2022-09-20
磁力の発見の歴史④~素人による科学理論創造のはじまり~
ロバートノーマンは、世界で初めて伏角を発見した航海機器製造の技術者である。
彼はもともと技術者でありながら、その経験や技術力を生かして新たな科学理論を解明した人物である。
当時科学を追求するのは専門家の役割で、素人が科学理論を追求するといった発想は存在しなかった。
ところが、ロバートノーマンは、自らのように技術者が科学理論を追求する必要性を直感し、専門家たちに対して技術者による科学理論の創造への参入を希求したのである。
彼は、次のような言葉を残している。
数学に習熟している人たちは、何人かの人たちがすでに書いているように、「アペルス曰く、靴屋はサンダルより先のことまで口出ししてはならぬ」というラテン語の諺を持ち出して、この(磁石の)問題は、経度の問題がそうであるのと同様に、職人や船乗りが口を挟むような問題ではなく、それは幾何学的証明や算術的計算によって精密に扱われるべきものであって、そのような術については職人や船乗りはおしなべて無知であるか、少なくともそのような事柄を実行するには十分な素養を欠いているからであると言うかも知れない。
しかし私は、この国には、その資質においてもその職業においてもこれらの術に精通している様々な職人がいるのであり、彼らを非難する人たち以上に効果的かつ容易にそれらの術をそのいくつもの目的に適用する能力を有していると考える。(中略)したがって私は、自分たちの技術や職業の秘密を探究しそれを他の人達の使用のために公表しようとするものを、学問のある人達が軽蔑したり避難したりすることのないように、希求するものである。
彼をこのような発言にまで至らしめたのは、カトリック教会の力の衰弱による社会秩序の崩壊と、大衆向けの数学書の出版といった要因も大きい。
社会的秩序の崩壊によって、徐々に大衆の中で新しい秩序(思想)が渇望された時代において、カトリック教会系のスコラ学=従来の哲学・神学に代わる新しい理論の構築が求められていたことは言うまでもない。その中にあって、ロバートノーマンが大衆による新しい科学理論の必要性を訴えたのは、必然的だったとも言える。
また同時期に、活版印刷の発明によって、大衆も書籍を手にとることができるようになった。それまで、科学論文の殆どは、スコラ学の学者によって書かれたものであり、したがってその論文はラテン語で書かれていた。だが、活版印刷の登場によって、大衆が書籍を手に取る事ができるようになり、その内容は英語やイタリア語など大衆の理解できる国語で書かれていた。
※なお、当然カトリック教会は国語出版に対して反対的だった。宗教上での国語の利用は、(それ自体もそうだし、副作用的問題によっても)異端に繋がる恐れがあるからだ。なにより、教会は、学問においても行政や政治においても、ラテン語の使用を強制し、ラテン語の習得を教会の修道院(スコラ)に限定することで覇権を維持していた。国語の使用はその覇権が崩壊することに直結している。
だが、結果としては、科学書籍はロバートレコードのような学者によって国語翻訳が出版されたり、ジョルダノ・ブルーノによるスコラ学批判なども出版され、最終的には宗教改革にまでつながっていく。
ロバート・レコード(1512ごろ – 1558)