日本は資源に乏しく、エネルギーは輸入に頼み。これを、自給できるようになれば日本は大きく変わる。それは、過剰消費が続けられるという意味でない。なぜならば、1970以降、日本は物的飽和状態にあり、今不足しているのは物ではないからだ。にもかかわらず、市場拡大絶対という誤った観念のため、国債を投入して無理やり経済成長を続けてきた。その結果が現在の国債残高であり金融破綻なのだ。
よって、これからは物的需要を越えたところに、新たな需要を創出し、活力のある社会を再生しなければならない。つまり市場原理からの脱却だ。ところが、このままエネルギーを外国に依存したままだと、世界を取り巻く市場主義者の思惑が、脱市場の新しい社会の創造の障害になる。また、経済破局のような事態になれば、貿易停止で日本社会は大打撃を受けてしまう。
この情況を回避し、活力のある新しい社会を実現するためには、他国に依存しないエネルギーの確保や、食料の自給は重要な課題となる。このような意味で、シリーズで新エネルギー取り上げる。今回その第一弾として、
『石油、石炭もういらない!? マグネシウム・エネルギー社会 東工大教授が提言』 [1]を紹介する。

画像はWIRED VISION [2]さんよりお借りしました
東京新聞のWEB版(2009.5.12)に、石油・石炭を使わずしてエネルギーを生産する [3]という衝撃ニュースがあったので転載します.
太陽光と海にほぼ無尽蔵に含まれるマグネシウムを使って、石油も石炭も天然ガスもいらない持続型エネルギー社会を実現する…。そんな「マグネシウム・エネルギー社会」の構築を提案している矢部孝東京工業大教授に、ベンチャー企業から自動車会社、さらにはオイルマネーまで世界中から問い合わせや見学が殺到している。実証実験も順調に進んでおり、これはひょっとすると、ひょっとするかもしれない。 (引野肇)
【クリーンで無尽蔵】
高温のマグネシウムに水をかけると水素が発生する。さらに高温にすると、この水素が爆発的に燃えて再び水となる。水素を使えば燃料電池の燃料になるし、爆発力を利用すれば発電機を動かしたり、自動車のエンジンに使える。
このシステムは二酸化炭素も窒素酸化物も出さずクリーンだし、太陽光、水、マグネシウムは無尽蔵だ。矢部教授は「海水には千八百兆トンものマグネシウムがある。石油に換算すると三十万年分にもなる」と言う。
【夢の循環システム】
矢部教授が提唱するマグネシウム・エネルギー社会はこんなイメージだ。
海岸に建設された淡水化・マグネシウム精錬プラント。屋根には太陽に向かって大型プラスチックレンズが並び、精錬に必要な高温を作り出している。ここで海水から農業用水を生産する一方、海水に含まれる大量の“にがり”から金属マグネシウムを取り出す。
生産されたマグネシウムはトラックや船で、各地の発電所や家庭、コンビニなどに運ばれる。発電所では、マグネシウムを石炭代わりに燃やす。家庭に運ばれたマグネシウムは燃料電池の燃料として家庭用電源となる。燃料電池の排熱は、風呂や暖房に使われる。コンビニで売られているのは真空パックに包まれたマグネシウム。これは燃料電池車やパソコン、携帯電話などのバッテリー補充用マグネシウムだ。
マグネシウムは使い捨てではない。使用後の酸化マグネシウムは、回収車によってリサイクルセンターに集められ、精錬プラントにあるのと同じ「太陽光励起レーザー」で再び金属マグネシウムに変換される。
【太陽光レーザー】
現在、マグネシウムの精錬は、鉄とケイ素の合金を触媒に大量のエネルギーを投入して行われる。マグネシウム一トンを製造するのに石炭十トンを使う。こんなにエネルギーを大量消費しては、マグネシウム・エネルギー社会など成立しない。
矢部教授が提案するのは、大型レンズで集めた太陽光を、イットリウム、アルミ、ネオジム、クロムのセラミックによって赤外線レーザーに変換し、さらにレンズで集光して約二万度という高温を実現。この高温でマグネシウムを精錬しようというのだ。
このため矢部教授は二年前、北海道千歳市に太陽光励起レーザーの実験施設を作った。二メートル四方の透明プラスチックレンズで集光、その焦点にセラミックのレーザー素子を置いた。ここでの成果に自信を得た矢部教授は、実際にマグネシウムの精錬を行うため今年、沖縄県・宮古島に大型の施設を建設する計画だ。
【安全な燃料電池】
