- 地球と気象・地震を考える - http://blog.sizen-kankyo.com/blog -

磁力の発見の歴史(近代)⑦~ロバート・ボイルの「磁気発散気」を前提とした磁化現象~

【ロバート・ボイル(1627-1691)】

[1]

磁力という点に関しては、ボイルは引力を認めず、遠隔力としての引力を直接的接触ないし圧力の結果とみなし、その限りでは機械論一般に共通の立場であるが、ボイルはそう考えるに至る特別に強い動機と根拠があった。

 

ボイルの物理学研究の原点は「真空の実験」にあった。ボイルは『吸引による引力の原因について』で「その真空嫌悪の仮定よれば、水やその他の液体が揚水ポンプの管の中をどのような高さにも上昇するのは真空を忌避するためであるとされるが、それは実験とは合わない。」と断じている。ボイルはトリチェリ管を真空ポンプの容器内にいれて排気すると、排気につれて管内の水銀柱が下がっていくことを示し、真空嫌悪に基づく説明の誤りを暴き出している。ボイルの見解では「揚水ポンプにおいて真空にした管の中を水が上昇するのは、管の中にある水面の部分に圧力が全くかからず、そのため水の上昇が妨げられないのに対して、管の外で停留している水面の他の部分には大気の圧力がかかり、その上部にある大気の重さにより強く圧迫されるということから単純に生じる機械的必然性による」として、つまり、管内の真空部分が水柱を吸引するのではなく、外部の水面に接している大気がその水面を押し下げることで、結果的に管内の水を押し上げるのである。この事実は、ひろく「引力」と呼ばれている他のいくつもの現象も直接の接触力、すなわち圧の効果として理解されるはずであるとの確信をボイルに与えたようである。

したがって、ボイルにとっては、遠隔力の典型である磁力も近接作用として説明されるべきこととなり、実際ボイルは磁力そのものについては触れていない。

【ロバート・ボイルの真空実験機器】

[2]

ボイルが論じているのはもっぱら鉄の磁化についてであり、『実験の観察』の一部である『磁気の機械的生成についての実験と観察』は、磁気がスコラ哲学でいう「実体的形相」ではなく、鉄の磁化(磁気誘導)が「機械的作用」であること、すなわち「磁気的性質と云えども機械的に生み出されたり変更されたりするものである。」ことを示すためのものであった。

 

ボイルにとって磁化とは純然たる「機械的作用」の結果だということとなる。例えば

・鉄棒を南北に放置しておくと「地球の磁気発散気の連続的作用により」十分な時間がたてば磁化される。

・赤熱した鉄を鉛直に立てかけて冷却させると磁化される。それは「火の激しい熱によって作られるその部分の大きな動揺が、鉄がまだ柔らかい間に鉄を配列し、その通孔をより緩くし、その部分をより従順にし、それが冷たいときに比べて地球の磁気発散気からの影響をより速やかに受け入れるように仕向けるからである。」

というように、磁化現象の機械論による説明の典型となっている。

 

【磁力線の発散と伸長を引き起こすプラズマ状態の遷移条件を明らかに】

 

これらから分かるように、ボイルはパワー同様に、磁石や鉄は通孔を有するというデカルトのモデルをそのまま受け入れ、その通孔を通るものを、やはりパワーにならって「地球の磁気発散気」としている。「磁気発散気」は、デカルトにおける「施条粒子」と同様に、地球の両極を経由して地球の内外を循環しているのであり、その流れの打撃によって赤熱した鉄に通孔を開かせ磁石に志向性を与えているとされている。

 

したがって、ボイルにおける磁化現象は、特殊な作用能力を有する「磁気発散気」の存在を前提として成立している。

 

【参考】山本義隆著 「磁力と重力の発見」~3.近代の始まり~

[5] [6] [7]