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人工物質が肉体を破壊してゆく 最終回 BSE(牛海綿状脳症)の原因も化学物質にある?

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このシリーズの最後は、少し前、大騒動となったBSE(牛海綿状脳症) について考えていきます。
 
BSE(牛海綿状脳症)は、脳・神経細胞タンパク(プリオン)が変質した異常プリオンが、骨粉飼料に混入されているためとする説が主流になっています。
それを前提に、異常プリオンが多く含まれる特定部位(頭部、脊髄など)を除去する対策を講じていますが、マンガン説、ウイルス説等もあり、いまだに決着をみていません。
今回は、マンガン説を主張しているマーク・パーディ氏の発言を手掛かりにして、BSEの本質に迫ります。


 ①キーワードは、「代用乳」と「血液脳関門」
るいネット「BSEの原因も化学物質にある?(立石裕美さん)」 [1]からの引用です。

 「新仮説-BSEの原因は肉骨粉ではない」/英国の有機農業家 マーク・パーディ氏の講演から/強い酸化因子が働き脳内に異常プリオン 
 
 BSE(牛海綿状脳症)の原因が肉骨粉であると言われてきたが、イギリスの有機農業家マーク・パーディ氏は、ヤコブ病や羊のスクレイピー、BSEなどが群発する地域を調査、その結果「マンガンと紫外線、有機リン系農薬などの酸化力の強い環境因子」がBSEを引き起こすとの確証を得た。日本有機農業研究会の招きで来日したパーディ氏は、北海道、千葉、東京など、各地で講演した。以下、講演要旨。
 
 ◇◇◇◇◇◇◇◇
 ■BSE、農薬と相関
 自分の農場でもBSEが一頭発症したが、それはよそから買い入れた牛で、自分のところで生まれた牛にはBSEは発症していない。有機農場で生まれた牛には、一頭もBSEが発症していないという事実から、「有機農場でやっていること、やっていないこと」のなかにヒントがあると思った。
 イギリスでは八二年に、牛バエの幼虫駆除のために、浸透性のある有機リン系の殺虫剤の使用が義務付けられた。これは油性で、頭からしっぽまで背骨に沿って注ぐ。有機リン系は神経のシグナルをコントロールするたんぱく質の分子を変え、シグナルが伝達されなくする。このことから有機リン系農薬が、プリオンたんぱくの形を変える、との仮説を立てた。イギリスにおける有機リン系殺虫剤の使用地域と、BSEの発生地域に相関関係が見られる。
 では、EUでも有機リン系を使っていたのに、なぜイギリスにだけBSEが多発したのかといえば、イギリスは、他の国の四倍の濃度で使っていたからだ。
 
■マンガン過剰が引き金
 ロンドンの神経科学研究所で有機リン系のたんぱく質への影響実験を行った。変化は起きたが確証は得られなかったため、有機リン系の働きを引き出す環境因子がある、と考えるようになった。
 このため羊のスクレイピーや、ヤコブ病、BSEなどが群発している世界各地の環境調査を行った。
アメリカ・コロラド州、アイルランド北部、スロバキア・オラバ地方、イタリア・南部やシシリア島などを調査、全ての地域に同じ地質的な特徴があることがわかった。それは、「高度が高い」「カプリア前期の土壌」「針葉樹が多く、雪が残っている」などで、こうした地域は紫外線が強かったり地上のオゾンガスが多いなど酸化力が強い。
 もう一つの特徴は火山やマンガン鉱山、製鉄所、空港の離陸滑走路などが近くにあり、土壌や植物のマンガン含有率が異常に高いことである。
 
■脳の中で作られる異常プリオン
 オハイオ州・クリーブランド大学の研究によると、ヤコブ病で亡くなった人の脳では銅が通常の半分しかなく、マンガンが十倍になっているという。ケンブリッジ大学のD.ブラウン博士は、プリオンから銅を取り除いてマンガンを添加すると分子の形が変化、有機リン系では現れなかった変化が現れた、としている。 ブラウン博士によると、銅は脳の中で抗酸化効果を持っているという。
 BSEは、プリオンたんぱくと結合している銅がマンガン(+2)に置き換わる。この時点では「眠っているプリオン」だが、有機リン系や紫外線などの酸化力の強い刺激によってマンガンが(+3や+4)になったとき、フリーラジカルが促進され損傷が起こると考えられる。従って、異常プリオンは、外から入ってくる物ではなく、環境ファクターによって脳の中で作り出される物である。
 

パーディ氏は、もう少し主張を展開しています。
安田節子のGMOコラム「マーク・パーディ氏東京講演会(3月31日)報告」 [2]から引用させていただきます。

また、マンガンが幼児や子牛の代用乳に自然な母乳の1000倍近いレベルで添加されています。
未成熟な哺乳動物の食餌中に過剰なマンガンがあることは、血液の脳障壁が十分に形成されておらず、マンガンなど金属が脳に過剰に摂り込まれることになってしまいます。