現在、世界中で水素を使った燃料電池車の開発が進められている。コストの問題もさることながら、軽くて漏れやすく、爆発しやすい水素をどうやって運ぶのかという大問題がある。七百気圧の高圧ボンベに詰めるとしても、ボンベはあまりに重い。
一方、マグネシウムなら六百五十度以下では発火しないし、長期保存も簡単。「マグネシウムは石炭と同じ固形燃料と考えていい。マグネシウム燃料電池は、いまのリチウムイオン電池の約七・五倍の重量当たり出力がある。コンビニで真空パックのマグネシウムを買い、電池に差し込めば一回の充電で千八百キロくらい走る」と矢部教授はいう。
【実験で裏付け】
マグネシウム・エネルギー社会がもし実現したら、火力発電所も原子力発電所も核融合炉もいらない。ガソリンスタンドも石油タンカーも不要だ。矢部教授にその実現性を聞くと「百パーセントこれは実現する。すべて実験の裏付けがあり、何も失敗するところがない」と、自信満々の言葉が返ってきた。
マグネシウムの特徴としては
①海水中に無尽蔵にあること。
海水中には1800兆トンのマグネシウムが含まれている。
②常温では反応しないため安全で持ち運びが可能なこと。
水素もガソリンも常温で反応してしまう。
③650℃程度の温度で水と反応し反応熱及び水素を発生すること。
マグネシウムの水和反応 Mg+H2O→MgO+H2+86kcal
水素燃焼分は56kcalになるので、全体で144kcal/モル
重量あたりの、水素燃焼も加えた反応熱は25MJ/kg
これは石炭の燃焼熱30MJ/kgとほぼ同等。
④反応後は安定して自然界に存在する酸化マグネシウムになる。
精錬過程と同じ方法で再生できるため、石油のように浪費するだけではないこと。
実用化に向けての課題としては、
①精錬や再生過程のエネルギー効率を上げること。
②そのためのレーザー技術の高度化が必要。
というところのようだ。
これらを、マグネシウムという材料とレーザーとの複合システムと捉えてみると、特徴が良くわかる。
《矢部孝氏のレビュー論文:マグネシウムとレーザーを用いた再生可能エネルギーサイクルを参考に作成。》
システムの特徴① 変化する自然エネルギーの貯蔵が可能になる。
太陽光発電などの変化する自然エネルギーの利用には、必ずエネルギーの貯蔵システムが必要になる。発電時間帯と電力需要の時間帯は異なるからだ。たとえば、晴れた昼間に発電した電気は、どこかにためておかないと夜間には使えない。そのための蓄電池は太陽光発電パネルより高価で、規模が大きくなると大爆発に危険性さえある。
それに対して、太陽光励起レーザーを用いたマグネシウムの精錬(還元)過程そのものが、自然エネルギーを貯蔵していることになる。あとは、必要に応じてエネルギーを取り出せばいいだけになる。これは、一日の変動だけでなく、夏と冬の地球上での太陽エネルギーの差を平準化することにもなる。
システムの特徴② 植物の葉緑素のような反応でCO2の削減が可能になる。
CO2の削減が温暖化にどうのような効果があるのか懐疑的だが、これがエネルギー浪費対策の一つの指標になることは確かだろう。通常の生産ではCO2発生の方向の反応ばかりだ。これと逆の反応として環境を維持しているのが、植物の太陽エネルギーによって炭酸ガスを吸収する反応だ。
この反応と酷似した反応をマグネシウムは示す。反応によって生成した酸化マグネシウムは炭酸ガスを吸収し、炭酸マグネシウムとなって固定化される。
以上が大きな特徴だ。
これらの技術は着々と進化を遂げているようだが、問題点もある。それは、ここにも市場の影が忍び寄っていることだ。現在行われている大規模な実証実験は、日本の国家補助金ではなく、外国企業による投資で実現されている。当然、実用化の暁には、外国資本の影響をうけることになるだろう。
先に書いた様に、これからの技術は単に市場の覇権をにぎるために必要なのではなく、脱市場という文脈の中で、本当にそれを必要としているところに提供すべきだと思う。そのような意味で、このように重要な技術開発は国家支援の下に行われるのが本来の姿ではないかと思う。
世界は、石油文明からマグネシウム文明へ(1)上 [4]
世界は、石油文明からマグネシウム文明へ(1)下 [5]
世界は、石油文明からマグネシウム文明へ(2)上 [6]
世界は、石油文明からマグネシウム文明へ(2)下 [7]
世界は、石油文明からマグネシウム文明へ(3) [8]