シリーズ新エネルギー②『マグネシウムの再生とレーザー技術』
シリーズ新エネルギー①『マグネシウムがエネルギーを生む社会!!』では、酸化マグネシウムを還元してエネルギーを蓄積する過程を紹介した。
今回は、マグネシウムの資源状況、そして、精錬、再生に用いられるレーザー技術について記事にした。この、高密度なエネルギーを微小空間に照射することが可能な技術は、旧来のエネルギーを垂れ流す非効率な巨大な精錬プラントを超えるかもしれない。これにより、 マグネシウムを含む鉱石の無い日本が、海水よりそれを精錬自給し、高効率で再生できるようになる可能性を秘めている。
また、この技術が進化すれば、エネルギー利用効率は上がり、周辺環境への悪影響も改善される。そこで、この技術を追ってみた。そうすると、技術内容以外にも面白いことがわかった。レーザー技術もレアメタルに負っているところが大きいということだ。そこで、今回はマグネシウムの資源状況と、レーザー技術を取り上げ、次回に『都市鉱山』で有名になったレアメタルについてアップしたいと思う。
(画像は『楽天』さんからお借りしました)
現状のマグネシウムの還元(精錬)技術
一般的に、鉱石から金属を取り出す精錬は、巨大な炉の中に鉱石と燃焼・還元材料を入れ、高温(鉄なら2000℃程度)に加熱し、酸化した自然状態の鉱石を還元、分離する。この際、巨大炉全体が加熱され、常に外部に放熱し効率が悪い。マグネシウムに関していえば、日本がもっとも多量に輸入している中国では、炉を利用した精錬が行われている。
この方法だと、精錬の際の燃料や触媒の使用量が、分離される金属に比べ膨大な量になり効率が悪い。かつ、鉱石自体が希少であることから、マグネシウムは高価格にとどまっている。具体的には地金で180~190円/kg程度になる。これでも世界的に見れば低価格で、ヨーロッパ方面からの輸入品の1/3程度の価格である。
ただし、ヨーロッパのマグネシウムは燃焼炉ではなく、塩水を電気分解して抽出している。現在のところ、鉱石と燃焼炉を用い、安い労働力を駆使して生産するという方法がもっとも安いということだろう。
ちなみに、マグネシウムの地金価格は、アルミニウムの2倍程度、単純には比較できないがスクラップ鉄の十数倍といったところだ。しかし、ここ数年、中国国内消費が急激に増えているので、価格高騰は確実だろう。このような状況からして、低価格で海水からマグネシウムを取り出す技術は、エネルギー自給の鍵となるだろう。
そのような状況なので、今までマグネシウムを燃料として使用するという発想はなく、少量のマグネシウムを他の汎用金属に加え合金として使用するか、微量を電化製品の心臓部に使用する程度にとどまっている。
(炉構造のイメージ 画像は『日本プライブリコ株式会社のHP』よりお借りしました) | 次に、マグネシウムの精錬過程や、再生過程では高温環境が必要になる。特に、触媒を用いない酸化マグネシウムの還元の際は、炉内温度が4000℃程度付近まで上がる。 しかし、実際に加えるエネルギーとしては、2万℃相当の熱エネルギーが必要になる。なぜならば、蒸発に必要なエネルギー(潜熱)と分子結合を解くのに必要なエネルギーが、加えた熱エネルギーを吸収してしまうからだ。 このような高温環境は、炉壁が直接熱を受けるような構造では不可能だし、出来たとしても、炉の熱が絶えず外部に放出してしまうため、非効率極まりない。 |
(ピンスポットで照射した場合の周辺温度のイメージ 『WIRED VISION』さんからお借りしました) | それに対して、ピンスポットで2万℃相当のエネルギーを加えられるレーザー技術では、照射点から離れていくにしたがって、急激に温度が下がるため、炉壁自体を超高温に耐えられるようにする必要がなくなる。 また、照射点以外にほとんどエネルギーが拡散しないので、効率がよい。あとは小さなピンスポットを多数並べればよいことになる。 |
レーザー技術
