今まで見てきたように、石化原料から作るプラスチックをバイオマス原料に変えてゆくことは市場に任せておけません。バイオマスサイクルを完成させるための林業の再生も、使用済み木材の収集も国家の課題として取り組む必要があります。そのためにはどのような政策が必要なのか?
まず、ちょっと古いですが民主党マニフェストを参考に見てみましょう。一応、まだ政権を運営しているので。
写真はこちら [1]からお借りしました。(やっぱり、この人では期待感が薄れちゃいましたねぇ)
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●民主党政策集 INDEX2009から、森林林業関連分野政策抜粋 農林水産 [2]
■「森林管理・環境保全直接支払制度」の導入による森林吸収源対策等の確実な実行
国土の保全・水源のかん養等、森林の有する公益的機能を十全に発揮させ、京都議定書の削減目標達成に必要な森林吸収量を確保するためには、適正な森林管理が必要です。そのため、森林所有者に対して森林の適切な経営を義務付け、間伐等の森林整備を実施する上で森林所有者が負担する費用相当額を交付する「森林管理・環境保全直接支払制度(仮称)」を導入します。
また、公共事業のうち治山治水事業の内容を抜本的に見直し、環境・緑を守る持続可能な事業(みどりのダム構想)に転換して、積極的に推進します。
■路網の整備と林業機械の導入による林業経営の安定化
施業意欲の低下した森林所有者に代わり、森林組合や素材生産者等の民間事業者を林業経営の中心的担い手として位置付け、その育成を図ります。民間事業者による対応が困難な場合には、国が森林整備等を行うセーフティネット機能を確保します。
また、林業の生産性向上を図るため、高規格でコストがかさむ林道整備に代え、路網の計画的な整備を促進し、高性能林業機械を積極的に導入します。
■木材産業の活性化と木質バイオマス利活用の推進
木材自給率50%を目標として設定し、零細で多段階の木材流通体制を大胆に見直し、効率化を図ります。それにより、木材関連産業を活性化し、中山間地域を中心に100万人の雇用拡大を実現します。
また、木の地産地消、顔の見える木材による家づくりを促進するとともに、公共的建築物における地域材の優先使用・利用拡大を推進し、木の文化の再生と持続可能な循環型社会を構築します。
さらに、エネルギー自給率の向上と地球温暖化防止に大きく貢献する観点から、太陽光(熱)、風力、地熱、小水力、木質バイオマス等を持続可能な自然エネルギーとして利活用することとし、エネルギー素材の供給という役割により山村の活性化を推進します。
なお、違法伐採による外材の輸入を規制するため、「森林の適切な経営」に基づく木材であることを証明する「トレーサビリティ(追跡可能性)システム」を導入します。
■国有林野事業の改革
国有林野事業について、農林水産行政と環境行政を一体的に推進する観点から、国有林野事業特別会計を廃止し、その組織・事業の全てを一般会計で取り扱う等、その在り方を抜本的に見直します。
中々、良いことが書いてあります。
林業の復興とバイオマス利用をリンクさせているのも評価出来るでしょう。
しかし、「5・リグフェノールの実用化は進んでいるか」で述べたように、まだ、市場の中での改善では不十分ですし、林業とバイオマス利用と都市消費を繋ぐサイクルのイメージがありません。
●何が必要か
マニフェストでも述べられているように、まず林業の復興が必要です。原料が国産材でなければ元々の「輸入するしかない石油製品に頼らない」意味が無くなります。 しかし、マニフェストでは、林業のその消費先として公共事業での使用や住宅建設への補助程度にしか書かれていません。これからの林業は木材加工品の原料というだけでなく、山から出る間伐材も、加工途中で出る端材も全てが原料となるバイオマス供給源となるのです。バイオマスサイクルは一次利用の拡大というよりも、エントロピーの流れに沿って、木材そのものを使う利用から、少しずつ分解しながら利用し、分子レベルで組み替えてプラスチックに作り直し、最後はエネルギー利用(燃焼)するというものです。
従って、各段階の製造業も重要ですが、使用後の製品を次の段階の製造に廻す流通こそ鍵となります。製品は一度市場に出て個人で消費されます。この使い古しを回収するシステムを作ることこそ国家の役割です。市場に任せていては成立しません。ゴミやリサイクル品の回収が行政の仕事となっているのと同じです。
