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トリウム原発に騙されてはいけない!1~ウランとトリウムって何が違うの?

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画像は天音堂☆堂守コラムさん [1]からお借りしました
東日本大震災が起こってから2ヶ月。今回の福島原発の事故を受けて、私達は次の世代につないでいけるような環境をつくることの大切さを学びました。
最近では「もう原発はイヤ!」という意識の高まりから次の発電システムはないのかと可能性を探索されている方が増えており、当ブログで過去にとりあげた「トリウム原発」シリーズが注目されております 。初めは私たちも次代のエネルギーとしてトリウム原発に可能性があるのではないかと思い追求してきましたが、断言します。「トリウム原発」には可能性はありません!
そこで、トリウム原発には可能性が無いという根拠をきちんとご紹介させていただきます。
今回は過去に追求してきた『次代を担う、エネルギー・資源』 トリウム原子力発電 [2]全18回を『トリウム原発に騙されてはいけない!』シリーズとして5回に凝縮してお届けします
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ネットで謳われているトリウム原発の可能性は、
反応後にプルトニウムを生成しない=核兵器防止になる
燃料溶融の事故がないので安全
核廃棄物が千分の一以下になる
同じ量の燃料からウランの約90倍のエネルギー
などがあります
ふむふむ これだけを見ると確かに、トリウム原発は少ない燃料でたくさんのエネルギーを作り出せるし、ごみも少ないらしい。たしかに良さそうな気がしますね
まず第1回目は現在使われている『ウラン』と『トリウム』について勉強していきたいと思います。
☆核燃料としての『ウラン』と『トリウム』の違い
ウラン原発とトリウム原発の大きな違いは、原発で使用する核燃料がウランなのかトリウムなのかという違いです。またトリウム原発は核燃料としてトリウムをそのまま利用するのではなく、トリウムを核化学処理し、ウランに変換してから使用します。つまり、核分裂を利用した原子力発電という概念レベルでは、従来の原子力発電もトリウム原発も変わらないのです。では何が違うのでしょうか?
☆核燃料としてのウラン

核分裂を起こすウラン235は自然界における存在量は0.7%程度で、残りの99.3%はウラン238という同じウランの仲間ですが、そのままでは核分裂を起こさない物質です。これらの混在物が、核燃料の原料として採掘、精錬された上で、ウラン235を約3%まで濃縮することではじめて、核燃料として使用できるようになります。
つまり実際に使用するウラン核燃料とは、核分裂を起こしにくいウラン238を97%も含んだものなのです。かつ、質量がエネルギーになるのは大雑把には、3%のウラン235のうち、0.2/235の比率分だけですから、それ以外の物質は殆どが残ってしまいます。
『次代を担う、エネルギー・資源 トリウム原子力発電2 核エネルギーを利用した発電システムを概観する2/2』 [3]
[4]

表Ⅰ ウラン型原子炉の物質量と核反応変化による生成物

『次代を担う、エネルギー・資源 トリウム原子力発電3  核化学反応におけるウランとトリウムの比較』 [5]より

エネルギーが少ししか取り出せない。原発ってたくさんのエネルギーを作れるイメージがあるけれど、実は大量のウランのうち、エネルギーを取り出せるのはほんのちょっとなので、反応後にはほとんどがゴミになってしまうのが今の原発なんです。
  核反応生成物はキセノン・ニオブ・ジルコニウムそしてプルトニウムなどの有害な放射性廃棄物(計4.4%)を出します。

☆核燃料としてのトリウム

[6]

表Ⅱ トリウム型原子炉の物質量と核反応変化による生成物

トリウムは核分裂反応をおこさないので、核分裂反応を起こすウランに転換して燃料にします。そのために中性子を投入する核スポレーションいう前処理が必要です。この結果、トリウムの約88%が、燃料として利用できるウラン233に変換でき、約12%はトリウム232のまま残ります。
エネルギーを取り出せる核反応は、88%のウラン233の9割程度で、残りはウラン234・ウラン235などの同位体となります。よって、大きくは、初期投入量の8割程度が核分裂を起こし、キセノンやジルコニウムなどの有害な放射性物質を生成します。この中に、核兵器の材料となるプルトニウムが発生しません。また、溶融塩炉という形式を使えば、いったん稼動し始めると核スポレーションという前処理をしなくても、炉内でトリウム232⇒ウラン233⇒核分裂反応が定常的に行われるのが特徴です。
『次代を担う、エネルギー・資源』トリウム原子力発電3  核化学反応におけるウランとトリウムの比較 [5]

