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シリーズ新エネルギー⑦『石油を原料とする化学製品はどうなる?-循環型リグノフェノール複合材料の可能性』

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画像は『株式会社 アイビック』 [1]さんよりお借りしました  
      
新エネルギーについて考えるとき、燃料としての石油に代わる何か、という着眼点が一般的だ。しかし、石油からは燃料以外にも、プラスチックなどの高分子化合物も抽出、加工している。この原料は、原油の6%ほどのナフサと呼ばれる成分だ。
   
ここで、身の回りを見てみると、この石油製品の含まれていないものを見つける方が困難なくらいだ。それは単に家電製品のようなものだけではなく、車・医療器具・メガネレンズ・コンタクトレンズ・衣服・家具・風力発電の風車まで、現在社会を支えている物はすべて、この石油製品に支えられているといっても過言ではない
   
今回は、石油由来のプラスチック製品等に替わる技術を紹介しよう。
   
内容は『緑ループ』 [2]を参考に編集した。
   


まずは、
    
☆☆☆プラスチックはどれくらい使用されているのか?
     
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画像は『プラスチック図書館』 [3]さんよりお借りしました
   
生産量は、約2億2400万t/年。1秒に約7t。国別に見ると、一人が使うプラスチックの量が多いのはベルギー、アメリカ、ドイツで、日本は11番目になる。日本では、1960年には、1人が1年間に使うプラスチックの量が約5.8㎏だったが、2000年には91.4キログラムと、40年間に16倍にふえている。
     
    
☆☆☆石油が手に入らなくなったらプラスチックはどうする?
     
現在は、燃料抽出の際の副産物を利用しているため、極めて安価に高分子化学製品が供給されていて、環境問題(ゴミ問題)の一つにもなっている。しかし、もしこれが簡単に手に入らなくなると、あらゆる産業も生活も大打撃をうける。このような状況にありながら、これらを自給できるのか?という重大な問題は今まであまり議論されていない。
     
そこで、プラスチックのような高分子化合物は石油からしか取れないのか・・・という単純な疑問から入ってみよう。
     
実は植物からも取り出せるのだ。順を追ってみていこう。
   
    
☆☆☆植物は太陽光エネルギーを使って、炭素と水素の化合物を合成する工場
       
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植物は二酸化炭素と水を原料とし、太陽光エネルギーを使って、炭素と水素の化合物に合成する工場だ。つまり、空気中の二酸化炭素と根から吸い上げた水で、自分の体となる材料(=木材)を合成しているのだ。そのため、樹皮や葉っぱなどの木の表面以外(セルロースなど)は、二酸化炭素と水の構成原子である、H・C・Oだけで出来ている。
   

光合成の模式図
画像は『be Well』 [4]さんよりお借りしました

    
    
☆☆☆石油由来のプラスチックの構成材料は、現在と同じ植物生命が合成した炭素と水素の化合物
    
石油も石炭も、その原料は植物生命が合成した炭素と水素の化合物からできている。これらと、現在の植物との違いは、何億年(石炭なら何千万年)もかかって、人間が利用しやすい形に分解されたということだけだ。この分解にも、太陽エネルギーや地熱などの自然エネルギーが使われている。
     
このように、高分子化合物(≒プラスチック)原料である石油と現在の植物の構成材料はほぼ同じものだということが分る。だから、石油から取れるプラスチックは人工的・化学的に人間が作り出した物と考えてしまうのは単なる先入観なのだ。
     
実態は、生物の合成した分子をうまく加工しているだけなので、木材資源から分子構造をそのままにして分離できれば、現在の植物からも高分子化合物(≒プラスチック)は出来るのだ
    
    
☆☆☆地球上の有機物質資源として、もっとも大量に蓄積しているリグニン
          
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リグニンの推定構造
画像は『研究の森から』 [5]さんからお借りしました

     
樹木の主要化学成分は「セルロース」「リグニン」「ヘミセルロース」であり、全成分の約95%を占めている。セルロースは、細胞壁の主要部分に存在し、樹木を支える役割を果たしている。リグニンは、特に細胞間に高濃度で存在し、細胞壁と細胞壁をくっつける役割を果たしている。ヘミセルロースは、セルロースと同様に、主に二次壁部分に存在する。
     
このうちリグニンは、地球上の有機物質資源として、もっとも大量に蓄積している。しかし、木材そのものを使う以外は破棄されていた。だから、リグニン製品は皆無だったのだ。例えば、パルプ製造も、木材からリグニンをバラバラに破壊して取り除いたあとのセルロースを使用する。『バイオエタノール』 [6]を作る際も同じような過程を踏んでいる。
     
    
☆☆☆リグニンを丁寧に分離する技術
     
120-11.jpgリグニンを取り出す原料は、おがくず、廃材、新聞紙などで、分子構造がそのまま残っていれば、旧くても小さくても何でもよい。新聞紙はパルプの様に思われているが、実は薄くスライスした木片の集まりのようなものだ。これらを、ある媒体液で包み込み、酸溶液の中に入れて攪拌するだけで、糖とリグニンに分離できる。

粉末状のセルロース(左)とリグニン(右)
画像は『研究の森から』 [5]さんからお借りしました

       
このとき極めて複雑分子構造のリグニンは、すこし分解されてリグノフェノールという化学的に変換容易な安定した分子になっている。このような実証実験がすでに三重大学で行われている。
     
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三重大学大学院生物資源学研究科・生物資源学部(実証プラント) [7]

    
         
☆☆☆リグニンから出来る製品
     
この化学物質から出来る可能性がある製品には、
          
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・循環型リグノフェノール系プラスチック
・循環型リサイクル複合材料 (バイオエステル系無機材料)
・各種ポリマー
・接着剤
・電磁派シールド材
・分子分離膜
・フォトレジスト
・紫外線防御フィルム
・リグニン太陽電池。

三重大学大学院生物資源学研究科・生物資源学部
(循環型リグノフェノール―セルロース複合材料)

 
など、石油化学製品と近似している。かつ、まず木材を原料とした製品が先にあって、その使用後に分子を少しずつ小さくしながら段階的に加工利用することが可能になる。そして最後は燃焼により炭酸ガスとして大気に返すというサイクルができる。
    
     
☆☆☆森林資源を取り込んだ持続可能な化学工業
     
この技術に注目する理由はもう一つある。それは、持続可能な生産を可能に出来るからだ。つまり、植物が太陽エネルギーを利用して生産した『部分』だけを消費するので、土壌がやせることは無い。循環する葉っぱと樹皮の部分は森から持ち出さなければよい。
     
あとは、植林再生の時間に合わせて生産・消費サイクルを作ればいい。つまり、太陽エネルギーを利用して植物が生産するサイクルに合わせた、生活と生産のスタイルを創出すればいいことになる。これは江戸時代を分析した『日本は植物国家』 [8]の内容そのものだ。しかしそれは、単に江戸時代に帰れということではない。
     
植林→木材利用→一次的プラスチック製品利用→二次的プラスチック製品利用・・・燃焼して二酸化炭素と水に戻す。それを植物が吸収合成して新しいサイクルが始まる・・・
     
という、現在の木材利用より長い段階的サイクルが成立し、かつ化学製品も生産できる。これはエネルギー生産と消費をどのようなバランスで行っていけばよいかという課題でもある。現在使われている指標として『EPR』 [9]などがあるが、どれも経済的換算値であり、エネルギー循環再生指標ではない。
では、どのような指標が必要なのか?が次の課題になる。これを次回扱おう。

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