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磁力の発見の歴史(近代)⑥~ロバート・ボイルの「粒子哲学」~

〇ロバート・ボイル(1627-1691)

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アイルランド・リズモア出身の自然哲学者、化学者、物理学者、発明家。神学に関する著書もある。ロンドン王立協会フェロー。ボイルの法則で知られている。ボイルの研究は錬金術の伝統を根幹としているが、近代化学の祖とされることが多い。特に著書『懐疑的化学者』は化学という分野の基礎を築いたとされている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%82%A4%E3%83%AB [2]

 

科学の世界でボイルを有名にしたのは、フックの協力を得て作り上げた真空ポンプ用いた一連の大気と真空の実験と、「ボイルの法則」と呼ばれている事実の発表。それは、特定の目的のために作り出された装置を用いた計画的な実験と定量的な測定に基づき、数学の言語で表される法則を確定するという17世紀における「新科学」の実践の傑出した例となっている。

 

【ボイルの法則】

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ボイルは自身の物質観を「粒子哲学」と称している。ボイルの思想を特徴づけているのは、第一には、自然的世界を自動機械のように見る自然観であり、第二に、物質の呈する全ての性質がその立場から説明されるという物質観であり、総じて徹底した機械論哲学にある。彼にとって「化学は機械論的な自然哲学の有効性を証明する手段なのであった。」とまで言われている。

 

1674年の『自然哲学にくらべた神学の優位』には「世界はいわばひとつの大きな時計仕掛けであり、自然学者は一介の機械工である」と記している。重要な点は、壮大なわりに単純な宇宙論を言葉の世界だけで展開したデカルトと異なり、化学者としてのボイルの機械論は地上の物質の複雑で多彩な物理学的。化学的性質についての実験によって個々に検証されなければならないものであった。(それが、『形相と質の起源』の序文に明白に語られている。)

 

新しい科学の立場からボイルが対峙し戦っていたのは、一方では「土・水・空気・火」の「四元素」を基本とするアリストテレスの自然観と、それぞれの物質がそれに特有の性質を呈するのは「実体的形相」の所有によるという中世スコラ哲学の理解であり、他方では「塩・硫黄・水銀」の「三元素」をすべての物質の基本と見るパラケルスス主義科学者の物質観であった。

 

ボイルは「物質と運動」こそが物体の「普遍的基質」であると論証している。「運動」を「形状」の上位に位置付けるボイルの立場は、「形状」と「運動」を同列に置いたデカルト機械論や、「形状」を上位に置き原子の諸性質を第一義的に形状に還元しようとしたそれまでの原子論を超えるものであった。このことが最も明白に見て取れるのが、ボイルの熱と冷の理解となっている。「熱い・冷たい」ということが質的で絶対的な対立ではなく熱運動の激しさの度合の相対的な差として一元化され、測定不能な「熱と冷」という質的理解から測定可能な「高温と低温」という量的理解への転換の第一歩がボイルによって踏み出されている。

 

 

【参考】山本義隆著 「磁力と重力の発見」~3.近代の始まり~

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