水資源の危機どうする?(番外編)~海水淡水化(3)
写真:世界最大の淡水化プラント_アルジュベール 森本組から引用
ヨルダンのアンマンで4月に開催された水知識会議で、イスラエルとパレスチナの技術者や経済学者、政治学者は、淡水化の環境的、地政学的、および社会的な影響に関して疑問を提起した。世界が化石燃料への依存を減らす方向へと進んでいる中で、限りある資源に頼る淡水化プラントの存在は微妙だ。
淡水化の改善技術として、化石燃料に代わって集中型太陽光発電を利用することも検討されている。しかし、アンマンでの水会議の席上、イスラエルとパレスチナの参加者は、淡水化とその潜在的な影響については未研究の部分が多いため、淡水化は水不足に対する多角的な長期対策の一部にとどめるべきだという点で一致した。
‘08/05/22ナショナルジオグラフィックニュースから抜粋引用
水資源開発の突破口のように喧伝される一方、深刻な水不足に悩む中東でも、海水淡水化には必ずしも諸手を上げて賛成という訳ではないようです。
2回に渡って海水淡水化の概要を押えましたが、今回は水資源の危機どうする?(本編)で扱った水資源の危機と照らし合わせて見てみます。
続きの前に応援よろしくお願いします。
水資源の危機
水資源の危機どうする?(本編)http://blog.sizen-kankyo.com/blog/2008/12/000453.htmlでは、市場拡大に端を発した水資源そのものの直接的な危機として、
水資源の過剰消費
水資源の循環系の破壊
水資源の汚染
を上げていますが、水資源を新たに作り出す海水淡水化もこの点での影響は免れません。
の水を作り出せますが、膨大なエネルギーを消費し、膜浸透法の前処理の薬品や5年で交換する膜、高濃度塩水、蒸発法の高温水の廃棄が必要となります。その為、施設近海の自然の浄化能力を超えた過剰な開発を行なえば の危機に見舞われてしまいます。
水資源を巡る国際紛争ではこれまでも爆撃や細菌投入などで紛争地域の限定的な水の手を絶つ攻撃が行なわれていますが、水資源をプラントに依存する事はそうしたリスクも高まります。
冒頭の中東の事例は、こうした側面を考慮してのことですが、海水淡水化はエネルギー・コスト的にも、環境的にも導入・維持できる国や開発できる量は限られ、限定的な利用に留まらざるを得ません。
水市場の拡大
海水淡水化は、本編でも扱った国際金融資本家による水支配や水市場拡大の問題とも密接に関連してきます。
現在中心的に淡水化施設を利用している中東のGCC諸国は、1980年代までは全ての電力・水道事業を政府直轄の公営事業として運営してきました。しかし、90年代からはオマーンやアブダビでの火力発電と淡水化の複合プラント(IWPP)事業の民営化を皮切りに、この分野で民営化と外資参入が活発化しています。
資源ナショナリズムが高まりつつある産油国ですが、この分野にはノウハウがなく外資が参入し易いからで、IPRやSUEZ、日本企業であれば丸紅、三井物産、住友商事、東京電力、中部電力が活躍しています。
海水淡水化は多大なエネルギーを消費する為、電力供給とセットでの開発が視野に入り、膜と原子力に技術を持つ日本を始めとして、CDM(クリーン開発メカニズム)を謳った原子力発電プラントとの複合施設も大きなビジネスチャンスとして浮かび上がってきています。
無尽蔵といっていいほどの海水が淡水として使えるようになる事、一般的には余りマイナスの情報も無い事から本編とは別に3回に渡って海水淡水化を見てきました。
しかし、エネルギーの大量消費と環境への影響もあり、その持続性には限界があります。水資源不足の解決策としの可能性は限定的で、特に水資源不足で深刻な影響を受ける貧困国には導入できない高い水でもあります。
水資源の危機が高まっていない日本では、淡水化の利用状況なども一般的にはそれ程認知されておらず、取り上げられる場合は日本企業の参入の可能性が高い事から、水資源問題の突破口のように扱われています。
しかし、実際のところ淡水化は裕福な顧客に対する、水資源・エネルギー市場拡大の側面が大きく、水資源の問題を突破する上では、市場原理に則った過剰消費、それを促す支配観念の脱却から取組む必要があるのだと思います。
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大腸がん | 2009.09.26 16:10
参考になりました。ありがとうございます。