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水が危ない!?②・・・・・・水資源の枯渇~地下水利用の現状

先日、「水が危ない!?・・・・・・ミネラルウォーターが売れるのはなんでだろう?」 [1]で、市場化された飲料水が取り上げられていましたが、近年では世界的な「水資源の枯渇」が危惧され、飲料水に限らない水資源を巡る市場もクローズアップ されてきているようです。
「日本の水資源と水利用の現状 1.列島の水資源」 [2]によると、我々は世界中で地下水を含めても全地球の0.8%程度の淡水しか利用できないようですが、水不足に汲々としていない我々日本人にはこの「水資源の枯渇」自体なかなかピンときません。
でも、水資源の量でみると日本も世界的には決して豊かな訳ではないのです。
・世界における年間一人当りの水資源量
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日本水産株式会社_ニッスイアカデミー_役立つデータクリッピングから引用 [3]
世界的な「水資源の枯渇」
上の図中の各国に差があるように、水資源は地域差や季節変動を伴う降雨量、河川の経路や流量、偏在する地下帯水層の容量等から、他の資源同様偏在する資源です。しかし、一方で海に流出した水も雨として循環し、再生する資源でもあります。
また、地球規模で見れば人間が毎年取水している量は最大限利用可能な水資源賦存量の10%程度、耕地からの蒸発散量は全陸地からの蒸発散量の30%程度と、利用可能な淡水自体が枯渇しているわけではありません。

ですから、現状「水資源の枯渇」は、本来偏在する水資源賦存量を超えた取水という地域的な問題ではあっても、世界的な問題にはならないはずです。
にも拘らず「水資源の枯渇」が地域を越えて浮かび上がっている要因の一つが、世界的な食糧生産。食糧生産地の偏在・食料の流通が水資源の偏在・循環とズレを生じ、生産地の水資源不足が人口が増加する一方の世界的な食料生産の危機に繋がるという問題です。
世界の水資源使用状況
・世界の水資源の使用状況(2001年)
%E4%BD%BF%E7%94%A8%E7%8A%B6%E6%B3%81.JPG日本水産株式会社_ニッスイアカデミー_役立つデータクリッピングから引用 [3]
世界的には農業・工業で水の9割が使われ、そのうちの7割を農業が占めています。
この50年で人口は2倍になり、取水量は2.6倍に跳ね上がりました。単純に考えると農地が拡大しそうなものですが、新規開拓の困難さなどもあり、増大した人口を養う食糧生産は灌漑等による生産効率の向上という形で賄われ、耕地面積自体は1割程度しか増加していません。
天水農業は勿論、灌漑を行なうにしても地域に毎年循環する水を利用している限りは、変動はあれ現在言われるような「枯渇」は起きません。
非常に緩やかな循環で再生する帯水層の「地下水」の利用が、毎年その地域から流出する水以上の水利用を可能し、同時にその水瓶の涵養量(溜まる量)と取水量の関係が「枯渇」の問題を浮上させているのです。
この地下水の現状はどうなっているのでしょうか?
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地下水の現状
・世界の水量と滞留時間
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国土交通省 今後の地下水利用のあり方に関する懇談会から引用 [4]
上図のように地下水は涵養量を超えて用いれば、世代を超えた年月でしか復元しない有限といってもいい水資源で、涵養量が著しく少ない地下水は化石水とも言われます。
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農林水産省 世界の水資源とわが国の農業用水についてから引用 [5]
図中の中東の国々は地下水への依存度が高く、食料生産上既に水資源は危機的な状況にあり、輸入が欠かせない状態です。一方、同じ図中に出てくるアメリカのオガララ帯水層と中国の華北平原は世界的な規模の食糧生産に関る生産値に関係する代表的な帯水層です。
・オガララ帯水層
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農林水産省 世界の水資源とわが国の農業用水についてから引用 [5]
アメリカは世界の穀物の16%を生産する最大の輸出国で、オガララ帯水層が関連する8州でアメリカの15%の小麦を生産しています。現在オガララ帯水層への年間の涵養水量6~8Km3に対し、 年間の揚水量が22.2Km3 と3倍の量を使用しており、同帯水層を水源とする農地には、近年水位が30mも低下した場所の報告もあり、いずれ枯渇することが危惧されています。
・華北平原
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千葉大学環境リモートセンシング研究センター資料から引用 [6]
中国では、元々降雨量が多かった南部の農地が南部の工業化と共に北上し、半乾燥地帯の華北平原で多くの穀物を生産しています。帯水層からの取水量は先の収支表では涵養量以下ですが、水位の低下は毎年報告され、80年代には毎年1.5m程度の低下だったペースも近年毎年3m程度まで加速し、かなりの深度から取水しなければ水量が確保できない状態にあります。また、塩類集積の問題や水位低下からの取水コスト増による生産の行き詰まりが、取水量の増大と共に問題化している状況です。
こうして見てみると、地下水を水源とする農業に依拠する限り、いずれ水資源を使い果たして食糧自給が不可能な国が増えたり、現在の利用状況を維持し、或いは今後の人口増に対応して取水量を増やすことで、世界の大規模な食糧生産地が水資源の枯渇の影響を受ける事は間違い無いようです。
しかし、ここで改めて気になるのはそれが本当に文字通りの「水資源の枯渇」の危機なのかどうかです。
アメリカでは現在オガララ帯水層に関る8州の合計で約520万ha程度がその地下水で灌漑をしているとされていますが、それは全米の栽培面積の約5%に過ぎず、全米で見れば生産調整なども行われているようです。また、全世界的には灌漑面積は全体の20数%でもあり、全世界的に食糧生産力向上の余力を失ったのだとも言い切れません。
既に水資源の不足から十分な食糧生産が不可能な国も存在し、使用状況から今後も発生するとは思いますが、現在の食糧生産や市場のあり方に拠らずに考えれば、「水資源の枯渇」は絶対絶命といったものではなく、世界的な運用の仕方で解決できる可能性がまだあるように見えます。
食糧生産自体、水資源の量の他、水質汚染、塩類集積等の農地の劣化・砂漠化等の問題もあり、安穏としていられない状況ではあります。しかし、一方で「水資源の枯渇」~「食糧危機」は市場拡大を絶対化した価値観や、既存の権益保持を前提とした食糧生産・流通計画、水資源開発の方向性によって引き起こされている人為的な側面が非常に強いとも感じます。

今後、現在の水資源利用状況を固定的に捉えて危機が叫ばれると、例えば食料とともにその生産に使う水資源を輸入に頼る一方、地域的には水資源で困窮していない日本などは国際的な批判にさらされる可能性すらあります。
しかし、「水資源の枯渇」がCO2排出権の様に実態と乖離した、だまし討ちのような権益を産む危機ネタに留まることが無い様、絶対量は足りながら偏在する水資源利用の実態把握や、その可能性のある配分・利用方法の可能性を事実に即して冷静に見出していくことが必要です。そしてその過程ではこれまでのような消費を是とする市場社会からの脱却は避けられないと思います。

水問題の位相が整理されたお勧め投稿
「水が枯渇する!」って、どういうこと? [7]
参考
地球表層の水循環・水収支と世界の淡水資源の現状 および今世紀の展望:沖大幹氏・鼎信次郎氏 [8]
世界の水資源と農水管理について:石井優氏 [9]
水資源と世界の食料生産:川島博之氏 [10]

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