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磁力の発見の歴史~相容れるはずのないキリスト教神学とアリストテレス哲学との攻防に挑んだ2人のキリスト教徒

13世紀のヨーロッパでは、アリストテレス哲学の浸透によってキリスト教神学は大きな危機を迎えていた。

そんな中で、キリスト教神学と相容れるはずのないアリストテレス哲学とを無理やりにでも取り込もう、統合しようとしたキリスト教徒が2人存在する。この2人の格闘が現在の西洋科学の土台を成す思想に繋がっている。今回はその2人の人物を紹介する。

 

〇トマス・アクティス

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アリストテレス哲学をキリスト教神学に調和的に取り込むことで、その危機を救うのに成功したと云われている。トマスは当時の哲学と神学研究の中心であったパリ大学に進み、1256年に当時、キリスト教世界全体で最も高い威信を有していたパリ大学の教授に就任する。それから1273年まで、トマスは不屈の努力でキリスト教神学をアリストテレス哲学と統合することに打ち込み『神学大全』の執筆途上に1274年に亡くなっている。

 

トマスは『神学大全』を書き続ける中で、アリストテレス哲学の合理的体系でもってキリスト教神学を再編成して新しい哲学:勝義の「スコラ哲学」を作り上げた。『神学大全』には「神は意志の啓示によって人間が示されるのであり、信仰はこうした啓示に依拠している。したがって、世界に始まりがあったということは、信じられるべき事柄であって、論証されるべき事柄でも学的に認識されるべき事柄でもない。」と書かれており、現実に神学のドグマが先行していた。したがって、神学と哲学の統合といっても、キリスト教の教義に反しないような巧妙な手の込んだ論証を編み出したというべきであり、おそるべき力業だった。

トマスの死後1325年に、トマスの神学がヨーロッパ・キリスト教世界に正式に認められるようになり、勝義のスコラ学が誕生し、その後の中世ヨーロッパの精神世界を席巻風靡することとなる。

 

しかし、結局トマス・アクティスはアリストテレスの哲学に大きな影響を受けながら、普通に考えれば相容れるはずのないキリスト教神学との調和を成すために、言葉の解釈に明け暮れていただけだった(不毛)ともいえる。この不毛を見抜いていたのがトマスと同時期に生きた「ロジャー・ベーコン」であった。

〇ロジャー・ベーコン

今につながる西洋特有の「自然は支配するもの」という考え方の起点となったのがロジャー・ベーコン。

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1210年ごろに生まれたベーコンは、1240年代にパリ大学の学芸学部でアリストテレスを講じている。

ヨーロッパが十字軍運動の挫折を経験し、イスラム社会の高い技術力と経済力を思い知らされていた13世紀中期にあって、ベーコンは「それゆえ私たちは、私たちと信仰なき者たちに共通の根拠を探さなければならない。それがすなわち哲学である。」と主著した『大著作』で記している。ただ、だからと言ってベーコンがキリスト教神学の上に哲学を置いたわけではなく、「完全な知恵はひとつであり、それは聖書に含まれている。」「ひとつの学問すなわち神学が他の諸学の支配者であり、残余の学問が必要とされるのはひとえにこれが為である。」とも記されている。

 

ベーコンの学問思想・科学思想は、彼のいう「経験学」の提唱に集約されている。経験学の特権第三では、「自然の秘密の力を暴き出しそれを制御する術を与えるもの」として語られており、『大著作』全体の主張は、自然の秘密を探求しその驚異を提示しその力を技術的に応用することこそが、キリスト教社会を強化せしめ異教徒に対して優位に立たせるための喫茶の方策であり採るべき戦略であるという提言に他ならない。

 

もう一つ、ベーコンの思想で特徴的なものとして『大著作』第四部で記されている「月下界のものは数学の知識なしには認識されえない」と結論付けていることが挙げられる。現在の西洋科学(=学会)が数式在りきで認められる(役に、数式で証明されなければ科学と認められない。)とい状況を作り上げてしまった起点にもロジャー・ベーコンが居る。

 

私たち「自然と共存」してきた東洋人とは全くことなる「自然を支配する」ことが起点となる西洋科学の原点がここにある。

 

【参考】山本義隆著 「磁力と重力の発見」~1.古代・中世~

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