前編では、主に資源エネルギー庁の資料を元にして、中小水力発電所の潜在力、可能性を確認してみました。
そこで気づいたのは、通産省・資源エネルギー庁は、国産エネルギーである「水力発電の可能性」を本気になって追求していないという事でした。
通産省・資源エネルギー庁は、国際的な資源勢力(ウラン資源と石油資源)の影響下にあり、ウランと原油消費の削減につながる「水力発電」を軽視してきたといえるでしょう。
そこで、今回は環境省の調査や独自データ処理を行い、水力発電による電力の国産化、自給率の向上を追求します。
①日本国土には、2万か所・1500万KWの中小発電所が可能だ
②原子力の都合で歪められている水力発電の低い稼働率
③水力発電で電力供給の37%を賄える可能性がある
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①日本国土には、2万か所・1500万KWの中小発電所が可能だ
環境省が、再生可能なエネルギーの日本国土での可能性を本格的に調査してます。
調査のタイトルは、「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」(21年度)です。その報告書が公開されています。リンク [1]
この報告書の第5章が「中小水力発電の賦存量および導入ポテンシャル」です。
調査の方法は、全国河川の地形・高低差・流量をメッシュ地理データとして処理し、水力発電の発電能力の理論値を推計しているものです。
推計の仕方は、河川の合流地点に仮想発電所を設け、そこに流れ込む水量と高低差から、その発電所の発電能力を設定するものです。
この調査によると、仮想発電所の数は183,255地点、可能発電能力は2,895万KWという膨大な数字になります。
この理論値から、道路から比較的近い、国立公園などの特別な制限区域ではない、建設単価が妥当な範囲(260万円/KW)に納まっている等の条件をつけて、現実的な地点数と発電能力を出しています。また、中小水力発電ということで、1か所3万KW以下の発電所という条件を付けています。
結果は、相当凄いものです。
可能な地点数 20,848地点
発電能力合計 1,525万KW
これは、中小水力発電所として、自然地形を一変させるような大型ダムではない発電所です。自然の河川や地形に即して造られる発電所です。
日本の揚水型を除く一般水力(流水式とダム式)の総発電能力は、現在、2,074万KWですから、既存の74%にもなります。凄い潜在力がありそうです。
また、か所数でも、資源エネルギー庁の2,700か所とは格段に違いますね。
因みに、地域別では、東北地域が5,080か所で最大です。中部地域4,189か所、関東地域2,875か所、九州地域1,934か所と続きます。
②原子力の都合で歪められている水力発電の低い稼働率
発電能力が設定できたら、次は、その発電所が年間どれ位の電力を供給できるか、年間発電総量、年間の稼働率はどうなるかを試算する必要があります。
そこで、既存の水力発電所の稼働率を知らべてみました。すると、驚くべき結果です。
下に、表と図にまとめてみました。
「水主火従」の時代である1955年(昭和35年)では、水力発電所は61%の稼働率です。稼働率は、365日24時間運転を100%とした基準で算出していますので、61%稼動率というのは、223日・24時間発電、或いは365日・15時間発電 という状況です。
1955年の水力発電所は、年間を通じて、しっかり発電していたのです。
ところが、2008年になると水力発電全体の稼働率は19%しかないのです。この低い稼働率にはからくりがあります。
シリーズの10回で、原子力発電所の定常運転の都合で、揚水型水力発電所が沢山つくられ、この揚水型発電所は稼働率3%ともいわれています。この揚水型発電所の低い稼働率が、水力発電所の全体稼働率を下げているのでしょうか。結果は、違っていました。
表では、水力発電合計と一般水力(流水式+ダム式)、揚水の別で、稼働率を算出してあります。
一般水力の稼働率は、1955年の61%から、1975年には52%に下がり、1985年には50%を切り、2008年現在では39%という結果です。
つまり、1955年の61%からみると現在の39%は、2/3に止まり、その能力の1/3を無駄にしているのです。
対して、原子力発電は、稼働率80%、70%運転をしているのです。
原子力発電所を定常運転するために、超低稼働率である揚水型発電所をつくり、既存の一般水力の能力も無駄にしているのが、現在の日本の発電事情なのです。
表の右端に、一般水力と揚水型の発電能力を書いておきましたが、なんと、3%、5%しか稼動させない揚水型の発電能力が2,564万KWもあり、一般水力の2,064万KWを超えています。
現在、低稼働になっている一般水力発電所を、1955年並の稼働率にあげ、超低稼働率の揚水型発電所の稼働率を、工夫してあげることが出来れば、現在、10%といわれている水力発電の比率を格段にあげる事ができます。
この視点も加えた、既存水力発電所とこれからつくる「中小水力発電所」で、必要とする電力の何%を賄えるのか、大胆に推計してみましょう。
③水力発電で電力供給の37%を賄える可能性がある
図は、現在と将来(計画)を合わせて表現してあります。当ブログのオリジナルな図ですよ。
まず、現在の水力発電の発電能力、発電量、電気供給に占める比率です。
一般水力は、2,074万KWの能力をもっていますが、その稼働率は39%に止まっています。
一方、揚水型は、2,564万KWという能力をもっているにも係らず、稼働率は3%にすぎません。
その結果、年間に発電する総量は、777億KWhに止まり、電気供給量の7.8%です。
国産エネルギーである水力発電を低稼働で運営しているために、水力比率は8%なのです。
国産エネルギーである水力比率を上げるにはどうしたらよいでしょう。まず、水力発電所の稼働率を上げることです。その上で、①で確認した「中小水力発電所」を全面的につくっていくことです。
図の【将来】は、その試算結果を表しています。
一般水力は、今後つくれるものも含めて発電能力2,460万KWとし、稼働率は64%とします。(1955年の実績が61%ですから、可能でしょう。)
揚水型は、現在の能力のままで稼働率8%と設定します。(1995年の稼働率が6.5%ですから、可能な稼働率でしょう。)
中小水力発電所は、環境省の試算を元にして、発電能力1,530万KWとします。地域密着型でメンテナンスもこまめにできることから、稼働率は75%とします。
この結果、水力発電全体で、年間、2,564億KWhの発電ができます。現在の発電量777億KWhの3.3倍にもなります。
一方、必要電力供給量の方は、人口の減少やGDP縮小を考えて、現在の70%(30%縮小)程度と想定します。
この結果、水力発電で、電力供給の37%が賄えることとなります。
全国に2万か所の中小水力発電所をつくり、これまでつくってきた大型発電所の稼働率を上げれば、電力の37%を、国産エネルギーである水力発電で供給できるのです。
日本の国土の特徴である、豊富な降水量と急峻な河川を活用した、水力発電の将来像が少しみえてきましたね。
次回、最終回は、水力37%に向かう『ロードマップ』を扱います。