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気候シリーズでは雲や風の仕組みなどを追求してきましたが、いよいよ応用編として日本の小気候(局地気候)と農業の関係について追求していこうと思います。
第一回目は、私たちの仲間、類農園 [3]が生産拠点としている三重県度会町を調べていきます。
伊勢度会の特産と言えば、お米とお茶です。
特にお茶は、(知名度は静岡茶に負けますが)産出量では三重県は、静岡県、鹿児島県に次いで、国内第三位を誇ります。地元の方のお話によれば、度会は良質茶の産地として知られ、かつては静岡茶にかなりブレンドされて売られてもいたそうです。
そこで改めて、美味しいお茶が採れるのはなんで?を伊勢の小気候を元に探っていきたいと思います
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三重の地形、気候
三重県は、北緯33゜45′から35゜15′の間に位置し、南北に細長い地形となっていますが、西北に鈴鹿山脈、大台山脈を背負い、東南は伊勢湾、熊野灘に面し、県下の大半の地域は年平均気温が14~15℃と温暖で、茶の栽培に必要とされる年降雨量1,500mm以上の地域では、ほとんどが茶の生産適地となっています。
大きく二つの産地があり、一つは県北部の鈴鹿山脈の麓に広がる水沢、鈴鹿、亀山などの北勢地方。もう一つは県南部の紀伊山地の麓に広がる南勢地方。大台、飯南、度会などの産地はこの南勢地方に属します。
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地形図を見れば分かりますが、南勢地方は山間部なのです。
この山間部というのが、結構ポイントになることが分かってきました。
植物としてのお茶、産地に共通するその特性とは?
少し伊勢から離れて、「お茶」そのものの特性を見てみます。
茶の原料になる茶の木は、ツバキ科カメリア属に分類される永年性の常緑樹です。茶は比較的温暖な年平均気温が13℃以上、年間降水量が1,300~1,400mm以上の弱酸性土壌の亜熱帯地方に多く分布しています。特に成長期には多湿で朝夕霧の発生する地形を好む特徴を持っています。
世界の産地は、中国、インド、ケニア、スリランカ・・・
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みなさん「霧の蘇州」って聞いたことありませんか? 中国の緑茶の産地蘇州は霧で有名です。実は、インドのダージリン地方は「霧の町」、スリランカも「白霧の谷」などとも言われているんです。どれも「霧」で表現されていますね。
一方、日本の産地は、静岡県、鹿児島県、三重県、京都府、福岡県・・・
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それぞれの特徴もありますが、いずれも茶畑は開けた平野にではなく、山などに囲まれた山間部(谷間)に位置するところが多いのです。京都盆地の地形から育まれる宇治茶、山地に囲まれた盆地的地形の八女茶、霧島山麓の霧島茶(鹿児島)、丘陵地に挟まれた狭山茶、河岸段丘型の静岡茶。
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左上から順番に、宇治 [15]、八女 [16]、霧島 [17]、狭山 [18]、静岡河岸段丘 [19]
ついでに河岸段丘(しくみ) [20]
また、もう少し詳しく見ていきますと、静岡は牧之原台地、狭山は関東ローム層、鹿児島はシラス台地という具合に、いづれも火山性の酸性を帯びた土地で、比較的農業には不向きな土地でお茶が名産になっていることが分かります。度会のある南勢地域も同様で、この地域は日本でも有数の多雨地帯(もう少し南の尾鷲は、日本一の降水量)で、そのためミネラルの流出が著しく、酸性側によりやすい土地なのです。そして、そのような酸性傾向が強い土壌に適しているのが、お茶だったのです。(一般に野菜は、中性から弱アルカリ性を好むので適しません。)
お茶をおいしくするのは、寒暖差と川霧!
