2022-09-11
磁力の発見の歴史③~ロバート・ノーマンによる伏角の発見~
今や方位磁針のことは誰でも知っていると思うが、単なる鉄の棒を磁化しただけでは、方位磁針として使えないことは、ほとんどの人はご存知ないのではないだろうか。
今回紹介するロバート・ノーマンは、航海機器を扱う専門技師である。当時羅針盤は、針が水平になるように鉄を切り出した後、磁石に触れさせると北側が下向きに落ちることが知られていた。だから、羅針盤を水平にするために、羅針盤の右側にワックスを塗って調整する必要があった。
当時の職人たちの間でこの性質は常識であり、誰もその性質に疑問を抱かなかったが、ある時ノーマンが6インチの大型の羅針盤を制作する際、大きく沈み込んだ北側の針の先端を切り落とし、バランスを取ろうとした際、切る長さが大きすぎたためにその羅針盤を駄目にしてしまった。
そこで腹を立てたノーマンが、磁石にふれた磁針の北側が下に沈み込む現象について、彼の友人の専門家たちに、その性質についての質問を投げかけた。これが、世界で初めての「伏角」の発見であったと言われている。
※ただし、発見と言っても新たな計測方法や新たな理論によって発見された性質ではなく、日頃から観測されていたが誰も疑問に思わなかった事柄に、改めてフォーカスを当てることで疑問が浮上したという意味で「発見」なのである。
専門家たちは、ノーマンにその傾きを正確に計測するようにアドバイスした。そこでノーマンは、鉄芯を水平軸の周りに自由に回転する装置を作成し、円盤の周りをきれいに360等分した目盛りを固定した。磁石を触れない状態では、鉄芯は水平に保たれるように制作されている。この鉄芯を磁石に触れさせると、ロンドンで71度50分の傾きが計測された。
これが、世界で初めての伏角の正確な計測記録である。
当初この実験は、地磁気というものが措定されていない当時、「磁石から受け取った何らかの質量物質の流入によるものである」と説明された。
ところが、ノーマンは、コルクの上に鉄芯を載せ、磁石に触れさせる前後でコルクの沈み具合が変化しないことを持って、その説明を否定した。しかもそれだけではない。それまで磁力は「牽引力」という性質として知られていた。だが、コルクが沈まないということは、(単に引っ張るだけの)牽引力でもないということを証明したのである。
※現代においては、その性質は引っ張る力と反発する力の和がゼロになる、偶力であるという風に説明する事もできるが、当時はそのような概念はさらさら存在しない。