[アポトーシスを起こす細胞 [1]]
人口問題シリーズ「【人口問題】2~本能態の単一種が増殖し続ける事はない~」 [2]では、本能動物は、個体数密度が高くなりすぎると、餌の確保や生殖が困難になるという環境適応の限界を迎えるため、個体数が増加し続けることはないということを書きました。
つまり、「生きられる環境と餌は無限にはないため、個体数は無限には増えない」という、
感覚的に理解しやすい内容だったと思います。ただ…なんかモヤモヤする …いまいちスッキリできないのは何で:o?!
ということで今回は、「ひょっとすると、生物は個体数を調節する為に自殺してるんではないか?個体数を調節する機能が本能として備わっているのではないか?!」という、ミクロな視点からの分析として、アポトーシスという機能に着目してみようと思います 🙂
アポトーシスって何?
「アポトーシス」(apoptosis) とは、多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺すなわち「プログラムされた細胞死」(狭義にはその中の、カスパーゼに依存する型)のこと。
(他に、「遺伝子に支配されたプログラム細胞死」http://www.fucoidanya.com/apo.htmや、「細胞の自然死(自発死)」http://www.naoru.com/apoto-sisu.htmと定義されているサイトもあります。)
Apoptosis の語源はギリシャ語の「apo-(離れて)」と「ptosis(下降)」に由来し、「(枯れ葉などが木から)落ちる」という意味である。
アポトーシスの具体例
①生体変異システムとしてのアポトーシス
おたまじゃくしがカエルへ変態する時に起こる尾の吸収や、指間の細胞を除去しながら胎児の手足の指が形成されるように、成長過程でプログラムされたもの。
②生体維持システムとしてのアポトーシス
免疫細胞(白血球)がウイルス感染した細胞やがん化した細胞を死滅させるためのものや、紫外線や活性酸素によってDNAが損傷した細胞が自滅するなどの生体維持(防御)のために日常的に働くもの。
①はプログラム(DNA)に異常が無い限り、あらかじめ決まった時期、決まった場所で正確に働くため「プログラムされた(計画的)細胞死」というのがしっくりきますが、②は生態が持っている免疫細胞による日常的な防御システムであるため、「プログラムされた」というには違和感があります。一般的には①と②の両方ともアポトーシスとされているようですが、ここでは②のアポトーシス、つまり生体維持システムとしてのアポトーシスに着目してみようと思います。
今回は、この生体維持システムとしての細胞のアポトーシスが、生物の個体数維持(調整)にまで関わっているのではないか?!という疑問の解明に挑戦してみたいと思います
まず基礎知識として、「アポトーシスのしくみ」をどうぞ
いつも応援ありがとうございます
アポトーシスのしくみ
細胞内にある不活性状態のカスパーゼ(線虫から哺乳動物にいたる多細胞生物に存在するたんぱく質)と呼ばれるたんぱく質を分解する酵素の一種が、アポトーシス誘導刺激に反応して活性化することで、細胞を内側から分解し細胞死が導かれます。(分解された細胞は、免疫細胞であるマクロファージが食べてきれいに掃除してくれるため、他の細胞の働きを邪魔することはありません。)
ほとんどのアポトーシスは、このカスパーゼの活性化に依存して誘導されるものであることが分かっており、次の2種類の経路があります。
①ウイルス感染細胞の外部シグナルにより起こるアポトーシス(免疫細胞による感染細胞の他殺)
・細胞のウイルス感染→ウイルス感染した細胞の死のシグナル受容体(FasおよびTNF受容体)が免疫細胞(NK細胞、細胞障害性T細胞)からの死のシグナルを受容する→ カスパーゼ活性化→細胞を分解→細胞死
②内部損傷した細胞の内部シグナルにより起こるアポトーシス(損傷した細胞の自殺)
・紫外線や活性酸素などによる細胞のDNA損傷 → ミトコンドリアの外膜上のBcl-2というタンパク質が外膜に孔を開けるBaxという関連タンパクを活性化 → ミトコンドリアからシトクロムcの漏出 → カスパーゼ活性化→細胞を分解→細胞死
このように、不要な細胞がアポトーシスすることで、他の細胞間の情報のやり取りが維持され、私達の生体が維持されるのですが、不要な細胞のアポトーシスが阻害されたり、アポトーシスしすぎる(増殖する数より死ぬ数が多くなる)と生体が維持できなくなることが分かります。これが病気なのです。
病気といえば以前は,ある種の細胞が死んで働かなくなることが最終的な原因と考えられていましたが、現在では細胞の増殖と分化、そして死のバランスが崩れてしまうことが「病気」と理解されています。
我々の生命を脅かす病気には種々ありますが、主にアポトーシス機構の異常が関与していることが分かっています(糖尿病、虚血性疾患、神経変性疾患(痴呆やパーキンソン病)、癌、ウイルス感染症、エイズetc.)
