2008-11-13

内分泌系攪乱のメカニズムが明らかになった~「奪われし未来」より

環境問題と言えば地球温暖化問題に焦点があてられますが、旧くは産業革命以降の大気汚染に始まり、1960年代は酸性雨、化学物質のホルモン的作用が注目されました。
その後、2度の石油危機を経て、1980年頃からはオゾン層破壊90年代冷戦終結の頃からは、内分泌撹乱物質という新しい人工物質問題が登場しましたが、みなさんご存知でしょうか?。
内分泌攪乱物質については、当ブログでもkanonさんが
環境ホルモンってどんな問題だったのかその1その2その3
で詳しく書いていますよ。
一方、1995年フロンガス全廃が決まりオゾン層問題が解決へと向かった頃から、温暖化問題が顕在化し、1997年の京都議定書を持って世界の環境問題の焦点はCO2原因温暖化対策へと移ってきていますね。
                                                             
                                                           
現在、環境問題は温暖化問題ばかりが注目されますが、もともとは人工物質が生物の体内でホルモンのように振る舞い内分泌系を攪乱する現象の発見により、人類が今だかつてない異常な事態に曹禺する可能性が高くなったという危機感こそ、今日、環境問題が全世界的に注目されるようになった出発点だったのです。 🙄
                                                                    
従って、環境問題を捉える視点として、このような危機感はどこから登場し、それらの問題がどのような変遷をたどっていったのか?を先ず明らかにする事が重要ではないかと思い、                                                                   
今回から数回に渡り、これら全世界的な環境保護運動のきっかけとなる有名な書籍、レイチェル・カーソン著「沈黙の春」 、その後、30年を経て1996年に登場したシーア・コルボーン著「奪われし未来」デボラ・キャドバリー著「メス化する自然」を紹介する中で、これらの問題を整理していきたいと思います。
今回は、シーア・コルボーン著の「奪われし未来」の紹介です。
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日本では「環境ホルモン」として有名ですが、この本の中で描かれている「内分泌系の攪乱のメカニズム」を元に、当時、横浜市立大学理学部教授)井口泰泉氏が「環境ホルモン」と名付けたのが始まりですよ。
先ず、『奪われし未来』では、環境ホルモンによる影響の事例として

1950年代 アメリカ・フロリダ州 ハクトウワシの個体数の80%に生殖異常が見られる。
1950年代 イギリス カワウソがいなくなる。原因は80年代まで不明。
1960年代 五大湖・オンタリオ湖 セグロカモメのコロニー(集団繁殖地)でヒナの80%が死亡。または奇形が発生。
1970年代 アメリカ・南カリフォルニア セイヨウカモメの生殖異常。メス同志のつがいが確認される。
1976年 アメリカでPCB製造中止、世界も右へ倣え
1980年代 アメリカ・フロリダ州 ワニの卵の80%が死亡。多数のオスの生殖器に異常。
1988年 北海沿岸 1万5千頭にのぼるアザラシが死亡。
1990年 地中海 ウィルスによるスジイルカの大量死。体内からPCBの通常の倍以上検出される。
1992年 デンマーク ヒトの精子が約50年の間に半減。

など多くの事例を採り上げています。
これらの事例から、著者であるシーア・コルボーンを始め、他の研究者が以下のような内容を述べています(代表的なものを紹介します)。
●ホルモン異常の発見

 胎仔期から新生仔期のマウスに女性ホルモン(エストロジェン)を投与すると雌では膣、子宮および輸卵管、雄では前立腺がガン化するという事実が発見がされた。
その10年後には、妊娠中に流産防止のために合成エストロジェン(DES)を服用した婦人から生まれた女性に膣ガンが発見された。
DESを服用した妊婦は600万人とも言われている。このような事例から、胎児期における女性ホルモンの暴露は生殖器官にガンを発生させることが考えられる。

●他の合成化学物質でも同様な作用をすることを発見

さらに、DDTなどの農薬、PCB、ダイオキシンなどはエストロジェン様の作用も示すという事実から、マクラクラン博士らは、1979年以来、哺乳動物の生殖および生殖器官のガン化に対するエストロジェンの影響に関する会議「環境中のエストロジェン」を開催してきた。
1994年にワシントンD.C.で、環境ホルモンの問題をも取り込んだ会議を開催した。