例えば、廃棄物の分別回収は現在の金属系、プラスチック系、以外に木系を分別する必要があるでしょう。家具類は今でも粗大ごみとして有料処分されていますから同じです。食堂には割り箸用のポストを設置することになります。これらを回収し、自治体単位で作られるリグノフェノールプラントへ送り、リグノフェノール化したバイオマスは元石油コンビナートの中にある改造されたリグノフェノール用プラスチック原料の精製工場へ送られプラスチックが作られます。この、原料供給する部分が国側の仕事です。
ここに雇用も生まれます。民主党マニフェストでは林業関連で100万人雇用創出と言っていますが、その内訳は森林整備10万人、木材加工30万人、工務店30万人、グリーンツーリズムなどの観光業40万人となっており、結局消費を喚起するしかない内容です。それよりも実際に社会に必要な木質系バイオマス循環事業で雇用を生み出す方が有効なはずです。これは日本全国各地域で成立します。
また、製品の流通も市場に任せていては、石油系プラスチックの方が最初はどうしても安いでしょうから、税制もいじる必要があるでしょう。石化製品は贅沢品となってゆくのです。
●実現のロードマップ
まず、法整備とリグノフェノール生成技術の確立が必要です。
リグノフェノール生成プラントが確立すれば、その建設と収集システムの整備となります。
日本では既に家電製品の回収が進んでいますから、これと同じように整備してゆけば可能だと思われます(家電製品の時も海外から出来るはず無いと笑われていた)。日本では社会的共認さえ出来れば可能になるのです。
始めは量が限られているでしょうから、大都市部で実験的に始まるでしょうが、サイクルが確立すれば全国に広がるでしょう。その中で市場もこれに対応して補足的な業種が発生し、社会の一部に成っていくのだと思います。
そうすれば、先に試算したように国内木材生産量全てをバイオマス循環サイクルの中に乗せ、国内消費量を賄うことが可能となるはずです。
技術確立に5年、実験サイクル試行に5年、各地に展開に5年といったところでしょうか。この15年ほどの間に林業の復興、新しい業態への脱皮が行なわれるわけです。
以上で「バイオプラスチックの可能性」シリーズを終わります。
可能性を感じていただけましたでしょうか?
■まとめ
『次代を担う、エネルギー・資源』のバイオプラスチックシリーズでした。
バイオプラスチックの可能性1~プラスチックとは?~ [3]
バイオプラスチックの可能性2 ~バイオプラスチックとは?~ [4]
バイオプラスチックの可能性3~バイオプラスチックの種類~ [5]
バイオプラスチックの可能性4~リグニンの利用とは?~ [6]
バイオプラスチックの可能性5~リグノフェノールの実用化は進んでいるのか?~ [7]
バイオプラスチックの可能性6 ~「バイオマス循環サイクル」社会の構築~ [8]
バイオプラスチックの可能性7~「バイオマス循環サイクル」の意味~ [9]
バイオプラスチックの可能性8~実現のための政策ロードマップ~ [10]
1:石油はエネルギーだけでなく、プラスチック類にも使われ、石油消費を減らすためには、プラスチック類の生産をどうするかが問題になる。また、プラスチックは、その性質から生活に欠くことなくなっているが、バブル前の消費状態にまで戻れば、消費量はほぼ半分に出来る。
2:バイオプラスチック(=バイオマスによって作られるプラスチック)は年々生産量も増え、生産効率も向上しているが、最も進んだポリ乳酸でも全プラスチック消費を賄うことは不可能。
3:バイオプラスチックには色々な種類があるが、現状では石化プラスチックに替わるものは出ていない。エネルギー効率が悪くコストがかかるか、食糧となるデンプンを原料にしているか、となっている。
4:そんな中で、植物中のリグニンをリグフェノールとして活用する技術が出てきた。これは、反応槽に木材を漬けておくだけでリグフェノールという樹脂成分に変換するというもの。
5:しかし、調べてみると、このリグフェノールの技術は発見されてからかなりたつが、実用化には到っていない。木材をわざわざ投入していてはペイしない。市場の壁に阻まれている。
6:従って、木材を木材として消費した後にリグフェノール化すべきであり、その回収から社会の中でしくみを作る必要がある。そうすれば、林業⇒材木⇒木材製品⇒リグフェノール⇒プラスチック製品⇒燃料⇒肥料⇒と、都市と山の間にバイオマスサイクルが確立する。
7:この事業は、脱石油を考える上で、エントロピーの流れに沿ったサイクルという意味でも、認識転換となる。
8:そして、このサイクルを確立する為には国家の関与が必要で、極めて統合度の高い課題である。おそらく、サイクルを作り出すためには15年ほどの期間をかける必要があるだろう。