ウランに比べると核分裂反応を起こすのに必要な核燃料の量は少なく、エネルギー効率が高い。故に、ウラン燃料に比べ廃棄物が少ないということになっているようです。
  核反応生成物はキセノン・ジルコニウム・ニオブ(計78.3%)が出ますが、プルトニウムを廃出しない点で安全だと言われています。
プルトニウムが出ないということがすごくもてはやされていますが、核兵器が作れなければ安全というのってちょっとズレてますね
現段階ではトリウムを燃料として稼動している商業炉はほとんどなく、インドのみです(インドはトリウム資源が豊富にあるため)。中国も同様に資源が豊富にあるため、トリウムを取り入れる声明を発表したのです。

☆炉の構造形式としての『個体燃料型炉』と『溶融塩炉』
[7]『トリウム溶融塩炉』の“溶融塩炉”とは炉の構造種別を指します。現在稼動中の原子力発電所(ウラン)は、世界中どこでも全て固体燃料を使用しています。これを、この構造種別を固体燃料型炉と呼ぶとすると、溶融塩炉とは、液体化された核物質含有燃料を利用した原子炉であるため、この構造種別は液体燃料型炉と呼ぶことが出来ます。

液体燃料型の事例【トリウム溶融塩炉】
画像はNPO「トリウム熔融塩国際フォーラム」 [8]さんよりお借りしました。


☆固体燃料炉のシステム
まずは、現在ウラン原発で利用されている『固体燃料炉』をご説明します。以下の図は一般的な固体燃料炉(=軽水炉)の概念図です。
[9]
一般的な固体燃料炉(軽水炉)では次のような特徴があります。
☆暴走しやすい構造
[10]
①一度に大量の核燃料を入れる炉
燃料となる天然ウランのままでは核反応を起こさないので、炉に入れる前に大量のエネルギーをかけて濃縮させます。濃縮させた固形ウランを図のようにペレットと呼ばれる容器に核燃料を詰め、そのペレットが何層にもなって燃料棒につめられています。
一度炉内に燃料を入れたら、開け閉めはできません。なので、最初からあらかじめ使用する長期間分(2年分程度)の大量な燃料を入れておきます。
しかも、反応によって出てきた核反応生成物が反応効率を落としてしまうため、さらに余分に燃料を入れているのです。そのため、固体燃料炉は大規模なプラントになってしまいます。

固体燃料炉の燃料棒
画像はあとみん [11]さんよりお借りしました。

②出過ぎた中性子の量を調整する制御棒が必要
一度に大量に核燃料を入れているので、一歩間違えて燃料を一瞬で反応させたら、それこそ原爆と一緒です。それでは困るので、反応によって出過ぎた中性子を奪い取る(=周囲の原子に当てない)制御棒で中性子の量を調整しているのです。

→①、②をまとめると、もともと暴発しやすい構造だということが分かります。
言わば“アクセル全開のまま、ブレーキを踏んでいる状態”なのです。

☆核反応後にどうしても“放射性”生成物が残ってしまう
本来、炉の中で核反応後も中性子を長期間(10~20年)当て続けると、だんだんとその物質は安定へと向かい、放射性の出ない物質にまで変化します。
しかし、核燃料のうち反応しやすい部分は2年程度で使い切ってしまうので、残りの反応しにくい核反応生成物(残りカス)は取り出さないと、再稼動できません。結果的に反応した核反応生成物はほとんど”放射性“生成物のまま残って炉外に出されてしまいます。
その反応後の残りカス(=核廃棄物)の除去等にも大規模な装置が伴い、さらに大規模になってしまいます。
『次代を担う、エネルギー・資源』トリウム原子力発電4 炉の構造におけるウラン原発炉とトリウム溶融塩炉の比較』 [12]

