- 地球と気象・地震を考える - http://blog.sizen-kankyo.com/blog -

『次代を担う、エネルギー・資源』水生圏の可能性 5.藻を繁殖させるサイト(栽培地)をどうする?

前回まで藻類の可能性についてその構造や原理などについて探ってきました。今回は、実際の藻の生産は具体的にはどうする、培養地はどうするという方向に向けて、さらに進めていきたいと思います。
藻以前のバイオディーゼル油生産では、アメリカ大陸(大豆油)、欧州(菜種油・ひまわり油)、東南アジアで(パーム・ココナッツ油)、使われる原料がそれぞれ異なっていました。気候・風土を反映し、国家レベルで舵の取り方が違っているのですね。
clip_image002.jpg
京都市廃食用油燃料化施設HPから

藻類の生産においても同様に、地域、国家レベルで気候、風土に応じて、どのような方法で生産するのか戦略が違ってくることが推測されます。以下に見ていきます。

応援よろしくお願いします。


●培養方法の基本的な仕組み「開放系」と「閉鎖系」
藻類を増殖させる方法は、大きく「閉鎖系」と「開放系」に分類されます。閉鎖系では、光バイオリアクターなど、光を透過する密閉された培養槽や、培養槽内に光エネルギーを導入するなどの方法で藻類を増殖させます。この方法は、培養液の制御が容易、細菌等の混入がない等の長所がある一方で、製造や維持のコストが高いという問題もあります。
開放系では、循環池(回転アーム等を用いて攪拌)や水路池(水車により培養液を循環)などの形態があり、コストは閉鎖系より低いと考えられますが、生育条件を制御しにくい問題のほか、他の微生物の混入等の問題を解決する必要があります。
%E8%97%BB%E3%81%AE%E5%9F%B9%E9%A4%8A.jpg
①開放型培養池:以下の閉鎖型に比べ生育条件を制御しにくい、他の微生物の混入等の問題があり解決する必要がありますが、コストは低いと考えられる。
②横型培養チューブ、および③縦型培養チューブ:CO2の投入量をコントロールできる。
④培養シート:受光面積を稼ぐことが出来る。

●大面積の開放型循環池を想定している米国、その立地条件
アメリカは広大な国土をもち、かつ、(コーンベルトなど広大な穀倉地帯を持つ一方で、)農用には適さない砂漠などの土地を多く持っている。従ってこれを利用する方向での取り組みが盛んです。
サファイヤ・エナージー社は、ニューメキシコのルナ郡で、300エーカー規模(≒120ha、甲子園球場100個分)のパイロットプラント。HR バイオペトリウム社は、ハワイ島コナで、5エーカー規模の培養池。DICの子会社アースライズ・ニュートリショナルズは、カリフォルニア州オレンジカウンティ・イルバイン市で、商業生産。
では、サファイア・エナジー社のパイロットプラントがあるニューメキシコ州、ルナ郡コロンバスの気候を見てみましょう。コロンバスはアメリカ南部メキシコとの国境にあります。
clip_image001.png
下記のケッペン気候図でみるとこのあたりは「ステップ気候(BS)」にあたり、気温が非常に高く降水量が極めて少ない地域です。「無樹林気候」と定義され、草しか育たない農業には不向きな乾燥地帯といえそうです。
%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%9C%B0%E5%9B%B3.jpg
http://heartland.geocities.jp/itcz2008/_gl_images_/356.jpg [1]
最高気温(年平均):25.4℃
最低気温(年平均): 8.8℃
平均年降水量 :261㍉   
http://www.usclimatedata.com/climate.php?location=USNM0074 [2]
(気温は華氏表示されますが、「℃」クリックすると摂氏に切替できます。)
また、アースライズ・ニュートリショナルズ社が商用生産しるカリフォルニア州オレンジカウンティ・イルバイン市はも同様に気温が高く、降水量は非常に少ないです。
最高気温(年平均):24.4℃
最低気温(年平均):10℃
平均年降水量 :352㍉
http://en.wikipedia.org/wiki/Irvine,_California [3]
アメリカにはこのような農業に使えない乾燥地帯、無樹林地帯(ベージュと茶色の部分)が、上記の気候地図でみると国土の2~3割近くを占めている様に見えます。ニューメキシコ州について言えば、州全体の7割近いでしょうか。このような広大な乾燥地帯を持つゆえ、それを使った陸上での藻生産に可能性を見ているわけですね。一方日本はどうでしょう。

