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『次代を担う、エネルギー・資源』 トリウム原子力発電6-2/2 ~原子力発電を巡る世界の動き【発展途上国編】~

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画像はこちら [1]からお借りしました。

前回の『次代を担う、エネルギー・資源』 トリウム原子力発電6-1/2 ~原子力発電を巡る世界の動き【先進国編】~ [2]に引き続いて、今回は発展途上国の原発の開発状況を扱います。

前回の記事でも扱いましたが、近頃では先進国が発展途上国の原発開発を支援する動きが活発になっています。そこには先進国が、発展途上国を原発市場拡大のターゲットにしている思惑も見え隠れします。

それでは、発展途上国の原発開発の実態はどうなっているのでしょうか?発展途上国の中でも、原発開発計画が特に盛んな中国とインドの状況を整理していきます。

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☆☆☆発展途上国の状況

☆中国
1.原子力発電に関する基本政策
・旧ソ連との対立以降、独自に軍事利用目的の原子力開発を行なってきたが、1972年以降、発電用の原発の開発を進め、1994年に加圧水型の泰山原子力発電所の商業運転を開始した。原発導入は、政府の5ヵ年計画に盛り込まれているように、推進派が主流である。

・経済成長が鈍化し、失業問題が顕在化しているため、海外からの輸入原発に比べて建設投資額が少ない原子炉の国産化を重視している。

・高レベル核廃棄物処理に関しては、西北ゴビ砂漠地帯に地下貯蔵施設の建設が検討されている。

2.原発の稼動状況
・2008年1月現在、11基・911万KWの発電容量を備えた原発があり、建設・計画中のものが16基・1,590万KWある。

3.ウラン資源とトリウム資源の埋蔵量
・ウランの埋蔵量が約3万8千トン、トリウムの埋蔵量が約38万8千トン。

4.トリウムの原発利用への取組み
重水炉2基を利用したトリウム燃料利用の開発を進めている。

・中国のトリウム資源埋蔵量については公表されていないが、かなりの埋蔵量があると言われており、また、トリウムがレア・アースメタルの副産物として産出することから、世界のレア・アースメタルのほとんどを生産している中国には既にかなりのトリウムが貯蔵されていると予想されていて、将来的に輸入ウラン燃料への依存度を低減することを目的としてトリウム燃料サイクル研究開発に取り組んでいる。

☆インド
1.原子力発電に関する基本政策
・国内の豊富なトリウム資源を利用した核燃料サイクル技術の確立を国策の優先事項としており、原子力開発を始めた時よりこの戦略はぶれることがなく研究開発が行なわれている。

・自主技術で開発した第四世代の先進型重水炉(※AHWR)の低濃縮ウラン使用の改良型を発表し、海外への輸出を表明している。
※Advanced Heavy Water Reactor:トリウム燃料サイクルの中で、トリウムから転換したウラン233とプルトニウムの混合燃料を使用して発電を行なう原子炉の形式。

その一方で、ロシア、フランス、アメリカなどの先進国から軽水炉を輸入する動きもある。(「MONEYzine」2010年3月6日記事より) [3]

2.原発の稼動状況
・2008年1月現在、17基・412万KWの発電容量を備えた原発が稼動中であり、14基・996万KWの原発が建設・計画中である。現在、運転中の原発は、大半が濃縮ウランを必要としない加圧水型重水炉(PHWR)である。

3.ウラン資源とトリウム資源の埋蔵量
・ウランの埋蔵量が約4万2千トン、トリウムの埋蔵量が約29万トン。

4.トリウムの原発利用への取組み
インドの原子力開発計画の長期的目標は、先進型重水炉によるトリウムサイクルである。以下の3段階での開発を計画している。※現在は第2段階。

第1段階:加圧水型重水炉を使ってウラン238からプルトニウム239を生産
第2段階:高速中性子炉を使ってプルトニウムを燃焼させて、トリウム232からウラン233を増殖させる
第3段階:先進型重水炉(AHWR)を使って、ウラン233とトリウムを混合させた燃料で発電しながら、ウラン233を生産する最終段階に達し、トリウムから出力の39%を得る。

上記の通り、現在主流の固体燃料型の原子炉を改良することによって、トリウムを利用する計画である。つまり、熔融塩炉ではなく、既存技術を利用したトリウム燃料の開発を進めている。

☆【先進国編】と【発展途上国編】を通じてのまとめ

・先進国では、将来的な既存の原発の建て替え需要を見越した改良型のウラン燃料原発の開発を巡って資金投入がなされている。また、発展途上国の原子力開発に参入することで、新たな利権を獲得しようとする動きが活発化している。

・発展途上国では、限られた資金を、軍事にも商業用発電にも利用できる原発へと集中的に資金注入している。また、今後原発を新規に開発する上で、ウラン燃料の不足→確保が課題となるため、既存技術改良によるトリウムの核燃料利用を計画する動きが見られる。

・核廃棄物処理については、先進国は日本とフランスを除いて再処理を断念して地下埋設の方向で動いているが、恒久的な地下埋設を行なう最終処分場の立地の問題から、原発敷地内などの貯蔵施設における保管を続けているケースが多い。

・日本においては、恒久的な地下埋設処分について国民的な合意を得られておらず、一時貯留施設だけが存在する。核廃棄物の最終処分委託を海外に受け入れられる可能性もなく、現在は原子力発電所の使用済燃料の再処理をイギリスおよびフランスに委託し、返還されたガラス固化した核廃棄物を青森県六ヶ所村の貯蔵施設で保管している。また、再処理サイクルを確立する目途も立っていない。原子力発電のバックエンドである、使用済み核燃料・原子炉廃材などの核廃棄物の最終的な処分方法の問題は、原子力発電の開発を今後も推進するかどうかの分岐点になると思われる。

〈終わり〉

〈参考にしたサイト〉
原子力委員会「平成20年版 原子力白書」 [4]
原子力を考える [5]
るいネット「トリウムをめぐるオバマ政権の動き」 [6]
資源エネルギー庁「原子力政策の現状について」 [7]
李 志東「中国における原子力発電開発の現状と中長期展望」 [8]
日本原子力研究開発機構「インドの原子力発電計画と核燃料サイクルの見通し」 [9]
日本原子力研究開発機構「原子力海外ニューストピックス 2009年第4号」 [10]
日本原子力研究開発機構「原子力海外ニューストピックス 2009年第6号」 [11]
原子力辞典 ATOMICA 「フランスの原子力政策および計画」 [12]
原子力辞典 ATOMICA 「ドイツの原子力発電開発」 [13]
原子力辞典 ATOMICA 「アメリカの原子力政策および計画」 [14]
原子力辞典 ATOMICA 「日本における放射性廃棄物の発生の現状と将来の見通し」 [15]

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