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人類の祖先である大型類人猿から木との関係があるからこそ木と人は親和性がある!?

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人工物質を使用した空間が人体に及ぼす影響が明らかになると同時に木が持つ可能性に注目が集まり、木材・自然素材が見直され、木材を活用した住宅や公共建築が増えてきました。
また、将来の持続的な森林資源の持続や、カーボンニュートラル、SDGs実現の観点からも、社会的に「木材」に注目が集まっています。

では“木は人にやさしい”“木ってなんか良い”その木と人との親和性の根源はどこにあるのでしょうか?
人類史を遡っていくと、そのヒントがあるかもしれません。
そこで、人類の祖先とされている大型類人猿が発見していた木の可能性や、大型類人猿と木との関係について探っていきましょう。
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『Roland Ennos(2021)The Age of Wood.(ローランド・エノス 水谷淳(訳) (2021)「木」から辿る人類史 NHK出版』より紹介
木の複雑な構造を理解する
大型類人猿にとって、木の枝の力学的性質を理解出来るともう一ついいことがある。枝を使って、安全に眠れる巣を作ることができるのだ。全ての大型類人猿は、林冠にお椀形の複雑な巣を自力で作ることができる(ただし、図体の大きいシルバーバックのオスゴリラは林床〔森林の地表面〕にとどまるのを好む)。そしてそのような巣を作ることで思いがけないメリットが生まれ、新たな可能性が開けるのだ。
類人猿以外のサルは、林冠の高いところにある枝の上で眠る。確かにヒョウやジャガーなど地上の捕食者からは身を守れるが、危険だし眠り心地も悪いはずだ。できるだけ太い枝を見つけてその上に座り、臀部の分厚くなった皮膚に体重を預けるが、それでも夜中に何度も目が覚めてしまう。しかしお椀形の広い巣の中で眠る類人猿はずっと安全で、長く深く眠ることができる。

現在は、トロント大学に所属しているデイヴィッド・サムソンらは、類人猿以外のサルと類人猿とで睡眠中の神経活動を比較し、類人猿のほうがノンレム睡眠とレム睡眠が頻繁に切り替わることを明らかにした。これらの睡眠のタイプは、記憶を整理して定着させるうえで重要な役割を果たし、ひいては認知能力の向上につながる。類人猿は巣を作ることでますます賢くなったのかもしれない。
巣作りなんて単純作業のように思えるし、霊長類学者もこれまでそう決めつけてほとんど関心を向けていなかった。しかし巣を作るには、枝を何本か折り取って編み合わせるだけでは済まない。庭師なら誰でも知っているし、私もカブスカウトで薪を集める時に教わったとおり、そもそも生きている枝を折り曲げて木から折り取るのはほぼ不可能だ。それは枝が頑丈だからではなく、木の組織の構造ゆえ折れ方に特徴があるからだ。

木の組織はかなり複雑な構造をしているが、力学的な折れ方にもっとも大きく影響するのは、細胞のマクロな並び方である。木を構成する細胞のほとんどは、幹や枝の縦方向に並んでいる。木に強度を与えている細長い仮道管や、水を通す広葉樹の太い道管などがそうだ。それと異なる方向に並んでいるのは、放射細胞だけである。放射細胞は髄から樹皮に向かって伸びる車輪のシャフトのような放射組織を作っていて、この方向における幹の強度を高めて年輪どうしをつなぎ留め、幹がばらばらになるのを防いでいる。

このような複雑な構造をしているせいで、木は方向によって力学的性質が異なる。木目を断ち切るように折ろうとしても、仮道管の壁が邪魔してなかなか折れない。しかし木目に沿って割るのは、仮道管どうしが簡単に離れるし、放射組織を何本か折るだけですむので簡単だ。枝を縦に細く裂くのは、放射組織どうしのあいだに亀裂が走るため、とくに容易である。(略)幹や枝が重力や風による曲げの力に耐えられるのは、木目の走る方向の強度と剛性が高いからだ。縦方向に走る繊維は、枝が曲がる際にかかる縦方向の張力や圧縮力に耐えられるような、理想的な並び方をしているのだ。

