。
前述のような事例から、大規模なダム建設は近年押さえられてきたが、水不足が叫ばれ始めた現在、水需要は高まってる。今一度ダムによる水資源減少の先例から、目先的なダム建設は解決策とならず、事態を悪化させる可能性を持つことを認識しておく必要がある。
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2回に渡ってお送りした自然の水循環の破壊を図解化すると以下のようになる。
参考
■『るいネット』
■『自然の摂理から環境を考える』
■『水戦争-水資源争奪の最終戦争が始まった』柴田明夫 著(角川SSC新書,2007年)
■『「水」戦争の世紀』モード・バーロウ、トニー・クラーク 著(集英社新書0218A)
■『ウォーター・ビジネス』中村靖彦 著(岩波新書878)
■『水の未来』フレッド・ピアス 著(日経BP社、2008年)
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にほん民族解放戦線^o^ | 2009.02.27 4:44
アメリカにとって「食糧」は軍事力と並ぶ戦略物資の一つである
★アメリカは、「食糧」を、軍事力と同等の戦略物資と捉えている
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