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【気象シリーズ】宇宙気候から気象変動を考える6~太陽風と宇宙線の違いは?地球磁場との関係は?

【気候シリーズ】宇宙気候から気候変動を考える5~スベンスマルク博士による宇宙気候入門(後編) [1]では、宇宙線が地球気候(雲の発生)に影響を与えている、という最近話題の説を紹介しました。
今回は、その記事の中で疑問の一つとして残っていた、

電磁場と放射線の関係は?
太陽活動が活発なときに、太陽風は地球の磁場があるために入って来られない。
一方、太陽活動が停滞すると、宇宙線は地球の磁場があるにも関わらず地球に入れる。
磁場と放射線の関係はどうなっているのか?

について扱います。
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※画像はこちら [3]からお借りしました


太陽風、宇宙線、そして地球磁場の関係はどうなっているか?
順番にそれぞれの特徴を整理してみましょう。
◆太陽風とは何か? ~磁気と電気を帯びたガスの流れ
太陽からは、いろいろな形でエネルギーが放出されていますが、太陽風はそのうちの一つです(※他には、光エネルギーやニュートリノと呼ばれる粒子などがあります)。一体、太陽風とはどんなものなのでしょうか?
太陽のコロナのガスは温度が100万度以上にもなるため、水素原子は陽子と電子に分解しています。陽子と電子を主成分とするコロナガスは、太陽の重力を振り切って外に流れ出し、惑星間空間を毎秒300~800kmの速さで吹いています。このガスの流れを太陽風と言います。
【太陽風】
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※画像はこちら [5]からお借りしました
太陽風の成分のほとんどは、プラスの電気を持った陽子と、マイナスの電気を持った電子。このような電気を帯びたガスをプラズマと呼びます。太陽風には、このプラズマの他に、ヘリウムや酸素、シリコン、鉄など、重い原子のイオンが数パーセント混じっています。
プラズマには磁力線を閉じ込める性質があるため、太陽風は、太陽の磁力線をも惑星間空間に引っ張り出します。つまり、太陽風とは、磁気と電気を帯びたガスの流れなのです。その温度は大変高温で、太陽から離れるに従って下がりますが、地球軌道あたりを流れる太陽風の温度は、約10万度もあります。
一方で、太陽風は非常に薄いガスで、1立方cm(角砂糖くらいの大きさ)あたり10個程度の粒子しかありません。この密度は、地上で作ることができるどんな真空状態よりも希薄で、太陽風は超真空の世界に近いとも言えます。
つまり、太陽風の粒子1個1個は、10万度という温度が示すように、地球の大気の分子に比べて大きなエネルギー(運動速度)を持っていますが、あまりにも粒子の数が少ないため、全体で見ると熱エネルギーは非常に小さくなります。
◆太陽風VS地球磁場
太陽風は、常に地球へ向かって吹きつけていますが、太陽風のガスは地球磁場によってせき止められて、地上まで届くことは(殆ど)ありません。
地球磁場が太陽風をせき止めている場所は、太陽風が吹きつける強さによって変わります。地球の昼間側では、地球の中心から約6万km(地球の半径の約10倍)離れたところにあります。一方の夜側では、地球磁場は太陽風に引きづられて、ずっと遠方まで伸びています。このように、太陽風が地球磁場に当ることで、下図のような吹き流しのような形をした空間(磁気圏)が作られます。
【地球磁場】
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※画像はこちら [7]からお借りしました
それでも、太陽風が地球の磁気圏に当ると、太陽風の持つ莫大なエネルギーの一部が、いろいろな形で磁気圏の中に入ってきます。その結果引き起こされる現象の一つがオーロラです。
【オーロラの発生】
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※画像はこちら [9]からお借りしました
