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そもそも、水資源というものは、自然循環の中では、偏在性を有するということが前提であった。だから、本来ならば、地球上のある地域で地下水が枯渇したり、河川が汚染されても、それはその地域のみにのことであって、全世界的に影響を及ぼすには至らなかった。
しかし、現代はどうか?エネルギー・食糧・工業品などを、各国が分業を行う市場のグローバル化に伴い、海外に依存を強める中で、水資源は、自然循環の枠から外れた、新しい偏在性を有するようになった。つまり、これまで述べてきた水資源の悪化が、地域を飛び越え、全世界に影響しうるということになる。
その影響が、私たちにとって、どのような危機をもたらすのだろうか?
水資源の危機シリーズも、いよいよ前半のラストです。ぜひ応援お願いします。
食糧問題に直結している
日本の食糧自給率は、カロリーベースで40%と言われている。ということは、残り60%(1245万ヘクタール相当の農産物・食料)を海外に依存しているということになる。
日本が依存しているのは、単純に食料の面だけではない。食料を海外に依存しているということは、それらを作るために用いられる水もまた、海外に依存しているということになる。もし日本が、これらの輸入食料を全て自給するとなると、627億トンもの農業用水が必要となる。日本国内での灌漑用水は527億トンと言われており、まず何より水資源不足のために、自給率100%を達成する事は不可能なのだ。
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ミツカン水の文化センター [3]より-日本を含めた世界中の多くの国が、水の輸入国であることがわかる-
この状態は、何も日本に限ったことではない。今や世界各国で食糧のやり取りが行われており、全く海外に依存していない国の方が珍しいだろう。
では、逆に輸出国(アメリカ、中国、オーストラリア等)の状況はどうだろうか?今後も多くの国々の『世界の食糧庫』たりうるのだろうか?
これらの国々の農業用水も、先に述べられた3つの危機に晒されている。
≪①水使用量の増大≫ ≪②水資源の汚染≫ ≪③水の循環系の破壊→砂漠化≫
その原因となっているのが『灌漑農業』と『F1種を用いた超近代農業』だ。

灌漑農業
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ライフスタイル23 [5]より-アメリカ・アイダホの農場。緑の箇所が灌漑で水が行き渡り食物が育つ箇所。それ以外の周辺は、自力では植物が育たない、乾燥地域であることがわかる-
『灌漑農業』は、従来の天水農業と違い、地下水や河川の水を引っ張ってくることにより、降水量の少ない地域でも農業を可能にした。大規模農業が実現されれば、それだけ多くの水を使うことになり、農業用水の使用量増大を招く。また、広い農地は、人の手だけでは管理が難しく、より生産性を高めるためにも、農薬や化学肥料に頼ることになり、結果さらなる土壌汚染→水質汚染を招く。

F1種や遺伝子組み換え作物を用いた超近代農業
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Garbagenews.com [7]-F1種や遺伝子組み換え作物は、今や世界の主流である
一方、『灌漑農業』を更に発展させた『超近代農業』では、遺伝子操作をしたF1種を用いることにより、単収を上げることに成功した。このF1種は全世界の農業の主流であり、日本と言えども例外ではない。F1種の特徴としては、以下のことが上げられる。
①個体間のバラつきが少ない
②成長が早い
③収量が多い
④一斉に発芽し、一斉に収穫できる
⑤耐肥性がある(肥料によく反応する)
⑥強力な農薬への抵抗力が高い
⑦一世代限り
早い成長や一回当たりに実る量を増やそうとすれば、当然その分水や肥料を必要とする。
そして多くの肥料をまくため、それに耐えうる個体でないといけないため、耐肥性が強くなる。しかし、多くの肥料をまくといくことは、その分雑草などにも栄養豊富な状態となる。そのため、強力な農薬で雑草を駆除するために、その農薬への抵抗力が必要となるのだ。それが更なる土壌汚染→水質汚染を招く結果となった。
元々、灌漑に頼る地域の水資源は限界がある。たとえば、アメリカの大穀倉地帯は、8州にも跨り、水量が4,000k(琵琶湖150杯分)にもなる巨大な“オガララ帯水層”に依存している。帯水層の水は化石水と呼ばれ、氷河期に長い年月をかけて地下に蓄えられたものである。現在は、ゆっくりと水がしみこむ程度で涵養水量は6~8k/年に対し、揚水量は3倍の22.2k/年と、はるかに上回っており、地下水位も、ここ数十年で20~30mも低下した。この一帯では、数千の農場で井戸が枯れたとも言われており、既に耕地面積の減少にも繋がっている。
世界の穀倉地帯がこのような状況に置かれるということは、アメリカ国内だけの問題ではない。ここに依存している多くの国々が影響を受ける、世界的な食糧問題に発展するということだ。収量が減れば、農産物の価格高騰は免れない。困るのは、日本のような、食糧の多くを海外に依存する国だけではない。一番影響が大きいのは、高騰した農作物を買うことが出来ない発展途上国の国々である。そうなれば、貧困と飢餓の問題が、より一層深刻化するだろう。
参照 
■るいネット [8]
■自然の摂理から環境問題を考える [9]
■食神 [10]
■『水戦争-水資源争奪の最終戦争が始まった』柴田明夫 著(角川SSC新書,2007年)
■『「水」戦争の世紀』モード・バーロウ、トニー・クラーク 著(集英社新書0218A)
■『ウォーター・ビジネス』中村靖彦 著(岩波新書878)
■『水の未来』フレッド・ピアス 著(日経BP社、2008年)
■『水の世界地図』ロビン・クラーク 著(丸善株式会社、2006年)