2022-09-04
磁力の発見の歴史(ルネサンス)②~ルネサンスの磁力(牽引力)の捉え方
12世紀ルネサンスに於いて、自然の原理を解明する上で、最も不思議だったのが磁力であったようだ。
この磁力の性質を解明しようとしたのがフィチーノという学者である。
マルシリオ・フィチーノ
前提として、当時『磁力』という言葉は存在しないので、磁石は「牽引力をもつ」という隠れた性質として捉えられていた。磁石は鉄を引き寄せ、北極星を指すということがわかっている。鉄自体が北極星に引き寄せられることはないが、磁石を擦る事によって、鉄も磁石の性質を受け継ぎ、北極を指すようにもなる。
このような、北極(星)と、磁石と、鉄という3者の関係を、フィチーノは「磁石は、北極星から分け与えられた力(牽引力)によって、磁石の働きを得ている。そして、鉄は磁石から力を分け与えられる事によって、磁石と同じ性質を得る」と説明した。
要するに、北極星>磁石>鉄という3段階のヒエラルキーがあって、常にヒエラルキー上位のものが下位のものに、力を分け与えることができるようになるのだという説明である。
フィチーノ自身は、実際に磁石を手にとって研究をしたわけではないようであるが(∵ダイヤモンドは磁石の性質を遮断する、といった、古代からの伝承を無秩序に取り入れているから)、その後コロンブス等の大航海時代に入り羅針盤の性質が徐々に明らかになるにつれ、磁石の性質がより鮮明になってゆく。
15世紀に入りヨーロッパが大航海時代に入ると、コロンブスをはじめ航海士の羅針盤の活用から、磁石の性質がより鮮明になってくる。偏角の発見はその一つで、地理的な北極点=地球の自転軸≒北極星の方向と、方位磁針の指す角が、少しずれる(そのズレの角度=偏角)ということを発見した。
偏角は、ある子午線上ではゼロになり、そこからの距離が離れるに連れて、方位磁針は西にずれるという性質があった。そうした事実の蓄積から、16世紀、メルカトールによって新たな仮説が提唱されることになる。それは、地磁気=地球上の磁極が存在するという仮説である。
現代の偏角の地図。地域によって方位磁針の指す南北がどれくらいずれているのかが示されている。
「まず第一に、同一の地点では磁針は常に真北から常に同一角度傾くことが経験から知られている。それゆえ、その点は決して天にはありえない。というのも、極を除くすべての点は回転運動に支配されており、磁針がもし天球上の点を指しているのだとすれば、天の日周運動によって東西に振れるはずである。しかしそれは経験に反している。ゆえにこの点は動かない地球上に存在しなければならない」
さらに、メルカトールは、磁極が地球上のどこに存在するのかも、計算によって導き出している。
この、「地球上に地磁気の牽引点が存在するはずだ」という仮説によって、後に地球が一つの磁石であるという現代の考え方や、地球磁場という概念につながってゆくのである。