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『マグネシウムエネルギーは次代のエネルギーになり得るか』第10回~まとめ:実現可能性の検証2~

■マグネシウムエネルギーの可能性と課題
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第3回 [1]の「マグネシウムの利点」でも述べたように
(1)循環できること
(2)資源量が豊富である(海水に豊富に含まれている)こと
(3)クリーンであること
(4)運搬や貯蔵にすぐれていること

などが挙げられています。マグネシウム単体を見ればエネルギー資源としての可能性は高いように思われます。
また、マグネシウムの最初の利点で「循環できること」、つまり、酸化マグネシウムを還元してマグネシウムと発熱エネルギーを取り出し続けることができる(Mg ⇔ MgO +360KJ)を挙げていますが、この還元方法として「太陽光励起レーザー」が必要になります。
太陽光励起レーザーは第5回 [2]で述べたように、太陽光というほぼ無限に近いエネルギー源を資源とし、また、その時点でのエネルギーを集中させて利用するので(=薄く広がるエネルギーを集中させて一気に高密度なエネルギーをつくるので)環境負荷の増大もないと思われます。
しかし、前回の第9回 [3]で検証したように、日本の年間消費エネルギーを全てマグネシウムエネルギーで賄うには問題が山積している状況です。
改めて、次代のエネルギーを考えるうえでの判断軸となる【自給自足が可能かどうか】【自然の摂理に則っているか】の視点と、【技術的な課題】も加えて整理したいと思います。
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【技術的な課題(効率問題)】
太陽光を集積させ、レーザー媒質にまで過程において、それぞれの段階でロスが生じます。
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①励起レーザー発生装置の実用性を考慮した総合変換効率 : 4%
②日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要な装置数 : 60億基
③日本の年間消費エネルギーを賄うのに必要な施設規模 : 24000k㎡

つまり、現状のままでは実現性に乏しく、変換効率を上げることが、装置数や施設規模を低減させるうえで必須の技術課題となりそうです。しかし技術課題は、実現のスタンスで課題化すれば、現在までそうであったように、必ず可能性収束に導かれて実現されるものです。コストについても同様に、本当に必要なものであれば、助成金等でまかなう事も可能でしょう。
ただし、 フルネルレンズで光を集光し、 集光した光でレーザー媒質を励起状態にさせ、 レーザー媒質からレーザーを発する、といった3段階の変換を必要としているため、変換効率の向上はやはり限界があるのも事実だと思われます。

【自給自足が可能か≒資源(レアアース)が確保できるか】
マグネシウム社会を実現するために必要な資源は、第9回で検討したように、レアアース、特にイットリウムの確保が実現性を規定します。
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イットリウムは、現在、テレビのブラウン管の赤色蛍光体や、コンデンサー、レーザー機器、光ファイバー、永久磁石等として現在利用されており、日本国内の年間需要量は約500tとなっています。また、イットリウムは、電気抵抗が殆どなく、銅の約500倍の電流を流す事ができるという特質をもっており、電気自動車の開発にも注目されています。恐らく今後もイットリウムの需要は継続するものと思われます。
現在は、このイットリウムを全て輸入に頼っており、日本には現在のところイットリウム埋蔵量が殆どないため、今後も暫く輸入に頼らざるを得ないと思われます。しかし、必要不可欠な資源は【自給自足】が本来のあり方であることを考えると、今後は都市に眠る大量のイットリウムを回収し、リサイクルすることが必要不可欠となるでしょう。と同時に、海底鉱石など新たな採掘の開発も必要不可欠と考えられます。
一方、2030年年間消費エネルギーの予測値である1万PJ(ペタジュール) [4]をマグネシウムで補った場合の、必要なイットリウムの量は約4万tですが、これは、到底実現できるレベルではありません。よって、今後イットリウムをどれだけ確保することができるかを想定することが、マグネシウムエネルギーを算出するうえで必要になります。
そこで、今後都市からイットリウムを回収することを前提にして、どれだけマグネシウムエネルギー≒レーザー媒質に回すことができるか。2030年時点でのシミュレーションに基づいて、作りだせるマグネシウムエネルギーを算出してみます。

◆マグネシウムに使えるイットリウムの算出
都市に眠るイットリウムを回収するため、2011年に「レアメタル・レアアースリサイクル法」を施工することを想定し、現在の家電リサイクル法の実績(50~60%)と同様に、リサイクル率約50%でイットリウムを回収します。また、リサイクルからもっと根本的に推し進めて、レンタルリース制にすれば、さらに回収率を飛躍的に高めることも可能かもしれません。『メタル資源: リサイクルの課題もあるが、製品の「長寿命化」と「レンタル制」への転換が本質課題。るいネット』 [5]参照。
2030年まで現在と同量(年間500t)のイットリウムを輸入し続けると仮定し、リサイクル率を50%すると、500t×50%=250tより、毎年250tのイットリウムが日本国内で備蓄されることになります。結果、2011年~2030年の20年間では、250t/年×20年=5000tのイットリウムが備蓄されることになります。(輸入量を変えずにリサイクル分のみ備蓄し、現状程度の利用状態を継続していくことを前提とします。)

◆マグネシウムエネルギーが受け持つことが出来るエネルギーの割合(2030年時点)
前回の第9回でおこなった試算 [3]より、2030年の日本の年間消費エネルギー量1万PJを賄うには、イットリウム38400tが必要。よってイットリウム5000tでは、5000t/38400t=13%より、2030年の年間消費エネルギーの13%を賄うことが可能となります。(2030年以降は、レーザー媒質のイットリウムを100%リサイクルさせることを前提とします。)
2030年のエネルギー必要量の内訳 [4]より、運輸部門-貨物の割合が10%。よって、マグネシウムエネルギーでは、この運輸部門-貨物の全エネルギーを賄うことが可能となります。マグネシウムエネルギーは他のエネルギーに比べ、その運搬性や貯蔵性の良さに大きな利点がありますので、移動体のエネルギーとしての利用がもっとも有効性が高いと考えられます。また、マグネシウムは、その燃焼を利用した内燃機関(蒸気タービン)としても効率よく利用できることからも、運輸部門への利用は大きな実現可能性を秘めていると思われます。

◆まとめ
 自給自足可能なエネルギーとしてマグネシウムを見た場合、2030年時点で1万PJ(ペタジュール)の10%=1千PJを負担することは可能と思われます。変換効率等の改善や、レンタルリース制での回収率の上昇などを組み込めば、20%近い上昇も見込めるかもしれません。ただし、変換効率が改善されたとしても、根本的には変換回数が多いので効率が悪く、もっと有効に太陽のエネルギーを活用する方法があるようにも思われます。感覚的には大袈裟すぎる!
 次回の最終回では、【自然の摂理に則っているか】という視点で、このマグネシウムエネルギーの可能性についての最終結論とします。

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