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『次代を担う、エネルギー・水資源』水生圏の可能性、水力エネルギーの活用6. 小水力発電の源流 ~農山村漁村における小水力の歴史~

みなさん、こんにちは 😮
今回はシリーズ第6回目。
前回は、水主火従から火主水従へと、明治期から高度経済成長期を通し、どのように変わっていったかを押さえました。第2~5回を通し、日本の電力を支えてきた大規模水力発電の構造・歴史(可能性)を追求してきました。
今回からはそのメインストリームの流れと平行し、日本の電力の歴史を支えた『小水力発電』に、注目していきたいとおもいます。
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   写真はこちら [1]よりお借りしました
  
 ところでみなさん、そもそも『小水力発電』とはどんなものかご存知でしょうか?
・小型の水車?
・どんなところに設置されるの?
・どれ位発電できるの?

などなど、色々な疑問が湧いてくると想います。
では、まず『小水力発電』とは何かを押さえてみましょう!
  
  
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①小水力発電って何?
 水力発電とは、水の位置エネルギー(落下エネルギー)や水流の勢いで、プロペラ・タービンを介して(発電機を回すことで)、電気を生み出します。
 前回まで追及してきた大規模水力発電とは、その豊かな森林・山岳地帯を流れる大量の河川エネルギーを基に、自然の地形をそのまま利用した大規模水源や、自然の地形に手を入れるダムなどによって実現されてきました。
 
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   写真はこちら [2]よりお借りしました
 今回紹介する小水力発電とは、上記に対し、まず大規模な水源を必要とせず、小さな水源でも、比較的簡単な工事で発電機を設置できるという特徴があります。
 また、水力発電は、出力の規模によって概ね次のように区分されます。

○区 分  :発電出力
 ・大水力  :100,000kW以上
 ・中水力  :10,000kW~100,000kW
 ・小水力  :1,000kW~10,000kW
 ・ミニ水力  :100kW~1,000kW
 ・マイクロ水力 :100kW以下
 ただ一般的に「小水力発電」と言った場合に、厳密に定義されているわけではなく、数十kW~数千kW程度の比較的小規模な発電(一般的には2,000kW以下)の総称として用いられています。
<参考>
農業用水を利用した小水力発電 [3]

 装置が比較的小さいため、小河川や農業用水路、砂防ダム等に設置されています。発電の仕組みも、それにあわせ各水量・設置の条件等によって、様々な装置が作られています。
以下に、水車には大きく分けて、反動型と衝動型の2種類を紹介します。

■ 反 動 型
 タービン前後の水の圧力差からエネルギーを取り出すタイプです。水位差が小さいが川の流量が大きな条件に向いています。
(例) フランシス型、プロペラ型など
[4]
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※上記の方式はフランシス型の事例です。
写真はこちら [5]よりお借りしました
■ 衝 動 型
 水の流れの運動エネルギーをタービンに衝突させてエネルギー取り出すタイプです。流量は少ないが水位差が大きな条件に向いています。
(例) ペルトン型、クロスフロー型、開放ホイール型など
 
[6]
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※上記の方式は開放ホイール型の事例です。
写真はこちら [7]からお借りしました
<参考>
EIWAT [8]

ご紹介したとおり、現在様々な種類の機種が設置されており、もしかしてどこかで見たことがあるとの方もいらっしゃるかも知れません。
 ところで、この小水力発電、一体どのようにして広まっていったのでしょうか?次は小水力発電の歴史について見てみましょう。
 
 
 
②小水力発電の歴史
 
 古くはこの装置、今から約100年前の1900年代初頭の農村部を中心に拡がっていったのです。今回は、最も普及のスピードが最も早かった富山平野を事例に見ていきましょう。
 
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   「城川式軽便タービン水車」(『農用機具』1927年)
   ※真ん中に見えるタービンが回転し、発電を行うのです。
   写真はこちら [9]よりお借りしました
 1900年代初頭、地方の村落でも手軽に利用できる小水力発電の要望に応え、芝浦製作所(現:東芝)が、クロスフロー型タービン水車と呼ばれる落差1.0mからでも発電できる発電機を開発しました。
 (従来の開放型ホイール水車に比べ、クロスフロー型タービン水車は羽根車がコンパクトであり、効率が80%前後と高く(回転数が大きく)、当初は主に発電用途に普及していきましたが、低落差で大流量の水利地点に向くことから農業用にもとの声が高まり開発が進んだのです。)
 豊富な水資源を持つ富山県では、このクロスフロー型タービン水車が製作販売され、農業用途に盛んに活用されていきました。
 この水車は当初やや高価でしたが出力・回転数の大きい安定的な定置用動力として普及していきました。
   