●生殖異常は環境中に放出された化学物質の影響が原因だと特定 

コルボーン博士は、五大湖を含め、多くの地域の多種類の野生動物種で性器異常、生殖異常がみられ、環境中に放出された化学物質の暴露を受けたことが原因ではないかと考え、1991年にこれらの問題に取り組んでいる科学者をウィスコンシン州のウイングスプレッドに集めて会議を開いた。そこでは、
(1)化学物質は生体内で女性ホルモンと類似の作用、抗男性ホルモン作用などのホルモン系(内分泌系)を撹乱させる作用を持つ。
(2)多くの野生動物種はすでにこれらの化学物質の影響を受けている。
(3)これらの化学物質は人体にも蓄積されている、
などの合意を得、ヒトでも近い将来顕在化するおそれがあるため、ヒトへの影響に対する研究を優先的に実施する必要があるとした。

●環境ホルモンは世界的な問題として認知されるようになる

その後、イギリスの河川で雌雄同体のコイ科の魚が見つかり、羊毛加工工場の排水中からノニルフエノールが見出されたり、デンマークのスカキャベク教授らは過去の文献調査を行い、この50年間でヒトの精子数が半減していることを報告した。
 このように、環境ホルモンの問題は、1980年代後半から1992年頃にかけてアメリカだけでなく、デンマーク、イギリスでも同時多発的に起こり、新たな環境問題としてクローズアップされてきた。
 環境に放出された化学物質は主に水系に入ることから、1995年7月にウイングスプレッドに魚類の研究者が集まり、化学物質による魚類の発生・生殖の変化」に関する会議を開き、環境ホルモンの魚類の発生・生殖・生理に対する影響について議論され、研究の必要性がまとめられた。

最後に著者は

「現代社会で、恐ろしいのは人類が知らず知らずのうちに蝕まれているという状況なのだ。人類の潜在能力が、目に見えない形で失われているのである。行動や知能、社会を組織する能力など人類特有の資質を損ない、変化させているホルモン作用攪乱物質の力が気がかりである。ホルモン作用攪乱物質が脳の発育や行動に影響を及ぼすことは、多くの研究から明らかになっている
自然をねじ伏せようとしてきた人類が、当初の思惑とは裏腹に、生殖能力をはじめ、学習能力や思考力までを損ないかねなくなっているということは皮肉な話である。合成化学物質を使った大規模な実験の材料に人類がいつのまにかなってしまったことは、当然の報いのようにも思われる。
いま何よりも大切なのは、地球上にすむ一人一人がこの問題を真剣に考え、論じ始めることだ。」

と書いています。
1996年3月にコルボーン博士らがこのOur Stolen Future「奪われし未来」を出版すると、かの温暖化問題で有名なゴア副大統領が序文を書いたこともあって、世界中で環境ホルモンに対する関心が高まってきます。
 これらをきっかけに、環境ホルモンの研究は酸性雨やオゾンホール・地球温暖化問題と同様に、世界的な研究が必要であるとの意識が高まってきたのが環境問題の世界的な流れ のようです。
その後、この環境ホルモン問題はマスコミでも多く採り上げられ盛り上がりを見せますが、業界の反発もありあまり採り上げられなくなります。何故、そうなったのでしょうか
次回はこの問題を取り上げたいと思います。

List    投稿者 simasan | 2008-11-13 | Posted in K.環境汚染ってどうなってるの?2 Comments » 

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コメント2件

 パンダオ | 2009.06.11 22:49

たった20年の間に95%が5%に変わるてすごいですね!!(今の出産も、20代の子たちが生まれた時の出産も同じようなものなのに・・・)
人類の出産は、1人では出来ない。
だからこそ、集団の中での役割としていく必要があったのに・・・
そしてそうやって女の安心基盤の中で出産を行なっていくことが、集団の維持にも必要だったんじゃないかな??
出産の追求を通して、共同体の再生を目指していきたいですね!!

 さんぽ☆ | 2009.06.24 18:05

パンダオさん
コメントありがとうございます☆
そうなんです。20年でこの変化ってすごいスピードですよね。
経済成長とともにまたたく間に、自宅出産と共に共同体も衰退していきました。
>女の安心基盤の中で出産を行なっていくことが、集団の維持にも必要だったんじゃないかな??
その後の子育てにもこの安心基盤が必要です。
女が安心していられたから、集団としての安定もあったのでしょうね。
はい!女の安心基盤を作っていきたいです。

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