2010-07-19

『次代を担う、エネルギー・資源』バイオプラスチックの可能性4~リグニンの利用とは?

前回まではバイオプラスチックの現状について扱いました。
そこでこれまでに分かった事を少し振り返ってみます。
 前回の結論は、 「バイオプラスチックは脱石油社会へつながる、有望な技術であるものの、実用化するにはまだ超えなければならない課題がある」というものでした。
例えば、原料にトウモロコシを使うと食糧や飼料の高騰を招いたり、セルロースを材料にすると燃えやすかったり、また木材に含まれるリグニンを使おうとしても純粋な形では取り出しにくいこと、などなど。
 こうしたなかで三重大学の舩岡正光教授は新しい、有望な技術を開発しました。
これまで誰もが上手く出来なかった、木材の中に含まれるリグニンという物質を、自在に分離したり結合させたりすることが出来る「相分離システム」という技術がそれです。
この方法を使えば、木から原料を取り出して硬度や柔軟性など様々な特性を持つバイオプラスチックを作り出すことが出来ます。
つまり、 「木から直接プラスチックをつくる」わけですね。
そのうえ、 「使い終わればまたもとのリグニンに戻して、再度別のものに成型して利用する、ということが繰り返し出来る」のです。
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リグニンを材料に作られた電気自動車
写真はー学長ブログ ある地方大学長のつぼやきーより引用させていただきました。
続きは
のあとで。

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まず教授の説明を聞いてみましょう。
以下は神籬(ひもろぎ)及び舩岡教授の研究発表資料から引用させていただきました。
以下引用
■リグニンとは?
 
リグニンは、木の中に30%も含まれている上に、分子構造の中に石油と同様のものを持っており、取り出して使うことができれば資源として大変有用であろう、ということは研究者なら誰でも知っています。
しかし、百年以上も前から研究され続けてきたのに、実際の利用に成功した例はありませんでした。
 木の中に含まれる天然のリグニンは、多くの分子が三次元的に結合した、非常に複雑な分子構造を持っています。分子のつながりかたに規則性がなく、細胞の中で炭水化物の繊維と複合的に絡み合っているため、分解して取り出すことが非常に難しいのです。
■ヒントは自然の中から。世界初「相分離システム」の完成。
では、人間が利用できるずにいるリグニンは、もともとはどんな働きをしているのでしょうか。
リグニンは、木の細胞の中で、炭水化物の周りに充填され、細胞どうしを強固に接着し、炭水化物をコーティングすることで微生物や水から守ったりしています。草と木の違い――硬度や耐久性――をもたらしているのがリグニンです。木の船が何十年も水の中で腐らず、法隆寺が千数百年も建っているのは、炭水化物を腐食や分解から守っているリグニンのおかげなのです。
一般的な紙とちがってリグニンを含む新聞紙は、一週間放置すると、黄色く変色します。これは、リグニンの反応によるものです(リグニンを含まないコピー用紙は一週間では変色しません)。
木の内部の細胞は、木である間は外気にも光にも触れることはありません。それが「新聞紙になった」ことは、大きな環境の変化です。リグニンは、これに対応して分子構造を変化させます。つまり、環境変化によって細胞内に新たに生まれたストレスを、速やかに解放したのです。動くことのできない木が、何百年、何千年も同じ場所で生きつづけるための環境適応の知恵――その機能を、リグニンが担っているのです。
この性質を分子構造の視点から見ると、リグニンの中には、非常に変化しやすい場所――活性な場所があるということになります。こうしたリグニンの特性を認識した上で、これまでのアプローチを見つめなおしてみると、紙パルプ工業などにおいて、炭水化物を取り出すために行っていた処理――アルカリや酸の刺激と高温高圧――は、リグニンの「環境の変化に対応しやすい」性質にとっては、刺激が強すぎた。リグニンは変化する力を使い果たし、応用のできない形になってしまっていたのです。
 炭水化物を主人公にして、邪魔なもの(=リグニン)を取り除くという発想そのものが、リグニンを取り出すことを困難にしていたのではないか。自然の成り立ちをよく見つめ、その意味を読み解くことで、私は大切なヒントを得ました。変化しやすいリグニンを守りながら炭水化物を取り出す「相分離システム」は、ここから完成に至ったのです。先に細胞の内部でリグニンを他の物質で包んでしまうことによって一種のバリアをつくり、リグニン本来の分子構造を守りながら炭水化物を取り出すことで、世界で初めて、リグニンも炭水化物も、それぞれの性質を傷つけることなく、しかも使いやすい形で取り出すことに成功したのです。
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植物資源の相分離系システム
■リグニンを壊す事無く取り出すことに成功
樹木の主要化学成分は「セルロース」「リグニン」「ヘミセルロース」であり、全成分の約95%を占めているます。セルロースは、細胞壁の主要部分に存在し、樹木を支える役割を果たしています。リグニンは、特に細胞間に高濃度で存在し、細胞壁と細胞壁をくっつける役割を果たしています。ヘミセルロースは、セルロースと同様に、主に二次壁部分に存在しています。
舩岡教授は絡み合ったこれらの分子を壊す事無く分離することに成功しました。取り出したリグニンはリグノフェノールという物質に変化しています。
このリグノフェノールを使うことで、木材を融解させたり、また固めたりといった操作が自由に出来るようになるというのです。今まで一度使ったららおしまい、であった木材を原料として低エネルギーで加工して何度も、繰り返し使うことを可能にしたのです。
もともと石油は自然の中で何億年もの長い時間を掛けて、樹木が変化して出来たものでした。この方法は、先にも述べたとおり、いわば樹木から直接プラスチックを作る方法なのです。
引用終わり
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最近のリグノフェノール誘導体の製造方法例
(三重県科学技術振興センター工業研究部)

 舩岡教授によれば、10トンの木材からは約2トンのリグノフェノールを作る事が出来ます。
昭和30年頃の木材の生産量は間伐材込みで約7000万トン。もしこの半分を使ってリグノフェノールを作るとすれば約700万トンで、これはここ10年くらいのプラスチックの年間消費量約1400万トンの半分に相当します。これは’80年ごろの消費水準です。
 木材は日本に豊富にあります。木材を原料に繰り返し使えるバイオプラスチックを作ることが出来れば、脱石油化の実現が視野に入ってきそうです。
 

List    投稿者 kz2022 | 2010-07-19 | Posted in E05.バイオプラスチックの可能性No Comments » 

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