レーザーを理解するには、光(を含む電磁波)はどの様に発生しているのか?から入る必要がある。エネルギーを加えられ励起状態になった(≒興奮した)原子は、そのエネルギーを再放出し、もとの安定した状態(基底状態)に戻ろうとする。この時、原子は再放出したエネルギーと等価な光=電磁波を出す。
つまり、すべての光は、エネルギーで励起された原子から放出される。このとき光の波長と振動数は原子の種類ごとに一定になり、単波長の電磁波(≒光)になる。例えば、複数の波長のある太陽光は、水素の核融合反応によるエネルギーにより、複数の原子から放出された光の混合体なのだ。だから、プリズムで赤・青・黄色などの元素ごとの単波長に分解できる。
ここで、励起されたとは電子が複数ある電子軌道のうち、高いエネルギーを必要とする一つ外の軌道に移ることをさす。また、基底状態に戻るとは、余分なエネルギーを放出し、再度もとの軌道に戻ることをさす。
(画像はキーエンスさまの『レーザの原理』よりお借りしました)
また、各種ランプも同じ原理だ。たとえば、ナトリウム灯は、ナトリウムに電気エネルギーを与え、励起状態にし、その電子が元の基底状態に戻るとき、単波長の黄色い光を発生させる性質を利用している。ランプの色が異なるのは光を放出する原子の種類の違いなのだ。
そしてレーザーの原理
このような単波長の光を数多く発生させ、光の波の方向と位相をそろえ、増幅して、強力なエネルギーを持たせたものがレーザーだ。そこでは、強力なエネルギーを得るために多数の原子を励起状態(興奮状態)にし、かつ、それらの電磁波(≒光)の方向と位相をそろえる必要がある。
『自然放出』
『誘導放出』
(画像はキーエンスさまの『レーザの原理』よりお借りしました)
このように、多数の原子を励起状態にし、それらの電磁波の方向と位相をそろえることが、レーザーの中心技術だ。そのために、ミラーホールといわれる発振増幅器を利用する。
ミラーホール内では
①エネルギーを加えて沢山の原子を励起させる。
②発生した光を一旦閉じ込め、
1)反射を繰り返しながら、波の方向と位相をそろえる。
2)増幅(≒重ね合わせ)させていく。
ということが行われる。簡単にいうと、この機器は両端に鏡のついた筒で、増幅と方向・位相調整を行う。それが、そろった段階で一気に放出する。こうすることで、増幅され高いエネルギーをもった光を拡散せずに照射することができる。
通常このエネルギーはフラシュランプを焚くのも含めて、電気で供給する。それを、集光した太陽光エネルギーで代用して原子を励起状態にするのが太陽光励起レーザーだ。ポイントとしては、太陽光をそのままレーザー光線にするわけではないということだ。
この技術の優れたところは、
①エネルギーを拡散させることなくピンポイントで照射できる。
②そのため、発生させたエネルギーが拡散しにくく、利用効率が高い。
③その結果、精錬や再生の機器が小さくなり、従来のプラントに比べて、環境への悪影響が少なくなる。
ということだろう。詳しくは参考サイトを参照。
『レーザの原理』
『レーザーの原理・歴史について』
特に、『自然放出』と『誘導放出』の違いは重要。
そして、レーザーに用いる発振媒体は固体・気体・液体とある。そのうち、固体レーザーのYAGレーザーや気体レーザーの炭酸ガスレーザーが普及し、さまざまなハイテク製品に使用されている。話題のマグネシウムの再生に関しては、どのレーザーか解からなかったが、炭酸ガスレーザーよりYAGレーザーの方が波長が短いため、高いエネルギーを出すことが出来るので精錬には有利か?(炭酸ガスレーザーの波長はYAGレーザーの波長より、約10倍長い)
ここで、YAGとは、『イットリウム・アルミニウムのガーネット構造結晶』の頭文字だ。ここでもレアメタルが使われている。そして、イットリウムの9割は中国にあり、戦略的に輸出制限がかかっている。このように、先端技術はレアメタルなどの希少資源問題と大きく係ってきている。次回は、そこを、アップしていく。
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