●日本は、休耕地を活用するのか、海洋を活用するのか
①休耕地を利用して藻類を生産
日本にはアメリカのような広大な乾燥地帯はありませんが、筑波大学渡邊教授は、耕作放棄地30万ヘクタールが藻類生産用に使えると指摘しています。
日本の耕作放棄地の面積を確認してみましょう。
http://www.nca.or.jp/Nochi/yukyu-db/Yuukyu2/Itiran/Itiran1.htm [4]
これによると、全国で38万haの休耕地があるとされている。しかし、今後の食料問題も考えれば耕作地に復元できるものまで、藻類生産の計算に入れるのはどうかとおもわれるので、Aランク「容易に復元」、Bランク「やや容易に復元」は除いて計算してみます。すると30万ha弱は使える計算になり、渡辺教授の指摘通りのようです。

②海洋利用、沿岸部で集積密度の高いサイトか、外洋上にプラットフォームを建設か
一方、日本は広い排他的経済水域を利用すべきとの主張があります。海洋バイオマスを狙っている人々はどう考えているのでしょうか。火力発電所・コンビナートから出る炭酸ガスを活用しようとしている人は、沿岸部に集積密度の高いサイトを想定しているようです。
(海洋バイオマス研究コンソーシアムのイメージ図)
clip_image001.jpg
しかし、沿岸域は、漁業で既に高密度に利用されており、培養場は沖合いに作るほうが可能性があるということになる。
「外洋上プラットフォーム技術とその利活用」 海上技術安全研究所
http://www.nmri.go.jp/main/research/happyoukai/H19/SS/SS29.pdf [5]
外洋上プラットフォーム実現の鍵は、大波浪下での、動揺および波漂流力を同時に低減する仕組みを開発することのようです。

○フィンによる動揺低減技術
フィンを取り付けると浮体動揺による抵抗が生じ、動揺エネルギーが渦のエネルギーに変わる(粘性減衰力)。この作用により、動揺低減効果が生ずることが知られている。
○フィンによる波漂流力の低減
翼型フィンに発生する揚力を有効に利用すると、浮体が波の来る方向に進む推進力を生ずることが知られている(波食推進力)。これを利用すれば波漂流力(波下に流される力)を低減することができる。
algae5001.bmpalgae5002.bmp

③ホンダワラ・プロジェクト 「流れ藻」を培養して燃料を生産する。
一方、外洋上にプラットフォームという発想を離れ、ホンダワラを「流れ藻」のまま自然に培養(?)し、バイオ燃料を生産しようという試みもあります。
「海藻からバイオ燃料を生産―日本独自の技術で確立を」―ホンダワラ・プロジェクト
http://www.sof.or.jp/jp/news/151-200/175_2.php [6]

海洋で大きなバイオマスをもつ光合成生物のうち、ホンダワラ類はバイオ燃料の原料として大量収穫やその他にかかるエネルギーコストが他の藻類に比べ低いと考えられる。ホンダワラ類の生産力は熱帯多雨林に匹敵するとされている。藻体は気胞を持ち浮くため、太陽の光エネルギーを比較的効率よく利用できることに加えて、収穫の作業性もよい。この仲間は沿岸で大型の群落を作り、有用魚介類の生育や資源の維持・保全の場、「藻場」を形成する。流出した藻体の多くは生長しながら集積し、海流とともに移動する「流れ藻」となる。

バイオ燃料の原料を「流れ藻」として日本海で生産することを考えると、次のようになる。北九州沿岸付近で人為的にホンダワラ藻体の小片を大量に放流する。これによって人工の「流れ藻」を作ることができる。これは対馬暖流に乗って集積・生長しながら北上し、生長した藻体が津軽海峡か宗谷海峡に集中して流れ込む。このように藻体小片を放流するだけで、栽培管理などを省き、容易に大量のバイオ燃料の原料の生産と収穫が可能となる。同時に人工「流れ藻」に随伴する有用水産資源の保全・涵養と日本海の浄化にも役立つ。一石三鳥の技術である。

■藻類生産は、気候、風土に応じて、未利用地を活用するということが基本軸
ここまで見てきたように、藻類生産は、国家レベルで気候、風土に応じて、どのような方法で生産するのか戦略が違ってきますね。未利用地を利用する形になっていくと思われます。
アメリカでは乾燥地帯を利用する試みが盛んなように、西アジアや北アフリカも乾燥地帯では陸上の開放型培養池に可能性がありそう。日本及びアジア地域は、モンスーン地域で乾燥地帯を利用というのは出来ない一方、海洋を利用して、沿岸海域での集積型の培養あるいは外洋プラットフォームで生産に可能性がありそうですね。

[7] [8] [9]