生きている枝を折り取るのがほぼ不可能なのも、このような構造をしているせいだ。まだ乾燥していない枝を曲げると、外側の組織は引き伸ばされて、内側の組織は押しつぶされる。すると一般的に、まず張力に屈し、ニンジンやセロリのスティックのように横方向に亀裂が入りはじめる(次ページの図参照)。しかしそれだけでは完全には折れない。亀裂が枝の中心まで達すると、亀裂の伸びる方向が変わって、仮道管と放射組織のあいだの弱い中心線に沿って広がっていく。どんなに力を入れても縦方向に裂けるだけで、半分はつながったままだ。子供の長い骨が折れるときも、これと似たような折れ方をする。それを若木骨折といい、奇しくも木から落ちたときによく起こる。私が面倒を見ていた博士課程の学生アダム・ヴァン・キャステレンは、スマトラ島に滞在しながら、オランウータンが枝の柔軟性を使ってどのようにして木から木へ移動するかを調べていた。そこで彼に、オランウータンは巣作りをする際にこの「若木破」の問題をどうやって克服しているか調べるよう指示した。

アダムはインドネシア・アチェ州の熱帯雨林で、日中にオランウータンを追跡しては、日暮れに彼らが巣を作る様子を観察し、翌朝にその木に登って巣を調べ、その構造の力学的試験をおこなった。そうして得られた知見は、スザンナ・ソープの博士課程の学生ジュリア・マイアットが撮影した、オランウータンの巣作りの様子を収めた動画でも裏づけられている。オランウータンは、身体を預けられる水平で頑丈な枝を探してから、それを支えにして巣を作っていく。初めに、身を乗り出して片方の手で太い枝を引き寄せ、若木破砕の要領でその枝を折って内側に曲げ、最後に枝どうしを編み合わせる。そうして、長さ約一二〇センチメートル、幅約八〇センチメートルの楕円形をしたお椀形の巣を作る。しっかりした構造体ができたらその中に座り、腕を伸ばしてもっと細い枝をつかみ取り、両手で持って、まずは若木破砕の要領で折り、それからねじって切り離す。そして、小枝や葉がついたままのその枝を自分の身体の下や周囲に詰めてマットレスや枕を作り、最後に膝の上にかけてブランケットにする。この作業全体はあっという間に終わる。ジュリア撮影の動画では、オスのオランウータンはたった五分で巣を作り上げ、しかもその半分の時間は途中で休んでいる。若いオランウータンは母親の行動を観察したり自分で練習したりしながら、何年もかけて巣作りの技術を習得する。そして成体になるころまでに、見事な実践知識と、乾燥していない木の力学的性質に対する感覚を身につけるのだ。
(略)
大型類人猿は、その他の猿から分岐して以降、明らかに大幅に知能を向上させてきた。そのおかげで、住処のまわりにある枝のしなりやすさや折れやすさに対処したり、複雑な木製の巣を作ったり、初期人類が使っていた石器よりもさまざまな点で高度な木製道具を作ったりできる。いまからおよそ五〇〇~七〇〇万年前にチンパンジーやボノボにつながる系統から分岐した、私たちの最古の祖先も、間違いなくそのような能力を持っていたことだろう。彼らは木を素材として選ぶ建築家や職人だったのだ。

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https://www.sein21.jp/TechnicalContents/Yamabe/Yamabe0102.aspxからお借りしました。

このように、類人猿は木の複雑な構造を本能的に理解し、その可能性を活用して生命を保つための基盤となる巣をつくっていたことが分かります。
木材利用によってもたらされる物理的効果、人間の心理・生理応答に及ぼす効果の知見は様々ありますが、“木は人にやさしい”“木ってなんか良い”という親和性は、類人猿の頃から連綿と受け継がれる大型類人猿と木との関係が基盤のひとつにあるのではないでしょうか。

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