    
・1932年『共同作業場奨励規則』が施行
 このクロスフロー式タービン水車が本格的に注目を集めるのは1930年代に入ってからになります。
 1932年に『共同作業場奨励規則』が施行され、農村では10~20戸の農家が農家組合や農事実行組合を組織して、「脱穀や調製、精米、藁打ち、製縄、製粉等」を共同で行う「共同作業場」が建設されるようになり、今まで動力源としてあった木製水車が廃止され、小水力発電が導入されるケースが目立つようになったのです。
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   写真はこちら [10]よりお借りしました
   
    
・1938年『国家総動員法』が施行 
 1937年に日中戦争がはじまりました。翌1938年には、『国家総動員法』が成立され戦時統制が強化されます。その一環として石油(エネルギー)の節約が国民的な課題として共有され、小水力利用の推進の気運が一挙に高まりました。
この時の内容を、農林省の技師、小林正一郎氏は、小水力利用の意義を農機具雑誌でこう述べています。

「農村に於て小水力利用の普及を図ることは1面農業動力の発生費を軽減し、農家経済を極めて有利に導くのみならず、他面農村で消費する石油を相当量節約し、燃料対策上少なからざる効果をなすことを得ると共に、国防的に考えてもまことに有意義であるから、之が奨励実施は焦眉の急務であるといわねばならぬ」(「農村に於ける小水力利用」1938年)。
農林省は1938年度から、道府県を通じて、クロスフロー型タービン水車やペルトン水車など簡易小水力の利用に対して助成金を出した。助成の対象は、町村農会や産業組合、農事実行組合などの団体で、金額は500円を限度に設備費の半額以内。この補助政策によってクロスフロー型タービン水車とペルトン水車は急速に増え、農林省農務局の統計などによると、それぞれ1937年の2467台、760台から1942年の3783台、1539台へと5年間で5割増ないし倍増した(営業用含む)。
<参考>
螺旋水車の時代 [11]

   
    
・1952年『農山漁村電気導入促進法』が施行
 この急速な拡がりを追い風に、1945年『農村電化事業』が発足されました。
 当事、まだ日本の農村地帯の多くには電気の通っていない地域が多くありました。そこで行われたのがこの事業なのです。農協などが発電用の水利権を取得し、発電機を設けて日本の各地・農村で電化に取り組んでいったのです。
 そして、それから7年後の1952年『農山漁村電気導入促進法』が、上記の事業を後押しする形で施行されました。
 (ちょうど1950年代後半、『白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫』の家電3品目が『三種の神器』として喧伝され、世の中に拡まっていった時期と重なります。)
 
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   ※電気冷蔵庫や洗濯機を大量に搬入している風景
   写真はこちら [10]よりお借りしました
 この法が施行された直後は、一定の盛り上がりを見せたのですが、新たに整備されていった大電力会社の配電網が農山村を広くカバーするようになり、農村電化事業もとい、小水力発電の拡まりは下火を迎えるようになるのです。
 しかし、これらの発電所の中には、現在も現役で稼動している場所がたくさんあります。最後に、これらの発電所が現在はどうなっているかを見てみましょう。
 
      
       
③50年以上の時を経てなお現役で活躍する小水力発電所
 上記で紹介したような発電所は、中国地方にたくさんあります。農協などが持っている発電所が多数あり、今も現役で中国電力に売電を行っているのです。
 全てその容量は、1000kw以下の小規模なものですが、中国地方全体で50箇所以上稼動しています。

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※岡山県 高梁川水系 成羽川支流島木川 羽山渓:羽山発電所(びほく農協)
 出力:495kw(昭和39年9月発電開始)
 左の写真の中央部に見える配管に、山の頂上から水が流れ込みます。そして写真下の小屋に設けられた発電機(右写真)が稼動するのです。
写真はこちら [12]よりお借りしました
<参考>
水のプログラム [13]

 
 
 電気は、関西電力や東京電力などから来るものだと思い込んでいましたが、小水力発電の歴史を調べてみると、農山村を中心に、集落単位・村単位で水力発電に取り組んでいたことは、大きな発見です。農業に必要な動力、電力を自分達で作ろうという姿勢は最近云われている『地産地消』そのものですね。
 さらに、1950年代に作られた小水力発電所が今も現役で発電しているというような事例は、長耐久・長寿命の小水力発電が大きな可能性を持っているとの表れではないでしょうか。
 
  
 水力の可能性を追求するために、次回はさらに詳しく、1950年代以降の現役で活躍する小水力発電の事例、現在新たに設置される小水力発電事例(仕組み、所在、発電容量、設置時期等)を押さえていきます。
 その上で、次々回は可能性への道を、小水力可能性・事業実現への道を、もう一段追求していきます。

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