エネルギーを取り出すには一度にたくさんの核燃料が必要で、制御が難しく、リスクがとても高いもともと暴発しやすい構造になっているんです
  一度にたくさんの核燃料を入れますが、効率が落ちていくので反応途中の核燃料は次々交換され放射性廃棄物が大量にゴミとして発生します。また、減速材として使用される水も僅かに含まれる不純物と反応したり、水中の水素原子に中性子が入り込み、危険で強力なγ線を放出する3重水素(トリチウム)に変化して放射性物質となってしまうのです。


☆液体化燃料炉(=トリウム溶融塩炉)のシステム

図はトリウム溶融塩炉の簡単な概念図です。
[13]

『塩(えん)』とは、酸とアルカリを反応させたときに出来るほぼ中性の結晶のことを指します。そして、溶融塩というのは、常温で固体(結晶)の『塩(えん)』を、高温で液体にしたものです。
高温で液体になったある種の溶融塩の中に、核燃料を入れた液体循環型の核化学反応装置の構造を溶融塩炉といいます。
『次代を担う、エネルギー・資源』 トリウム原子力発電1 核エネルギーを利用した発電システムを概観する1/2 [2]

一度に長期間分(2年分程度)の大量な燃料を入れる固体燃料炉とは違い、少ない燃料でも発電が可能で、一日なら一日分、随時必要な分だけ燃料を投入すれば良いのだから、固体燃料炉に比べると炉の暴発などの危険性が下がります。また、核燃料が溶融塩中に均一に分布するので、より安定的と言えるでしょう。
ただし、溶融塩内で中性子が減速される(核分裂が連鎖する)可能性は0パーセントでは無い(減速材の補助になる)ことや、高温溶融塩による配管の腐食(→破損)への懸念は課題として残ります。
☆発生する放射性の使用済核燃料の処理を同時進行できる

炉の中を循環させて、黒鉛部分で何度も核反応を起こせるので、分裂後の放射性核生成物も長期間繰り返し核反応させることができます。要するに、分裂後の放射性核生成物も「放射性物質ではない安定物質」まで核分裂を繰り返し、減らすことが可能です。
しかし、シリーズ3でも触れたように、実験炉では放射性物質が実際に生成されていますし、まだまだ実用化までには検討の余地がありそうです。
『次代を担う、エネルギー・資源』トリウム原子力発電4 炉の構造におけるウラン原発炉とトリウム溶融塩炉の比較』 [12]

必要な分だけ投入できるので、暴発のリスクは低いといわれていますが、溶融塩内で中性子が減速される可能性が0パーセントではないとなると、いつ「想定外」と事態が起こってもおかしくありませんよねそれってリスクが低いといえるのでしょうか?
  核燃料が安定するまでずっと使えるので放射性廃棄物の量は少ないそうですが、安定状態になるのってすっっごく時間がかかります。現在の原発の放射性廃棄物の量は膨大です!それと比べて少ないと言われても、今後どのように廃棄物を処分していくつもりなのか、その方針が出ていないのならばそれは次の世代への責任の押し付けになってしまいますよね。
また、現段階での溶融塩炉は未だ実証炉の段階であって、実用化に向けては未明です。引用中にもあるように、配管の腐食問題は開発当初から最大の壁であり、「原発革命」では解決されていたようにも書かれていますが、まだまだ未明部を残しているようにも思われます。

まず第一回では、生成物と炉について的を絞って紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか
ウランとトリウムを比べると、確かにトリウムは安全性が高く、エネルギー効率のよい次代のエネルギーのように見えます。けれど、今回の福島のような人が安心して住めないような土地をこれ以上増やしたくないという私たちの想いを実現してくれるのがトリウムだと言えるのでしょうか?
次回は一歩踏み込んで「トリウムなら大丈夫って本当?」 [14]をお送りします
最後まで読んでいただきありがとうございました

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