この講演から、BSEに連関するものとして、 「代用乳」「血液の脳障壁」が浮上してきます。
まずは、「血液の脳障壁」について見ていきます。
ちなみに、血液の脳障壁とは、一般的には「血液脳関門」といわれるものです。
 
 
  
 ②血液脳関門はすぐにはできあがらない。 
 
血液脳関門は、脊椎動物において、血液と脳(そして脊髄を含む中枢神経系)の組織液との間の物質交換を制限する機構で、これにより脳、脊髄の中枢神経は血液中の毒物、薬物から防御しているものです。
 
NPO法人 幹細胞創薬研究所HP [3]からどのような仕組みになっているかを見てみます。
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血管内皮細胞を主体に構築される脳毛細血管は、体の他の殆どの部分の血管とは異なり、周囲をアストロサイトや周皮細胞が覆った特徴的な構造をしています。
血管内皮細胞は強力な密接結合(tight junction)を形成し、細胞間が隙間なく閉じられているので、水溶性の高い物質やタンパク質などの大きな分子をはじめ多くの物質は血管の隙間を通り抜けて脳内へ移行することはできません。しかし、基質特異性、輸送方向性、発現極性を有する多様なトランスポーターの働きによって、脳に必要な栄養素(糖・アミノ酸・ヌクレオチド等)は選択的に脳内に取り込まれ、また、薬物・毒物は血液側へ積極的に汲み出されます。
こうした限られた物質だけを通過させる物質輸送システムこそがBBBの“関所”と呼べる機能であり、BBBは脳の環境維持や中枢神経機能の発現に不可欠な役割を担っています。

脊椎動物は、脳・神経系が身体全体の司令塔です。
この司令塔が壊れてしまえば、他の臓器が健全でも死を迎えてしまいます。
だから、脳・神経系を異物・毒物から防御するために、「血液脳関門」という特殊メカニズムができているのです。
だから、脳を直撃する病気が少なく、癌の脳転移は末期に現れることが多いのです。
ところが、哺乳類の乳児は、全ての臓器が未完成で、徐々に完成するようになっています。精巧な防御機能を担う血液脳関門も同様で、生まれてすぐには機能しないのです。
  
この乳児の未完成な「血液脳関門」と「代用乳」が合わさったとき、BSEが登場したのです。 
 
 
 
③自然の摂理に反した工業的畜産(代用乳)の破綻
 
ところで、生まれたばかりの子牛が摂取する代用乳とは、何なんでしょうか?

生まれて間もない動物に、親の乳の代わりに与える人工乳。牛の場合、ホルスタイン種はメスの乳を人の飲料用にするため、生後1~2カ月の子牛に与えている。栄養価を高めて成長を促すため、脱脂粉乳に動物性油脂やブドウ糖、食塩などを混ぜる。油脂は、内臓や骨から肉骨粉をつくる際にできる副産物。その中に含まれる不溶性不純物に異常プリオンたんぱく質が混入する恐れがあり、国は01年暮れ、油脂に占める割合を0・15%から0・02%に規制した。( 「kotobank」より [4]

代用乳は、完全な混ぜものでできた偽母乳=人工物質なのです。
 
血液脳関門が未完成な子牛段階で人工物質を摂取すれば、容易に脳細胞に達します。
そして、代用乳に牛海綿状脳症の発症因子が含まれているとそのまま脳細胞に達し、BSEを発症することになるのです。
 
BSEの発症因子は、「異常プリオン」「マンガン」などがありますが、いずれが発症因子だったとしても、 「代用乳」を通して「血液脳関門」をすり抜け、直接脳細胞に作用している可能性が極めて高いのです。
 
 
もともと母乳は、子牛の発育のために欠かせないものです。ところが、乳牛は人のために牛乳を生産するために生かされており、生まれたばかりの子牛に対しては代用乳しか与えない飼育方法をとっているのです。
 
畜産業が市場での競争力を持つためには、安価で栄養価が高い代用乳が求められ、商品にならない内臓や骨などのタダ同然の残さを代用乳の材料として再利用しようとするのも当然とも言えます。
 
しかし、このように市場を前提とした工業的畜産は、自然の摂理=哺乳類の母子の原理に明らかに反しており、その病理がBSEという形で現れたのです。
 
 
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このシリーズを通して、市場を前提にした人工物質が世の中に溢れかえっており、それらを摂取している私たちの身体が苦しんでいるということが分かりました。
一方、自然の摂理、生物進化の賜物として、動物の身体には思いもよらない精巧さが備わっていることが分かりました。
 
自然の摂理に反した人工物質によっていじめられても何とか防御してくれている精巧な身体に感謝するとともに、自然の摂理を学び、少しでもその負担を軽くしていきたいものです。
 
このシリーズを読んでいただき、ありがとうございました。

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