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シリーズ新エネルギー⑧『”低密度”エネルギー利用技術:海洋温度差発電』

☆「海洋温度差発電(OTEC)」の実証プラント
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※画像はコチラ [1]からお借りしました。
【前回提起した点】
>これはエネルギー生産と消費をどのようなバランスで行っていけばよいかという課題でもある。
シリーズ新エネルギー⑦『石油を原料とする化学製品はどうなる?-循環型リグノフェノール複合材料の可能性』 [2]
石油に“替わる”エネルギー、つまり石油と“同じくらい効率的に”エネルギー利用できるものを探索する、という視点では、永久に持続可能なエネルギー社会は実現されない。何故なら石油ほど効率的にエネルギー利用できる“高密度”燃料は無いからだ。
私たちは、まずこの認識をはっきりと認めなければならない。そのような状況下において、石油枯渇という局面(=現実)に向かうには、「“低密度”エネルギーの利用」かつ、「その生産形態とバランスする消費形態をどうするか?」という課題に目を向けなければならないだろう。
その“低密度”のエネルギーを利用する技術、つまりは「自然エネルギーの利用技術」はこれまで紹介してきた技術
・シリーズ新エネルギー⑥『セルロース系バイオマス技術の動向』 [3]
・シリーズ新エネルギー⑦『石油を原料とする化学製品はどうなる?-循環型リグノフェノール複合材料の可能性』 [2]
など、ますます研究が成されて来ている。
今回もその“低密度”エネルギー利用技術として、現在実証化されている「海洋温度差発電」をとりあげ、その問題点と可能性を明らかにしたい。
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●「海洋温度差発電」の発電原理って?
と、その前に石油を使った従来の火力発電の原理を抑えておこう。
<石油火力発電の原理>
石油を燃やすことによって得られた熱エネルギーが、ボイラー(蒸発器)によって高温高圧の水蒸気を発生させる。この高温高圧の水蒸気が蒸気タービンを回し(圧力エネルギー→速度エネルギー→動力エネルギー)、発電機と連動させることによって発電される。
タービンを通過した水蒸気は復水器で冷却されて水に戻る(低圧水)が、高温側のボイラー(蒸気器)で再度、高温高圧の水蒸気を作るために、ポンプが低圧水をボイラー(蒸発器)に高圧で送り込む。
当然このポンプが行う仕事にはエネルギーが必要になるが、石油が高効率なのは、こういったポンプ等に必要なエネルギー以上のエネルギーを得られるからである。
☆火力発電の概念図
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※画像は新日本造機株式会社さま [4]からお借りしました。
では一方、「海洋温度差発電」の場合はどうだろう?
<海洋温度差発電の発電原理>
下図を見ての通り、循環過程は先ほどの火力発電の原理とほとんど同じである。では何が違うのか?
☆「海洋温度差発電」の概念図
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※画像はYahoo百貨辞典「海水温度差発電の原理」さま [5]よりお借りしました。

太陽によって温められた表層海水の25度から30度くらいの温度で容易に揮発するアンモニアの蒸気がタービンを回し、それが今度は深層から汲み上げられた5度前後の海水によって冷やされて液体に戻る、というサイクルが無限に回る。
原理はフランスなどで19世紀から予言されていたが、実用可能な段階まで漕ぎ着けたのが佐賀大学の上原春男氏を初めとする日本の技術革新によるものである。日本のゼネシス社がプロモーターとなってインドや中東、太平洋諸国に実証実験プラントが建設されつつある。
太陽エネルギー文明を先導する日本③~海洋温度差発電は自然と人間の共生・共進化という日本的自然観を体現する技術 [6]より抜粋

「海水温度差発電」の特徴は、石油によって高温高圧の蒸気にするのではなく、海の表面温度程度の低温で蒸発するアンモニアを媒体として使っている点、そして、蒸発したアンモニアを冷却し液化するのに冷たい深層海水を使用しながら循環させている点である。
これだと、約20℃差分のエネルギーしか取り出せず(最新の火力発電の熱効率の1/10程度、標準的な火力発電に比べても1/5以下)低い効率ではあるが、海の表面で温められた太陽エネルギーを利用した“低密度”エネルギー利用技術なのである。
●現状の「海水温度差発電」プラントの問題点とは?
循環系を良くみてみよう。表層温水を汲み上げるための「温海水ポンプ」、深層冷水を汲み上げるための「冷海水ポンプ」、そして、圧力を生み出すための「作動媒体ポンプ」と、概念ではあるが三つの動力が組み込まれている。(赤丸部分)
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そもそも原理的に“低密度”のエネルギーを生むシステムの中に、三つの動力分のエネルギーが消費されるわけだから、全体的なエネルギー収支を見ると本来的なエネルギー循環が行われているわけではない。(むしろマイナスになっているのではないだろうか?)
では汲み上げるまでもなく、海底で冷却すれば良いのでは?と思う人もいるかもしれない。
しかし、冷却されて液化したアンモニアを上部の蒸発器まで持ってくることが、自然状態では不可能(蒸気だったら自然に上に昇るが)なので、どちらにしても圧力(=外部からのエネルギー)が循環系内に必要になるのだ。
●「海水温度差発電」に見る循環型エネルギー技術を読み解く視点
上記に上げた“問題点”であるが、「結局、エネルギーを使うのだから意味がない!」と言う人、または、「“低密度”エネルギー利用は「(石油に比べると)効率は悪いので、現実的(=経済的)では無い」と言う人もいるかもしれない。
実際日本では、1995年から内閣府のエネルギー戦略レポートの中で、中長期戦略プロジェクトとして取り上げられたが、いまだ研究開発の域をでないこと、経済的には見合わないということから、「新エネルギー」の定義から外れている。
しかし、前提にも上げたように、
”石油”というのは本来特別な燃料であって、実はそれ以外の「新エネルギー」というのは全て”低密度”エネルギーなのだ
だから、燃料は全て、太陽から随時に得ることのできる、「“低密度”エネルギーの利用」になるのは必然的で、次に考えるべきは、「その”低密度”エネルギー生産形態とバランスする消費形態をどうするか?」という課題である。
金融破たん以降の市場縮小過程に入った現状からも、消費形態の変化(「市場拡大のためのグローバリズム」から「地産地消」の域内消費)に伴って、生産形態も徐々に“低密度”エネルギーの生産形態(≒自然循環)に合わせていくのがよっぽど『現実的』だろう。
であればこういった先行して開発されてきている“低密度”エネルギー技術の中から、これからの社会に“本当に必要になる”技術を見極めていく必要があるはずだ。
(是非、研究者の方々にはその視点を忘れてほしくない)
今回の「海水温度差発電」であれば、前提となる“低密度”エネルギー利用技術であること、そして「地産地消」のエネルギー生産が可能になる(海岸部に限られるが)ことなどを見ると、まだまだ研究の余地(=可能性)はあるのではないだろうか。

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