◆太陽風VS宇宙線
では、宇宙線と太陽風の関係はどうなっているのでしょうか。
宇宙線(銀河放射線)は生命にとって有害で、生物がたくさん浴びると、癌や遺伝子の異常、死に至る危険さえあります。
太陽風は、この宇宙線が地球にたくさん降り注ぐのを防ぐ、バリアの役目を果たしています。ここで重要なのが、太陽風が持つ磁気の力、つまり磁場です。磁場には、電気を帯びた粒子の進行方向を曲げる作用があり、宇宙線の大半は電気を帯びているため、太陽風の中に入ろうとすると磁場の力が働き、進入することができません。但し、下図のように太陽活動の強弱により、時期によってバリアの効果が変化すると言われています。
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※画像はこちら [11]からお借りしました
◆宇宙線VS地球磁場(そして地球大気)
宇宙線(銀河宇宙線)は太陽風が持つ磁場だけでなく、地球自身が持つ地球磁場によっても、進入を妨げられています。その遮蔽効果はどの程度あるのでしょうか?
広義の宇宙線(「宇宙放射線」:銀河宇宙線と太陽放射線から成る)での値になりますが、地球磁場によって14%程度減じられると見積もられています。また、地球磁場の強度の違いから、緯度によって宇宙線の入射強度が異なります。低緯度地方ほど宇宙空間へ跳ね返されるため宇宙線の強度は低くなり、高緯度ほど高くなります。
そして、地球磁場を通り抜けた広義の宇宙線(宇宙放射線)=一次宇宙線は、次に地球大気と接しますが、ここで大気分子の原子核と衝突して核反応を起こし(二次宇宙線:陽子、中性子、パイ中間子、ミュー粒子、電子、ガンマ線など)、その度にエネルギーを与え、それに反比例して持っていたエネルギーを除々に減弱していきます。
そして、最終的には地上に到達する前に二次粒子を発生させながら消滅するため、結果として、地上の生物は宇宙線を致命的なレベルで浴びることなく、日々の生活を営めているのです。
【一次宇宙線と二次宇宙線】
[12]
※画像はこちら [13]からお借りしました
◆まとめ
太陽風と宇宙線の違いは?地球磁場との関係は?という疑問から始まった今回の記事ですが、以下のようにまとめてみました。
1.広義の宇宙線(宇宙放射線・一次宇宙線)を分類すると、
         └銀河宇宙線(1MEV~10の12乗MEV)
         └太陽宇宙線(1MEV~数百MEV)
                └太陽風
                └太陽フレア粒子
                └その他
※MEVは、イオン、素粒子などのエネルギーの単位。ミリオン・エレクトロン・ボルトを表わす。粒子単体でエネルギーを比較すると、銀河宇宙線の方が太陽宇宙線に比べて圧倒的に高い。
2.太陽風は、磁気と電気を帯びたガスの流れ。それが作り出す太陽圏磁場が、銀河宇宙線の太陽系への侵入を一定防いでいる・・・第一のバリア
3.地球磁場が、宇宙線(一次宇宙線:銀河宇宙線と太陽宇宙線)の地球への侵入を一定防いでいる。・・・第二のバリア
4.地球大気が、宇宙線(一次宇宙線:銀河宇宙線と太陽宇宙線)の地上への侵入を防いでいる。核反応で二次宇宙線に変化し、一次宇宙線の持つ高いエネルギーが減衰する形で地上に到達する。・・・第三のバリア
5.以上、三つのバリアによって、生物は宇宙線の脅威から守られている。
尚、今回はコラム的に宇宙気候に関連する用語を整理しましたが、引き続き【気象シリーズ】では、これら宇宙気候に関連する諸要素が、地球の気候にどう影響しているのか?異常気象との関連は?を探っていきます。
※参考サイト
太陽・太陽風50のなぜ [14](名古屋大学)
宇宙線50のなぜ [15](名古屋大学)
宇宙放射線 [16](JAXA)
宇宙線 [17](ウィキペディア)
宇宙放射線 [18](宇宙情報センター)
宇宙放射線の種類 [19](ATOMICA)

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