このうち、ガン、自己免疫疾患、ウイルス感染症などはアポトーシスがうまく起こらないがために発生する病気です。逆にエイズはアポトーシスが不要に起こるがために起こる病気といえます。
では、なぜこのような病気にかかってしまうのでしょうか?
ストレス(外圧)を受けると、それに適応するためのエネルギーを作り出すために交感神経が刺激され、副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)が分泌されます。このホルモンを形成したり、分解するときに活性酸素が発生します。活性酸素は、酵素の働きを促進したり、細胞内の情報伝達のメッセンジャーになったりします。また、白血球でも作られ、体内に入った細菌を殺すなど、生体には必要不可欠なものですが、過剰になると、老化や病気の原因になる有害なものになります(上記アポトーシスの経路②においても、活性酸素による細胞のDNA損傷がアポトーシスを誘導させることを書きました)。
ウイルス感染は、ウイルスに対する免疫がなかったり、免疫力が低下しているときに起こるものですが、免疫力の低下は環境への適応不全によって引き起こされます。
ストレス(外圧)による活性酸素の発生は、動物全般に共通するしくみです。
以上から、前回の投稿「【人口問題】2~本能態の単一種が増殖し続ける事はない~」をアポトーシスの観点から解明すると、生物は、アポトーシスによって個体密度上昇による適応限界に対する3つの適応経路を持っていることがわかります。
A…活性酸素を増産させ、運動機能を進化させて生活圏を拡大させる経路。
B…できるだけ短時間で個体の適応度を高めた上で、死に導き、世代交代のスピード=DNA変異を加速させ、適応範囲を拡大させる経路。
C…適応するためのエネルギーを作り出すため、活性酸素を増産した結果、細胞が傷つき、アポトーシスすることで、個体数が減り、個体密度が解消され、一定の個体数を保ちつつ、種を存続させていく経路。
以上を図解化すると、以下のようになります
個体密度上昇 → 環境への適応限界(適応不全)⇒ 根源の適応回路による可能性探索 ⇒活性酸素の増産
→運動機能の進化→生活圏拡大→密度解消…A
→細胞×→病気→死→DNA変異加速→新しい適応機能の獲得→適応領域拡大→密度解消…B
→細胞×→病気→死→密度解消…C
生体を維持させる為に、正常に機能しなくなった不要な細胞を排除するというアポトーシスの機能が、生体を死に導く機能にもなっている。
一見矛盾するような機能が、「一時的に個体を減らすことで、個体数を調節し、種を存続させる」という一見、消極的にも捉えられる生物の適応方法になっていたのですね:D
<参考サイト>
【アポトーシスに関するサイト】
・細胞の生死を制御する [1]
・アポトーシスのメカニズム [3]
・アポトーシスを考える [4]
・「免疫細胞の起源?(仮説)」 [5]
・「免疫とアポトーシスと癌」 [6]
【活性酸素に関するサイト】
・老化やがんの発生に深くかかわる 活性酸素 [7]
・活性酸素 体の酸化・老化による病気や症状 [8]