さらにお茶の産地の気候を調べると、共通項として以下の三つが出てきます。
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★山などに囲まれた、山間部(谷間)
★それゆえ、日中の気温が高く夜間は冷え込むという「昼夜の寒暖差」が大きい。
★川が近くに流れている
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ひみつ1.寒暖差
植物は昼間光合成をして炭水化物(糖類:例えばショ糖やグルコースやデンプン)を合成していますが、夜は光合成はされなくなり、せっかく合成した糖類を消費するだけになります。ですので、夜は気温が下がって植物の活動が抑えられるほうが、そのぶん糖類は消費されずに植物内に溜まることとなります。つまり、寒暖の差が大きいほど旨みや甘みが増すのです。
また、寒暖差を含む上記の地形的条件は川霧を生みます。
冬から春先にかけての川霧に包まれる三重の茶園の風景は有名ですね。
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川霧の発生メカニズム
ここで、川霧の発生メカニズムを押さえておきましょう
風も雲も無い夜に、地面の放射冷却によって出来る霧を放射霧と言います。夜間で雲も風も無い時は、地面の熱が空気中(宇宙に向かって)に放出されます。熱を失った地面は急速に冷えて、その回りの大気の温度をも下げてしまいます。また底が冷えた状態ですので、上昇気流も起こり難く気温がドンドンと下がってしまいます。これが「放射冷却」と呼ばれている状態です。
気温が露点まで気温が下がってしまうと、大気が水蒸気を支えられなくなって、霧が発生しやすくなります。地面付近の大気が冷やされて、それが露点と同じになると、空気中に霧が発生しやすくなります。 この状態で発生した霧を「放射霧」と言います。
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ここで山などに囲まれた山間部(谷間)という地形が重要になります。なぜなら、この冷えた大気が逃げ場がなくとどまることが、霧の発生に結びつくからです。また風が強くても霧が流れてしまいますので、風が弱いことも条件になります。
そして、この湿度を多く含んだ空気が弱い風でさらに川面付近に運ばれると、水温の方が高いため、今度は水面から盛んに水蒸気が発生することとなります。それが冷却され再び凝結して霧粒となって発生するのが「蒸発霧」で、露天風呂の湯気が立ち上っている状況はまさにそれです。
この「放射霧」と「蒸発霧」とが組み合わさったものが「川霧」なのです。
川があることで、さらに水分が供給されるということなのです。
ひみつ2. 川霧の防霜効果
この川霧はどのようにお茶に作用するでしょうか?
ところでみなさん、お茶の最大の敵は何だと思われますか?
それは新芽の時期の霜被害です。寒暖の差は必要ですが、気温が低くなりすぎると新芽が凍霜被害を受けてしまい、商品にならなくなってしまうのです
しかし川霧には、このお茶の敵たる霜被害を防ぐ効果があるのです 😀
それは川霧には熱をもたらす効果があるからです。
一般に川辺は、水の蓄熱性により暖かく、障害物も少なく、風も局所的には比較的強いため、凍結しにくく霜が降りにくいという利点があります。風が吹く日は、冷え込んでも余程でなければ霜も降りません。
これはお茶だけでなく、冬場の商品にも有利に働いています。伊勢たくあんの原料である「御薗大根(みそのだいこん)」は、宮川の下流域で栽培され、収穫後にハサ掛けで天日干しをしますが、川辺であるがゆえに、凍ってしまったり、霜が降りることがないのだそうです。
以下の写真は茶畑でよく見かける風景ですね。
防霜ファンもまた、上空の比較的温かい空気を送り込んで、(地面近くの冷えた空気と混ぜ合わせて)地表面の低温化を防いでくれています。
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ひみつ3. 川霧の日照遮断効果
川霧によって直射日光が遮られることで、お茶の樹は光合成が出来にくくなります。ですので、より光合成がたくさんできるように、お茶の樹は自分の葉っぱの中に葉緑素を増やします。この増やされた葉緑素が濃くて鮮やかな緑色を作りだしたり、旨み成分も生成されます。また直射日光を浴ると渋みの元となるカテキンが作られますが、それも抑えられるので、まろやかな味になるのです (良い意味で)負荷を与えて、本来の味を引き出しているとも言えるかもしれません。(ちなみに、それを人工的に茶樹に覆いを被せて日光をさえぎって栽培した茶が、“かぶせ茶”です。)
最後に
その土地の気候や風土が作物に与える影響がこんなに大きいとは、調べ始める前はあま
り認識していませんでした 感覚的にその土地にあったものを作っているのだろうくらいで・・。
しかし、気候や土壌の性質を活かした作物の選定には、何度も何度も繰り返された先人の取り組みの成功体験によって成り立っています。
また川霧にしても、朝の7時8時になれば消えてしまうものですが、そんなわずかの時間であっても、それがあるのとないのとでは商品に大きな違いが出てくるのでしょう。だからこそ、古来から、その土地の気候風土にあった作物、あるいは合うように工夫して、人びとは作り続けてきているのですね
最後の最後に。今回、度会の土壌の特性や、日々農業をされる中で感じていることなどをお聞かせいただいき、記事作成に多大なる協力をいただきました類農園(三重農場)のみなさん、本当にありがとうございました